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2006/10/28

プロレスは本当に 「やらせ」 か?

"大仁田敗訴…東京高裁 「プロレスはやらせ」 認定" の記事をみて、なんだか暗い気持ちになってしまった。なんて想像力のない記事の書き方だろうか。

まあ、プロレスファンの世界とそうでない一般社会においては、物事を語る際の文脈の構築法に決定的な差があるのだな。

今さらプロレスを 「やらせ」 だとか 「八百長」 だとか言うのは、「無粋」 という域を越えている。それは、ドラマを 「作り話」 だと言うのと同じぐらい不毛なことである。

ドラマが作り話なのは、言うまでもない当たり前のことで、その作り話の中にいかに 「リアルさ」 を盛り込むかが、ドラマの作者、役者の 「腕前」 なのだ。プロレスもそれと同じことが言えるというだけのことなのだ。

プロレスのリングで繰り広げられるファンタスティックな攻防というのは、シリアスな格闘ではあり得ないものである。それだけに、「約束事」 の上において行われなければ、プロレスラーは命がいくらあっても足りない。

投げ技をしかける方は、相手がちゃんとした受け身を取ってくれるものと信じて投げる。そして、受ける側は、相手が決して危険な角度で脳天から落としたりしないものと信頼して、進んで受け身を取る。

試しにプロレスごっこをしてみるといい。プロレス技の 90%は、受け身を取る側の絶妙の協力がなければ決まるものではないとわかるから。そして、絶妙の受け身を進んで取るには、体力、テクニックとともに、相手への 「信頼」 が不可欠なのだ。

その 「信頼」 の上に成り立った技のやり取りの中に、いかにリアルさを盛り込むかが、プロレスラーの技量である。今回の裁判になったケースというのは、はっきり言って、登場した役者が不調法だったのである。

まず、セッド・ジニアスと大仁田厚との間に、「信頼」 が成立していなかった。信頼のない者同士が絡んで、きちんとしたパフォーマンスを演じることなどできるはずがない。その意味で、両方とも大根役者である。

そして、セッド・ジニアスに怪我を負わせたとされる中牧昭二という人物は、大根役者と呼ぶにも値しない。靴を履いて本気で顔面を蹴るやつがあるものか。この世界では絶対にメシの食えないタイプである (事実が証明しているように、実際に食えなかったわけだが)。

私は長年プロレスファンを自称してきたが、近頃では、そろそろ潮時かもしれないと感じている。プロレスは、その歴史的使命を果たし終えつつあるのかもしれない。今回の訴訟沙汰は、それを象徴している。

情報化時代におけるプロレスは、よりリアルな格闘技と、エンタテインメント・プロレスに分化しないと、生き残れないような気がする。

【追記】

大仁田は上告するそうで、Sports nav.com によると、彼は以下のようにコメントしている (参照)。

「僕の口から話すことは何もない。僕はプロレスを守る側。自分がプロレスラーを名乗っている以上守るものは守る。それはプロレスラーとしてのモラルだと思っている。それに事前の取り決めうんぬんというのは今回の訴訟の争点じゃない」

「話すことは何もない」 と言いながら、ずいぶんいろいろしゃべっているのは、彼のいつものスタイルだが、その論点が相変わらずわかりにくい。

セッド・ジニアスが試合後に詰め寄ったために、中牧が乱入したというプロセスなのだから、大仁田自身の論理に沿うとすれば、「事前の取り決めになかった詰め寄り方」 をされたぐらいのことは、「プロレスのモラル」 の中で処理すればよかったではないか。

それができなかったのだから、「プロレスのモラル」 を壊す行為には、結果的に自身も荷担しているとみられても仕方がない。

それに、「プロレスのモラル」 は、法律の世界とは異次元のものなのだから、「プロレスを守るために上告する」 というのは、ピントはずれにもほどがある。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

おじゃまします。はじめまして。通りすがりの者です。

 「プロレス」のことは見過ごせないので、ちょっと書き込みをさせていただきます。

 と、書き出したところで、この後の文章が『過去のプロレスの美化』をつらつら書きそうなので、やや自制して…。

 「ブレーンバスター」は、技を仕掛け…「さぁ、相手の頭をかかえこんだ!ブレーンバスターの体勢だ!」とアナウンサーが絶叫しているときに、掛けられる方は相手のタイツを「ぎゅっ」と掴みます。
 ここが“技”ですよね。必ず成立させる要件として、「投げられる態勢完了!」ということで、「ぎゅっ」が発生します。
 同様に、「シャイニングウィザード」も、掛けられる方が「片膝立ち」になって、発動されます。

 一昔前の選手は、「態勢完了」のサインも、観客に気付かれないように出していたのだと思います。今の「三文」的プロレスは、トップロープからのヘッドバットを受けるために、リング中央からにじり寄っていきますからねぇ…。

 昭和のストロングスタイルを崇拝し、意地を張って踏襲しようとした結果、件の選手同士の様な『実生活に遺恨』を生じさせる、「三文プロレス」が増えてきてしまいました。彼らも、「正しいプロレスの不文律」を知らず(考える能力が欠如している?)、スター選手として祀り上げられてしまった“被害者”なのでしょうか…。

 あっ!過去のプロレスを美化してた!

