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2005/11/12

「女王」 は 「じょおう」 か 「じょうおう」 か

あらら姫さんの日記 (参照) を読んで、「女王」 に 「じょおう」 「じょうおう」 の二通りの読みがあることを知り、驚いてしまった。

あらら姫さんは 「じょうおう」 だと思いこんでいたようだが、私は 「じょおう」 以外の読みがあるとは想像も付かなかったし、他人の発音が 「じょうおう」 と聞こえたことすらない。

このことは、二つのポイントを含んでいる。

一つは、人間の聴覚というのは、かなりいい加減なものだということだ。あらら姫さんは " 「う」 のない 【じょおう】 なんて聞いたことも見たこともなかった" と書いておられるが、同じ日本に暮らしている私の意識としては上述の通り、「じょうおう」 という発音を聞いたことがないのである。

人は他人がどんな発音をしようと、自分の発音に取り込んで聞いてしまうもののようだ。

Google で 「じょおう/じょうおう」 をキーワードに検索してみると、この問題を論じたページで、次のような指摘があった。(参照

アメリカで行われた心理学の実験で,地図に関する文章の 「map」 という発音をすべて 「nap」 に置き換えて読んでも,聞かされた人間はほとんど全く気が付かないという報告があるそうな。だから,たとえば,あなたが “じょおう” 派だったとして,会話のなかで,相手が “じょうおう” と言っても,「ああ,“じょおう” と発音してるんだな」 と理解してしまって違いに気づかない。

なるほど、これは、かなり納得である。

二つ目のポイントは、国語辞典を引いても公式の読みは 「じょおう」 ということなのだが、これはかなり発音しにくいということである。そもそも、「う」 という字が入るのは表記上の問題で、実際の発音は 「じょおー」 ということになるのだが、これを無意識に発音すると、「じょー」 と区別がつかない。

「じょー」 と区別するためには、二つの方法がある。一つ目は 「声門閉鎖」 である。これは、「ことばや教え方の質問箱−掲示板2−」 というサイトの、"No.7600  「女王」 は 「じょおう」 か 「じょうおう」 か" で紹介されている概念である。(参照

まあ、このサイトでも 「閉鎖」 という表現が適切かどうかということで議論があるようだが、要するに、「じょおー」 を 「じょ・おー」 と、ほんの気持ちだけ区切るようにして、ナカグロの部分でちょっとだけ声門を緊張させるのである。

「女王」 の読みを 「じょおう」 とする場合は、この 「声門閉鎖」 とアクセントの合わせ技で解決しているという結論じみた指摘がなされている。ある意味、発音上の高等テクニックである。

これほどの高等テクニックを使わなくて済むのが、二つ目の方法、「じょうおう」 である。

ただ、以上の考察は、現代人の感覚から出発した分析である。これだと、ややもすると、「じょおう」 が正しくて、「じょうおう」 はその変形みたいな解釈をしてしまいがちになるが、そんな単純なものではないような気がする。きっと、もっと深い事情がある。

というのは、「女王」 の古典的な振り仮名は 「じょわう」 である。「王」 は本来 「わう」 であり、実際、古代においてはそのように発音されていた。

「わう」 が音便化すれば 「をう」 になり、この本来の発音は "wo:" である。つまり、「女王」 は歴史におけるかなり長い間、 「じょうぉう」 に近い発音だったはずなのだ。

私としては、現代的な意識で 「じょ」 と 「おう」 をくっつければ 「じょおう」 以外にないじゃないかと思っていたのだが、よく考えてみれば、日本人の意識の底には 「じょうぉう」 が連綿と流れており、それが今日、「じょうおう」 の読みになっているのだとも考えられる。

「女」 を 「じょう」 と読むケースは 「女王」 以外に ないといわれるが、それは勘違いに基づいている。「じょうおう」 は、「じょう・おう」 ではなく、「じょ・うおう」 なのだから。

