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2008/04/30

「懐かしい」 という英語がない

英語には 「懐かしい」 とう言葉にぴったりと対応する単語がない。英語だけでなく、欧米語全般にもいえることだそうだ。

例えば、「○○が懐かしい」 とか、「○○を懐かしく思い出した」 とかいった日本語を英訳する場合は、いろいろな言い換えをして、できるだけ近い感慨を表現することになる。

じゃあ、英語には 「懐かしい」 を一言で表現できる単語がないから不便かといえば、そうでもない。不便なのは、「懐かしい」 という単語を含む日本語を英訳するときだけで、初めから英語で思考すると、不思議なことに日本的な 「懐かしい」 という感覚そのものが生じない。

つまり、初めから英語の文脈の中にいると、「懐かしい」 に相当する単語がなくてもぜんぜん不便じゃない。そういう感慨自体がわかないからだ。つまり、「懐かしい」 という言葉は、日本人特有のメンタリティに深く関わっているもののようなのだ。

「マイクの世界」 というサイトに、「なつかしいって英語で何て言う?」 というページがある。このページでは、一般的に 「懐かしい」 に一番近い表現として、"brings back memories" という言い回しが紹介されている。

だが、この言い回しを日本語に直訳すると 「思い出を呼び戻す」 ということだ。「懐かしい」 に比較すると、ちょっと即物的な感じは否めない。「お懐かしゅうございます」 なんていうぐっとくるような思いは、表現しきれないだろう。 

同窓会などで昔話に花が咲いた時など、「ああ、あの頃が懐かしいなあ」 という場合は、英語では  "We yearn after those old days." が一番近いだろうと書かれている。なるほど、そうかもしれないと思う。それでも、どうも 「懐かしい」 という 「手の届かない感傷」 は表現しきれない気がする。

これに関しては、このサイトの筆者も 「ただ筆者の体験では昔話がでてもこのような言い方はでてこないですね。もっと具体的なんですね」 と注釈を入れている。

確かに、「こんなことがあった、あんなことがあった」 という具体的な昔話に花が咲いても、それらは個別論であって、それらをふんわりと、しかも切実に包括する感傷として、ことさらに 「懐かしい」 なんていう必要は、欧米的メンタリティにはないのだろう。

また、思い出の品や写真などが出てきたときに、「わーっ、これ、なつかしいなぁ…」 「ほんとだ」 といった会話は、次のようになるそうだ。

"Wow, this brings back old memories."
"Yes, it certainly does."

直訳すれば、「わぁ、これ、昔の思い出を呼び戻してくれる」 「確かにね」 というようなことになる。これもまた、日本人の感覚からすると即物的に過ぎるような気がするのである。

基本的な発想の違いとして、「懐かしい」 というのは、自分の方が昔の思い出の中に溶け込む感覚で、英語的表現は、思い出の方が今ある自分にやってくるというニュアンスだ。どうやら、「自我」 の捉え方に違いがありそうな気がする。日本人の 「懐かしい」 という感情は、自我を超えてしまっているようなのだ。

一方で、英語にあって日本語で表現しきれないのは、"miss" という動詞を使った言い方である。

別れの場面で、"I miss you." と言えば、「私はあなたを失う」 という単純なことを言っているのではなく、「あなたがいなくなると、どんなにさみしいだろう」 というような、万感の思いを込めているのである。

「懐かしい」 と "miss" は、日本と欧米とのメンタリティの違いをものすごく端的に物語る言葉のようなのだ。

【平成21年12月7日追記】

このことに関して、非常に重要な続編を書いたので、よろしければ参照いただきたい。(こちら

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

これは興味深いですね。言語のメンタリティの違いについて考えさせられます。

拙い語彙力で、自分なりに「懐かしい」を英訳するなら、「Feel at home」なんてどうでしょう?

