ヴィトンの価値が変容する日
ルイ・ヴィトンは、おそらく日本市場に限った話だと思うのだが、「最も大衆的な高級品」 などと言われている。
日本国内において全世界売り上げの約 4割に達する 1500億円以上の売り上げを誇り、並行輸入、渡航先での購入を含めると、日本人向けの販売は約 6割になるという。
何しろ、ルイ・ヴィトンの名は誰でも知っているし、あのモノグラムを見てすぐにヴィトンとわからない者は少ない。日本女性の 3人に 1人が所有しており、20代女性に限れば ほぼ半数が所有しているというのだから、すごい。(個人的には 「狂気の沙汰」 と思うが)
日本におけるこの特異な 「ヴィトン人気」 は、冒頭に挙げた 「最も大衆的な高級品」 という不思議なイメージに支えられるところが大きいだろう。つまり、「高級品」 でありながら 「大衆的」 という二面的な価値観が特徴である。
単に 「高級」 というだけでは、これほどまでに売れない。「大衆性」 という要素があればこそ、誰でも安心して、所有していい気持ちになれるのである。この二面性は、日本におけるヴィトンの成功のキーポイントと言える。しかし、いずれこの二面性が崩れてしまう日がくるかもしれないことも、覚悟しなければならない。
ヴィトンの製品のあの 「素晴らしい」 値段というのは、「モノ」 としての価値を買うのではなく、言い古されたことだが、「満足感」 を買うのである。その満足感は、「これは高級ブランドですよ」 という看板からくる。
メーカーは、単なる塩化ビニール・バッグの高級ブランドとしてのイメージとステイタスを維持するために莫大な金を使い、その金は製品の値段に含まれる。つまり消費者はメーカーに対して、「未来永劫に、このステイタスを維持してくれるだろうな」 という委託金を預けているようなものだ。
その信用委託の崩れる日が来るとしたら、ブランドの価値は一体どうなるだろう。
ルイ・ヴィトンは今、中国でのマーケティングに力を入れている。さらにインド市場の可能性にも注目しているらしい。とくに中国はいまや、世界一の 「成金市場」 である。経済成長とともに、ヴィトンの売り上げは急増し、そのうち、確実に日本での売り上げを抜くだろう。
ヴィトンの最重要市場は、日本から中国に移る。中国から大挙して押し寄せるツアー客が皆、あの特徴的なモノグラムのバッグをぶら下げて、辺り構わぬ大声で会話しながら街を歩き、電車に乗り込んでくるだろう。
その時、ヴィトンの価値の二面性は変容するかもしれない。それは日本の消費者にとって、「最も大衆的な高級品」 というより、「あまりにも大衆的過ぎる高級品」 になってしまう可能性がある。既に今でもその萌芽は見え隠れしているが。
20年以上前にヴィトンを購入した消費者は、既に 「委託金」 として預けた金額の元は十分取った。むしろお釣りがくるぐらいだろう。しかし、今後ヴィトンを買う人は、「子供や孫の代にまで残せる高級品」 という謳い文句を、そのまま信じていいものだろうか。
確かに、「モノ」 としては残せるだろう。しかし、「ステイタス」 という情報を発信できる品物としては、子供や孫の代まで残せるだろうか。申し訳ないが、私には疑問である。
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コメント
takさんの言う通り、ルイ・ヴィトンの製品なら、3時間に一本しか列車が来ないような、ド田舎のホームに佇む女性が抱えていても違和感が無いです。高級品でありながら大衆的。それが、「しまむら」(個人的には好きな衣料品店)の吊るしのスーツを纏っていようとも、ヴィトンのバックを持ってれば、全てが高級に見える田舎のマジック。トータルコーディネートなんかお構いなし、私には、ルイ・ヴィトンのバックがあるわ!と、前面に押し出す方々。
実は、質屋に通ってルイ・ヴィトンのポーチを探し廻った事があります。ちょっと気を惹こうと思った女性に贈ったわけですが、まさか、そのまま、元の質屋へ質草になったとか言う事はないですよね?。
さりげなく身に付けたいアイテムではありますが、私には、絶対似合わないですからね。ステイタスとしてのルイ・ヴィトンは未来永劫続いて欲しいです。なにせ、ちょっとした出費で、過大な評価を得られる。煮干で鯛を釣るようものですよ。オリンピック年毎に勃発する大夫婦喧嘩の修復アイテムが無くなったら困ります。
投稿: やっ | 2008/02/08 02:12
やっ さん:
>「しまむら」(個人的には好きな衣料品店)の吊るしのスーツを纏っていようとも、ヴィトンのバックを持ってれば、全てが高級に見える田舎のマジック。
甚だしくは、ジャージ着てヴィトンをぶら下げてるなんてのもザラです。こういう光景を見たら、本家のフランスのお金持ちは、ヴィトン持つの嫌になるかもしれませんね。
ヴィトンの流通で、質屋というのはかなりあるみたいですね。ですから、質屋は偽物の見分けはものすごく上手ですよ。
>オリンピック年毎に勃発する大夫婦喧嘩の修復アイテムが無くなったら困ります。
あはは (^o^)
その頃には代わりのブランドが現れてるかも知れませんよ。
投稿: tak | 2008/02/08 10:02