つまり、現代的正論の 「じょおう」 が、あまりにも発音しにくいがための、ちょっとした 「先祖返り」 である。先祖返りだけに、とても根強い。多分、これが結論だろう。

ちなみに、落語などでは 「女郎買い」 を 「じょうろかい」 なんて発音したりする。これなんか、本来の表記は 「じょらう」 だが、後ろに 「買い」 が付いたりすると 「じょうろ」 と音便化 (というか 「音転」 との合わせ技?) する方が発音しやすかったのだろう。

[追記]

この問題、「知の関節技」 の定番として、やや掘り下げた形で改めてアップしたので、お時間があればご覧いただきたい。(Click

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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言葉」カテゴリの記事

コメント

私は「じょうおう」派でした。
ワープロを使うようになってはじめて、「じょおう」が正しいことになっているのを知ってショックでした。
他にも似た例があるはずですが、登校も「とうこう」なのか「とこう」なのか?
登山は間違いなく「とざん」ですよね。

投稿: alex99 | 2005/11/12 02:53

すんません。「じょうおう」しか知らなかったバカ女王でございます。
takさんの考察やら、リンク先のページやらを読んで、最初は「へ〜〜っ」そんな考えもあるのね・・とかなり興味を持っていたのだけれど・・だんだん疲れてきてしまったε-(´・`)
で、早くも結論!「じょおう」だと正しく発音するにはtakさんが書いているように「じょ・おう」と区切らねばならず、これって日本人が苦手な発音パターンですよね。
だからいつしか「じょおう」と言うよりは「じょうおう」と発音する人が増えた。そして「じょうおう」でもよし!となった。
そんなふうに想像してナットクすることにしました。

ちなみに、アンケートをとっている人がいました。↓↓
http://pro.tok2.com/~nhg/reserch/reserch1-17.htm
サンプル数が少ないからあてにはならないけど、
ここでは「じょうおう」派が優勢だね。もっと数の多いアンケート調査が見たいな〜。

投稿: あらら姫 | 2005/11/12 04:03

alex さん:

>私は「じょうおう」派でした。

私は昨日の日まで 「じょ」 + 「おう」 で 「じょおう」 と信じてましたので、
「じょうおう」 派がそんなに多いとは、寝耳に水です。

「百人一首」 が 「にゃくにんしゅ」 になったり、
「お師匠さん」 が 「おしょさん」 になったりするのとは、
ワケが違いますからね。

で、ブログに書いた考察の結果、
「じょうおう」 が伝統派
「じょおう」 が現代派と思うことにしました。

あらら姫さん:

そちらのサイトのコメントで、
>だって「じょおう」ってのが、そもそも発音しにくいでしょ?
>英語ちっくじゃないですかい?

と書かれてましたが、
まあ、英語ネイティブスピーカーは 「じょおう」 を言えないだろうけど、
日本語としての常道からも外れてるのは、確かですね。

それで、「じょ・おう」 のナカグロに
「ゼロの子音」 を当てるなんて高等戦術の代わりに、
「じょうおう」 という先祖返りで対応したってことだろうと推定したわけです。

アンケート結果で 「じょうおう」 が上回るのも、
先祖返りという確かな裏付けがあってのことかと、納得しました。

この問題、「知の関節技」 で、もうちょと掘り下げてみました。

http://homepage3.nifty.com/tak-shonai/intelvt/intelvt_049.htm

投稿: tak | 2005/11/12 14:51

「じょ」の次に、母音を二つ重ねると発音しにくくありませんか?
例えば「じょ」+お・う。

そのために「じょ」を「じょう」と発音したがるのかな?