懐かしいというと、何か自分を迎え入れてくれる温かいモノという感じがして、「くつろぐ」と当てて見ました。

投稿: 夜の指揮者 | 2008/04/30 11:36

夜の指揮者 さん:

>これは興味深いですね。言語のメンタリティの違いについて考えさせられます。

本当にそうです。
同時に、自ら気軽に使っている 「懐かしい」 という言葉の根元的な意味を問い直したくなります。

「Feel at home」 は、う~ん、どうかなあ。

アメリカ人の家に招かれたときなんか、「気を遣わなくていいからね」 というような意味合いで、"Be at home." とか言われますので、ちょっと違うかも。

初めて訪問した家でも、そう言われちゃいますからね。

投稿: tak | 2008/04/30 13:02

懐かしいという言葉、エントリーの趣旨とは違うコメントになってしまいますが、オヤジと娘っ子の懐かしいの物差しが違う事に「あれ?オレって、もう若くない?」って思ってしまいました。

2年前に小学校を卒業して別の中学へ進んだ娘と、その友人。この前、スーパーの買い物途中にバッタリ遭遇。「キャー、懐かしいぃー!」とか騒ぎ立て、たった2年ぐらいで懐かしいのか?と思ってしまった私。だって、2年ぐらい前なら、「先だっては、どうもお世話になりました」ぐらいの感じなんだけど。与えられた時間は大人も子供も同じなのに、子供の方が進行が早いようですね。たった2年なんだけど、大昔に感じてしまうんでしょうね。何事も吸収するスピードが違うのか?。こうやって、年老いていくんだろうな。なんて危機感を覚えました。

投稿: やっ | 2008/04/30 14:03

初めまして

missが日本語で表現しにくいというお話が出ていますが、このmissに懐かしさの感覚が多少含まれている気がします。

実際、昔話で盛り上がっているようなシチュエーションでは、Gee, I miss those daysのような言い方をよく見かけます。

あのころはよかったなー、みたいなニュアンスだと思いますが、「懐かしい」と重なる部分が結構あるのではないでしょうか。

物の場合は、How I loved (these, those) ~、などが感覚としては近いかもしれませんね。

投稿: ぐすたふ | 2008/04/30 21:03

ぐすたふ さん:

ご指摘には、「なるほど」 という気がします。

ただ、それでも 「う~ん」 とうなってしまうのは、「懐かしい」 は形容詞なのに、英語では基本的に動詞でしか表現できないってことなんですよ。

形容詞は、自分の方が記憶の中に没入するけれど、動詞は、記憶を自分の方に引き寄せるというイメージのように思います。

その辺りが、「う~ん」 となってしまうんですよね。

投稿: tak | 2008/05/01 00:41

やっ さん:

>オヤジと娘っ子の懐かしいの物差しが違う事に「あれ?オレって、もう若くない?」って思ってしまいました。

身につまされました ^^;)

相対的な時間感覚が違うんですね。
じじいになればなるほど、遥か彼方の記憶が、"only yesterday" になってしまいます。

投稿: tak | 2008/05/01 00:44

懐かしいっていう言葉英語にありますよ。
”nostaligic"

まあ、アメリカ人は日本人のような長い歴史がないから、そんなに懐かしいっていう感じがなかなか少ないでしょ。

投稿: lol | 2011/07/05 08:29

lol さん:

>懐かしいっていう言葉英語にありますよ。
>”nostaligic"

"Nostalgic" ですね。

う~ん、ニュアンスがちょっと違うというか。

昔愛用していたちょっとしたものを見つけて、「ああ、これ、懐かしいなあ」という場合に、"nostalgic" というと、ちょっとヘビーな気がします。

>まあ、アメリカ人は日本人のような長い歴史がないから、そんなに懐かしいっていう感じがなかなか少ないでしょ。

英語はアメリカでできた言葉じゃないし、「懐かしさ」 は、数年でも醸造されますから、それは違うと思いますよ。


投稿: tak | 2011/07/06 11:23

「懐かしい」「英語」で検索してたどり着きました。

日本では本当によく使う懐かしい、という表現が他ではそれに当たる直接的な言い方がないんですねー^^ 知りませんでした。

自分が描いたイラストの感想を英語圏の方から頂くことがあり、分からないなりに辞書サイトや翻訳サイトで地味に調べて答えたりしてます^^

相手が言っていることはどうにかわかっても、なかなか自分が言いたいことが英語で分からないので、きっと文法も意味もおかしな英語になってると思います(笑)。

投稿: みのる | 2011/07/13 22:15

みのる さん:

>相手が言っていることはどうにかわかっても、なかなか自分が言いたいことが英語で分からないので、きっと文法も意味もおかしな英語になってると思います(笑)。

外国人がしゃべる日本語でも、なんとか言いたいことが分かったりしますから、大丈夫ですよ。

ちゃんとした英語のコミュニケーションが求められる場合もありますが、そうでない場合は、トライしてくれるだけで気持ちが伝わったりします。

投稿: tak | 2011/07/14 01:01

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