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2008/03/23

「亡命政府」 の意味を直視すると

RNN 時事英語辞典 3月 18日付に、「亡命政府」 の英語が出ている。 "Government-in-exile" というのだそうだ (参照)。

「エグザイル」 なら、今の若い子なら誰でも知ってるだろうが、亡命政府のことを 「エグザイルの政府」 (追放中の政府) というなんて、ちょっと意外かもしれない。

日本語では一口に 「亡命」 なんていうが、これ、翻訳にはちょっとやっかいな言葉なのだ。何しろ、英語に 「亡命」 という日本語にきっちりと相当する元があって、それの翻訳語として 「亡命」 という日本語を作ったというわけじゃないらしい。こんなケースでは、英語に翻訳しにくいことが多い。

試しに Goo 辞書の和英辞典で 「亡命」 を引くと、「(a) defection;  《政治的》 political asylum.・~する seek [take] refuge ((in Japan)).  亡命者 a (political) refugee; an exile.」 などと出てくる。少なくとも、defection, asylum, refuge, exile という 4つの言い方がある。

それぞれをさらに英和辞書で引き直すと、次のようになる。

  • defection: n. 亡命; 変節, 脱党[会].
  • asylum: n. 養育院; 〔古〕 精神病院; 収容所; 一時的避難所, 逃げ場所 (refuge); 【法】亡命者保護
  • refuge: n. 避難(所), 保護; 隠れ家, 逃げ場所; 急場の助けとなる物[人,口実](など); (妻が夫の家庭暴力から逃れるための)駆け込み寺(的施設); 〔英〕 (街路の)安全地帯.
  • exile:  vt. 追放する ((from, to)); 流刑にする.  exile oneself (他国に)亡命する. n. 追放, 流刑(の地); 追放人, 流人(るにん); 亡命(者); 放浪者.

要するに、日本語で 「亡命」 というとなんとなくもっともらしい響きがあるが、英語では、「避難」 とか 「追放」 とかとの厳密な区別なんかないみたいなのである。

MSN エンカルタ百科事典でも、次のように述べられている。

英語の refugee は 「亡命者」 とも 「難民」 とも訳されるが、大量の場合を難民とし、単独の場合を亡命としたり、個々の事例における庇護の付与を亡命とするなど、扱いは多様で、移民、難民、亡命のおのおのを画然と区分けすることは困難である。

事実、国連の 「難民の地位に関する条約」 (難民条約) では、上記した政治的、宗教的、人種的迫害により本国をのがれている人々を難民としており、亡命との区別はない。また自然的、経済的理由で流出する人々を条約では難民の規定にいれておらず、その点からも亡命と難民は同一のものと理解される。

ふぅむ、日本語の 「亡命」 というのは、近代において、悲壮感とロマンチシズムにまみれた結果、ちょっとだけかっこいいかもというようなイメージまでついちゃったみたいなのだ。やはり日本は地続きの隣国がないから、「亡命」 とか 「難民」 とかいうのがピンと来ない。

日本人の多くは、財産持って大威張りで逃げるのが 「亡命」 で、食い詰めて逃げるのが 「難民」 だと思っている。現実の 「亡命」 は 「難民」 と区別つかない悲惨なものであるにもかかわらず。

いずれにしても、明治の男は政治的亡命をするぐらいなら腹を切ったし、いくら食い詰めても、日本に残る方がまだ飢え死にしなくて済むから、現実感がない。外国に逃げるのは、せいぜい、やばいことをして高飛びする時ぐらいのものだ。

ちなみに、本来は区別つけられないものを、日本語では区別しちゃってるというのに、「博物館」 と 「美術館」 がある。英語では両方とも "museum" だ。日本語でいうところの 「美術館」 は、"museum of art" なんていうケースが多い。「芸術の博物館」 といったところだ。

それにしても 「亡命政府」 なんていうとちょっと曖昧になってしまい、事態が直視できなかったりするが、より直接的に言えば、ダライ・ラマは 「追放の身の政府」 の代表なんだな。

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コメント

イギリスやフランスでは、昔から東欧で政変や革命などがあるたびに亡命者が押し寄せたものです。
そういう亡命者というものは、しだいに現実から遊離して大言壮語にふけり、いろいろと大げさなことを言いたがるものです。
それは、マルクスやバクーニンらの時代から変わらないでしょうね。
なので、亡命チベット人のいう、中国政府による「民族浄化」とかいうのもいささか大げさのように思います。
なにしろ、チベットは、中国にとっても今や大切な観光の目玉でしょうから、彼らを完全に同化したり絶滅させてしまっては意味がありません。
たぶん、ラサ周辺で進んでいることはチベット仏教の「観光資源化」と、チベット人の「先住民化」というのが一番ぴったりするのじゃないでしょうか。たしかに観光客が増えれば豊かにはなるでしょうが、自分たちが珍奇な「見世物」にされて嬉しい人もいないですね。今回の騒動の底流には、そういう内心の反発というのもあるような気がします。

投稿: かつ | 2008/03/23 11:23

exile は割と中立な語で、追い出した方と追い出された方のどっちに非があるかは問わない感じですよね。一方、日本語の「追放」は「所払い」のイメージで、何か悪いことをして追い出された悪人、という感じ(banishedに近いか)なので、「亡命」という別の語が必要なのでしょう。

かつさんへ。

「中国にとっても民族浄化は意味がない→民族浄化などするはずがない→亡命チベット人の話は大げさ」という論法のようですが、はたしてそうでしょうか。不条理きわまることをやらかすのが全体主義国家というものです。
また、仮に大げさなことを言うチベット人が居たとしても、中国による支配をいささかも正当化するものではありません。中国人の主張する南京「大虐殺」は明らかに大げさですが、それによって日本の中国侵略が正当化されるわけではないのと同じことです。

コメントに対するコメントですみません。

投稿: Adrienne ◆HI8ebVe8lo | 2008/03/23 16:51

もちろん中国の行動を正当化するつもりはありません。
指摘したかったのは、しばしば亡命者の中には、事実を誇大に言う人がいるという一般的な傾向です。
なお、私自身の考えは http://plaza.rakuten.co.jp/kngti/
で詳しく書いています。

投稿: かつ | 2008/03/23 19:02

かつ さん:

>たぶん、ラサ周辺で進んでいることはチベット仏教の「観光資源化」と、チベット人の「先住民化」というのが一番ぴったりするのじゃないでしょうか。

なるほど。
中国当局は明確には 「先住民化」 という意識はしていないかもしれませんが、「おとなしく言うこと聞いて、一見それらしいチベタンの顔していてくれればいいのに」 ぐらいは思っているかも。

でもそれは、当局側からするとごくフツーの要求かもしれませんが、チベタン側からは屈辱ですね。

プライドがあればあるほど。

投稿: tak | 2008/03/24 00:13

Adrienne ◆HI8ebVe8lo さん:

日本では 「島流し」 のイメージがあるので、実質的には 「追放」 でも、誇り高き選択で逃げ場を選んだという印象を作るために、「亡命」 という言葉が必要だったのかもしれませんね。

で、今回の中国当局のやり口は、彼らがどう言いつくろおうとも、私は納得しません。

私、ダライ・ラマ贔屓ですし。

投稿: tak | 2008/03/24 00:17

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