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2005/05/04

言葉のインフレ

最近気にかかっている言い回しに 「是非是非」 というのがある。「是非おいでください」 と言えばいいところを 「是非是非おいでください」 などと言う。

「是非」 を強調したいなら 「是非とも」 という言い方がある。「是非是非」 というのは 「なんだかなあ」 という気がする。

業界関係のパーティなんかで、いい年をして 「次回のイベントにも、是非是非おいでください」 なんて、もみ手しながら挨拶するオッサンがいるが、ほとんどの場合、いかにも喧嘩が弱そうな印象である。びしっとしないのである。

「是非是非」 と繰り返すのは、多分、テレビ・ラジオの電波系から広まったのだと思う。少なくとも、活字系ではまずこんな繰り返しはしない。軽薄な印象はこんなところから来るのだろう。

しかし、最近ではウェブサイトが 「是非是非」 という言い回しに浸食され始めている。試しに Google で検索してみると、「是非是非」 が約 435,000件、ひらがなの 「ぜひぜひ」 に至っては、約 1,040,000件ヒットした。合わせて 150万件近い。

ざっと覗いてみたところ、用例で圧倒的に多いのは、「ぜひぜひコメントしてね」 という類である。すごいなあ。私ならコメントを書いてくれと頼むのに 「ぜひぜひ」 なんて図々しい言い方はできない。せいぜい 「よろしければ」  ぐらいのところだ。

ところで、「是非」  というのは名詞としての意味と副詞としての意味の二通りがある。名詞としては、 「良いことと悪いこと」 という意味があり、「ものごとの是非をわきまえる」 なんて使い方をする。

ここで問題にしているのは、副詞としての用法で、「どうしても」 という意味である。本来の意味は 「是が非でも」 ということだった。「良いことが悪いことにひっくり返るぐらいのことがあっても」 ということで、要するに、「何がなんでも」 という意味だ。

そのくらいに強い意味なのに、「コメントしてね」 程度の希望に、それを二度も繰り返さなければならないほどの必然性があるとは、どうしても思われない。

近頃は、単に言葉にリズム感を加える程度の軽い意味で 「是非是非」 が使われているようだ。甚だしくは、「是非」 という普通の言い方ができなくなって、ほとんどオートマチックに 「是非是非」 になってしまう人もいる。

言葉に込められた意味が、どんどん薄まってきている。言葉のインフレである。人間は言葉で考えるから、それは思考のインフレでもある。煎じ詰めれば、頭の中身が安っぽくなってきているのである。

言葉のインフレにブレーキをかけるためにも、私としては 「是非是非」 は使いたくないと思っている。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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言葉」カテゴリの記事

コメント

目にする耳にする言葉が急速に薄っぺらになって、そのなかで自分の持つ語彙や表現も
薄められ続けているような心もとなさ、そのモヤモヤをスーッと文字に落ち着けてもらった
爽快感がありました。なるほど、言葉のインフレ!
今日はじめて訪問したサイトですが、これからマメに拝見させて頂きます。

投稿: banana | 2005/05/05 20:14

banana さん

すみません。コメントに気付くのが遅くて、レスも遅れてしまいました。

言葉はデフレになるのも重苦しいですけど、インフレは気になりますね。

投稿: tak | 2005/05/15 22:50

夫の仕事の都合で現在ブダペスト在住でして、月曜の祝日を利用してプラハに旅行に出ていました。コメント返して下さり有難うございました。ことばとチェコの2語で思い出されるのが、英語教室に参加した折、ハンガリー人から口々に「中国語と日本語は、チェコ語とスロバキア語程度の違いなんでしょう?」といわれたこと。ハンガリー人は日本についてまだアメリカ人ほど知識が豊富じゃないので仕方ないのですが。それにしても、今日の暦の話、欧州人と日々接しているなかで大変興味深く読ませていただきました。今後も目が離せません。季節の変わり目は気温が安定しませんが、ご自愛のほどを。ではでは。

投稿: banana | 2005/05/18 15:03

banana さん:

いいですね。東欧は、私が今一番行ってみたいところです。

>ハンガリー人から口々に「中国語と日本語は、チェコ語とスロバキア語程度の違いなんでしょう?」といわれたこと。

日本語の中でも、スペイン語とポルトガル語以上の違いがありますからね。(津軽弁と鹿児島弁なんか)

投稿: tak | 2005/05/20 00:13

とてもウケました。最近の時代劇は標準語化しすぎといわれているにもかかわらず、昨年の新撰組を見ながら「鹿児島のことばって、外国語みたい。味があるなぁ」と思ったり、「おしん」の再放送をみて「山形の言葉って味があるなぁ」と思ったり。ハンガリー人も若い世代は割と謙虚です。このクラスはたまたま40代以上が数名いて、このうちのひとりに「胸の前で合掌するでしょう、ありがとうの挨拶」と自信満々で言われたときはビックリしてしまいました。仏教寺院とビキニを読んで不意に思い出しました。(笑)丁寧にご返信いただいて恐縮です。有難うございました。

投稿: banana | 2005/05/23 21:43

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