 おじゃまいたしました。

投稿: がんなむぅ | 2006/11/06 23:14

がんなむぅ さん:

的確なポイントをつくコメント、ありがとうございます。

初代タイガーマスクのブレーンバスターは、結構よかったという印象があります。
ただし、受けを取るダイナマイトキッドやブラックタイガー、小林などの技量がないと、仕掛けられない技でもありました。

投稿: tak | 2006/11/07 01:01

再びおじゃまします。

 >受け身を取る側の絶妙の協力

 本当に、小林やダイナマイトキッド、ブラックタイガーは、ともすれば見ている我々(当時小学6年生のプロレスごっこ派)に、「こんなちゃらちゃらした猫マスクなんかに、負ける訳がない!」というオーラを振りまいていました。
 特にブラックタイガー戦は、「本当にタイガーマスクは、大丈夫なの?殺されちゃう!」と、本気でハラハラしていました。そのうち起死回生のローリングソバットがあって、ブラックタイガーの投げ技に程好く反応して後ろを取り、『金的』を喰らって一旦沈む…。とまぁ、私も程好い大人となった今では、「なるほど。ここでもう一盛り上げね。」と静観できますが、「デスマッチ」を日本語直訳で考えていた当時は、「起死回生のローリングクラッチホールドォ~!」なんかでタイガーマスクが勝利しようものなら、涙を流して喜んでいました。
 キッド然り、小林邦昭然り。彼らの「傍若無人な」振舞いが、タイガーマスクの「ベビー」を強調し、観衆を引きずりこんでいたのだと思います。(あと、アナウンサーのバックグラウンド作りもね!)
 プロレスに『これも、一つのシナリオ』という括りが広く認知され、「なぁんだ」と冷めた(覚めた?)目で去っていく“一般社会の人”と、「いや、今のバックドロップは痛いだろぉ」と観点を変えてでもプロレスが好きな人種と、キチッと区別が付いた結果が、「格闘技」と「プロレス」を隔ててしまった現状だと思います。また今件で、公的機関から「やらせ」と宣されてしまったことに、悔しさと、「ほっといてくれ!」という気持ちを抱きました。

 前述の通り、今では程好い大人なので(自称)、「WWEボトムライン」で、大喜びしています。

 ながなが、おじゃまいたしました。

投稿: がんなむぅ | 2006/11/07 12:10

がんなむぅ さん:

プロレスは、ある一定以上の 「シリアスさ」 をアピールできないと、とたんに 「やらせ色」 が強調されるという宿命があります。
(元々、「やらせ」 には違いないから)

昔の 「シリアスさ」 は、今から見ればのどかなものでした。
今はなまじ情報がどんどん一人歩きするので、「シリアスさ」 を維持するのがしんどい時代です。

だったら、「つくったシリアスさ」 より、「ナチュラルなシリアスさ」 の方が、面倒がないんですよね。
これが格闘技興隆のバックグラウンドだと思います。

投稿: tak | 2006/11/07 21:15

御返信御礼。

 tak様のおかげで、吐き出したかった思いと、いまひとつ咀嚼しきれていなかった思いと、すっきり吐いて、しっかり飲み込むことができました。

 やはり情報伝達の速度に、うまくのっかるかまたは、反るかということですね。ホントに、『考えてばかりいると日が暮れちゃう』けど、考えてないと明日の朝日が拝めないなんてことも…。

 >これが格闘技興隆のバックグラウンドだと思います。
 この分析、いただきます。プロレス好き仲間と酒を飲むときの『知のおつまみ』として、ぜひ使わせてください。胸焼けしない程度にしておきますので…。

 本当に、ありがとうございました。

投稿: がんなむぅ | 2006/11/08 11:43

>『考えてばかりいると日が暮れちゃう』けど、考えてないと明日の朝日が拝めないなんてことも…。

あはは (^o^) 言えてる。
ちょっとした至言ですよ。これ。

投稿: tak | 2006/11/08 23:31

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