投稿: alex99 | 2005/11/12 19:09

>「じょ」の次に、母音を二つ重ねると発音しにくくありませんか?
>例えば「じょ」+お・う。

例えば、「呼応」 なんかは、問題なしですね。
これは、旧仮名でも元々 「こおう」 で 「こわう」 じゃないので、
「こうおう」 にはなりようがなかったと考えます。

「土用丑の日」 の 「土用」 は、
元々は 「土旺」 (どおう) だったものの変化といわれています。

「どうおう」 とはならずに、間に "y" の発音を入れて、
言いやすくしたんでしょうね。

「女王」 は、元々 "jowo:" でしたから、その名残で
「じょうおう」 が違和感なしに使われているのではないかと。
"じょよう" には、決してなり得なかったと。

そういう説です。

投稿: tak | 2005/11/12 20:32

私はtakさんと同じく「じょおう」派でしたが、今まで一度も発音しづらいと思ったことがなかったので、試しに「じょおう」「じょおう」「じょおう」と何度も発音してみました。
すると、私の場合は「じょぉー」と発音していることに気がつきました。
あえて「お」を意識的に発音せず、「じょ」の後始末みたいな風にして発音していたんですね。
しかるに、アクセントは明らかに「お」にあるという摩訶不思議さ!
言葉というのは不思議なもんですねぇ。
ちなみに、私は「王様」は「おおさま」だとずっと勘違いしており、なぜ変換できない?と思っていた輩です。

投稿: ぽん太 | 2005/11/12 21:02

ぽん太さん:

>私はtakさんと同じく「じょおう」派でしたが、今まで一度も発音しづらいと思ったことがなかったので、

試しに、ウチの家族にも聞いてみましたが、発音しづらいとは一度も思ったことすらないそうです。

それで、実際の発音は、ぽん太さんと同じく 「じょぉー」 で、ちゃんと 「ぉー」 にアクセントが付いてました。

まったく言葉は不可思議であります。

「王様」 を 「おおさま」 と思っていたというのは、私自身も何年か前まで、どちらが正しいのかアヤフヤだったような気がします。

これは実際の発音が 「おーさま」 なので、「おおさま」 と思いやすいですね。

私自身は、「ええと、どっちだったけ、ああそうか、『わうさま』 だから、『おうさま』 か」 なんて、いちいち考えて納得してました。

つい 「旧仮名」 復活論者になっちゃいそうです。

英語のスペルなんか、ありゃ、 「旧仮名」 じゃないですか。neighbourhood とか、knife とか。

投稿: tak | 2005/11/13 00:25

言語的に理論的で正統なものなんて意識は好きではないな~
言葉はなによりも、ナマモノで、生き物で、理論はむしろ後追いで認知するものですから。

knife knee なんかは北欧語系で、昔には実際に k を発音していたのです

投稿: alex99 | 2005/11/13 05:46

>言語的に理論的で正統なものなんて意識は好きではないな~
>言葉はなによりも、ナマモノで、生き物で、理論はむしろ後追いで認知するものですから。

「じょうおう」 の考察は、まさに、「後追いで認知」 しようとしたもののつもりなんです。

>knife knee なんかは北欧語系で、昔には実際に k を発音していたのです

だからこそ、「旧仮名」 に喩えたんです。
日本語の 「てふてふ」 も、昔はまさに文字通り "tefutefu" と発音していたのが、音便化して 「ちょうちょう」 に変化したわけですから。

投稿: tak | 2005/11/13 19:00

どうも、やや亀レス失礼します。

私は「じょうおう」でした。

たしかに理屈上は「じょおう」ですが、昔は王様と言ったら通常は男でした。そこで、「女」であることを強調しようとして「じょうおう」になるのではないかと思います。

「じょうおう」も発音上は「ジョーオー」ですので間に「W」は入っていないと思われますが?どうでしょう。

投稿: K.J Tyler | 2005/11/13 22:25

K.J Tyler さん:

>「女」であることを強調しようとして「じょうおう」になるのではないかと思います。

強調のために長音になるという例が他にあるとすれば、その説を信じないではありませんが、残念ながら、他に思いつきません。

何か例があれば、お示し下さい。

>「じょうおう」も発音上は「ジョーオー」ですので間に「W」は入っていないと思われますが?どうでしょう。

「じょうぉう」 の名残としての 「じょうおう」 であるということです。

投稿: tak | 2005/11/13 22:45

「じょうおう」派の私も「おう」にアクセントがあれば、「じょおう」のほうが自然だと感じます。
それを「じょ」にアクセントをおこうとするあまり「じょう」になってしまったのではないかと思っ
たわけです。
「火、貸して」のように一音節の言葉をちょっと強く言おうとすると、長音になることがあるというのが根拠ですが、言われてみれば根拠薄かもしれません。

