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2008/01/14

「夜明け」 を巡る冒険

「粋な烏は夜明けにゃ鳴かぬ、野暮な烏はべたに鳴く、どっこいしょと飛んでくる」 という小唄がある。(「烏」 は 「トリ」 じゃなく 「カラス」 なので、そのあたりよろしく)

この歌の文句を聞くと、すぐに思い出されるのが 「明烏」 という落語で、私は桂文楽の CD を持っていて、時々聞く。

何でまた、粋なカラスが夜明けに鳴かないのかと言えば、「三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい」 という都々逸がわかればピンと来るというものである。野暮を承知で説明してしまうと、朝になってカアカアと鳴き立てるカラスに邪魔されずに、いつまでもしっぽりと二人で布団の中にいたいという意味である。

で、ふと 「夜明け」 というものについて調べてみたくなったのである。というのは、「夜明け前が一番暗い」 という言い回しがあるが、これって、かなり怪しいのだ。実際、夜明け前でも明るかったりするから。

気象庁のサイト (参照) で調べてみると、「夜明け」 は 「日の出の前の空が薄明るくなる頃」 としてあり、「備考」 として、 「『薄明』 も同じ意味だが、予報用語としては用いない」 となっている。あまりにも曖昧な言葉だからだろう。

さらに、「夜明け前」 は 「日の出の前 2時間くらい」 となっているが、「使用を控える用語」 と指定されていて、代わりに 「明け方」 という言葉を用いるということになっている。しかしながら、あの有名なフレーズの 「夜明け前」 を 「明け方」 で代替してしまったら、「明け方が一番暗い」 というナンセンスになる。ますます怪しい。

それならばと、Goo辞書でしらべてみると、さらに恐ろしいことに、こんなふうになる。

(1)夜が明けること。太陽がのぼる頃。明け方。
「―前」
(2)太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻。明け六つ。
日暮れ(2)
(3)新しい時代や事物が始まろうとする時。
「新日本の―」

それにしても、この 「太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻」 ってのは、ずいぶん藪から棒である。一体何なんだ? ただ、「明け六つ」 なんてあるからには、どうやら江戸時代の時刻計算法に基づいているらしい。

というわけで調べてみると、このページ に詳しく載っている。江戸時代の 「日中」 というのは、明け六つから暮れ六つまでと定められていて、その明け六つという時刻の定義が、 「太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻」 ということのようだ。

「太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻」 というのは、季節によって変わるから、江戸時代の時間というのは、決まり切った長さではない。

明け六つから暮れ六つまでの時間を 6等分したのが 一時 (いっとき) で、これは現在の約 2時間とされるが、実は、夏の日中の一時 (いっとき) は、夜間の一時より長く、冬はその逆になる。なかなか魅力的な変動相場的コンセプトである。

で、この明け六つという時刻は、自分の手の筋の太いものが 2~3本見えるくらいの明るさということのようなのだ。つまり、このくらいのほの明るさになるのが明け六つで、数値的に現わすと、「太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻」 ということになる。江戸時代の暦学も、結構もっともらしく進んでいたのだなあ。

というわけで、粋なカラスは、太陽の中心が地平線下七度二一分四〇秒にある時刻になっても鳴かないのである。そして、野暮なカラスはべたに鳴くのだが、「べた」 という言葉も、ずいぶん昔からあったのだというのがわかる。

ちょっとした小唄で、ずいぶんいろいろな考察ができるものである。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

日の出の後、もう少し時間が経過すれば清少納言のいう、山ぎわが明るくなって紫がかった雲なんか見てると、春先は、この瞬間がチョォーいいのよね!。と徹夜明けなのか?、朝早く起きるのが得意だったのか?、そのへんの方が、枕草子の文学的考察より知りたい私です。
地学と文学の夜明けの定義の融合なんて、別に考えもしなかったが、なるほど、と卓上にガッテンボタンがあれば34回ぐらい叩いていることでしょう。

ちょっと、話は違いますが、私の感じる夜明け感って、アイデアが浮かばなくて真っ暗な状態になる事があります。順調に進んでいると思ってる所、だんだんと陽が落ちて薄暗くなって、あれ?ちょっと参ったな。とか思ってるうちに真っ暗になるわけですよ。もう、真っ暗。詰め将棋のように問題解決が、一手ずつ進む事が少ない(私の解決手法が悪いのだが)真っ暗な奈落の底に落ち入ってしまい、もがき苦しんで、ある時、一気に問題が解決して、夜明けとなるわけです。一気に明るくなるわけで、その直前が一番暗かったという心境ですね。だから、夜明け前が一番暗い。というのに一票投じたいです。

投稿: やっ | 2008/01/14 01:30

やっ さん:

「夜明け前が一番暗い」 というのは、即物的なお話じゃなくて、やっさんのおっしゃるようなメタファーとして、ずっと納得されてきたんですね。

投稿: tak | 2008/01/14 11:49


杉作!
日本の夜明けは近いぞ!

投稿: alex99 | 2008/01/14 12:39

alex さん:

わかった!
天狗のおじさん!!

投稿: tak | 2008/01/14 19:58

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