>「じょうぉう」 の名残としての 「じょうおう」 であるということです。

名残ということですね。それですっきりしました。それはその通りだと思います。

投稿: K.J Tyler | 2005/11/14 22:17

>「火、貸して」のように一音節の言葉をちょっと強く言おうとすると、長音になることがあるというのが根拠ですが、言われてみれば根拠薄かもしれません。

一音節の言葉は、助詞を付けないで言おうとすると、
大体において長音になりますね。
(とくに、日本語の原点たる関西弁)

「気ぃ つけや」
「血ぃ みるで」
「屁ぇ こいた」
「目ぇ むく」

などなど。

投稿: tak | 2005/11/14 23:23

初めまして。

最近、クイズ番組でこの問題が出されていて、学者さんが、女は「じょう」という読み方は無い。と言い切っていたので、音便とかで読み方が有るんじゃないかと、検索していて、こちらに辿り着きました。

「じょうおう」は王の方に「う」が入る要素が有ったんですね。勉強になりました。

で、我流珍説を一つ
コミックに「嬢王」という作品がありました。
TVドラマ化もされましたし、シリーズ化もされ、長年掲載されていたので、結構な認知度だと思います。
これと、混同して定着してしまったのではないか?
というものです。


お目汚し、失礼いたしました。

投稿: まいける | 2014/06/25 15:15

まいける さん:

書き込み、ありがとうございます。

>コミックに「嬢王」という作品がありました。
>TVドラマ化もされましたし、シリーズ化もされ、長年掲載されていたので、結構な認知度だと思います。
>これと、混同して定着してしまったのではないか?

『嬢王』は、「女王」の読み方として「じょうおう」が根強いという事実があるからこそ登場したタイトルだと認識しています。「じょうおう」はずっと昔から、『嬢王』は最近の話ですので。

投稿: tak | 2014/06/25 22:14

地域で発音の揺れも生じるもので、物議をかもすこの手の話題ではその絡みが多いです。
この場合はそれぞれのイントネーションでの発音の難易が影響しているようです。

関東なら「お」でハッキリ音程を上げながら強勢を付けるのは自然でわりと簡単です。

一方たとえば関西では標準語普及以前の、二音節目以降で音程を上げないイントネーションが根強く、この場合は「お」に強勢がつけにくいので、古来 の発音の流れを汲んでjowau→jowou→jouou。
ちなみに「じょうおう」と認識している人でも普段喋る時はjououというよりも
「jow-woh」な感じで滑らかに言ってると思います。
もちろん文字ヅラ=発音じゃないですね。

親のルーツも含めて地域の中で育まれた言葉の感性はかなり頑固なものらしく、一方から見れば他方がバカに見え、突然の教条主義に陥って教養批判レベルの罵倒に及んだりすることもあったりします。
ネットで異なるルーツの感性を突き合わせる状況が増え、標準語の認識にも差があることが以前より表面化してきました。正誤でなくもっとデリケートな面がありますね。

投稿: Jonas Walker | 2014/09/28 23:08

Jonas Walker さん:

地域差による発音の揺れというのは、確かにあります。

また、地域差というのは、平面上に広がった時間差という要素もあります。柳田国男の 『蝸牛考』 によれば、新しい言い回しが中央から徐々に周辺に広がるので、周辺に行くほど古い言葉が残ります。

それで、遠隔地の言葉が似ていて、近くは違うという現象も生じます。
私は京都を中心として大体同心円上にある、名古屋と岡山、新潟と島根の言葉が、かなり似ていると思っています。

投稿: tak | 2014/09/29 10:18

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