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2008/07/10

「あさぎ色」 を巡る冒険

私は歌舞伎者だから、「あさぎ色」 といえば鮮やかな水色だとばかり思っていた。「チョンと柝が鳴って浅黄幕が落ちると、お軽と勘平の道行」 というのはお馴染みの光景である。

そして、この 「浅黄幕」 というのは、空を表す水色の大きな幕であり、定式幕が開いた時に、舞台全面を覆っているのである。

ところが、世の中はわからないもので、「薄い黄色」、つまりベージュ系の色を指すという場合も、確かにあるようなのである。業界によっては、「あさぎ色」 といえばこっちの方という場合もあり、何がなんだかわからないのである。

そこでふと思い立って調べてみたら、意外なことがわかった。単に 「あさぎ色」 と言っても、実は 「浅葱色」 と 「浅黄色」 という異なった二つの色を指すようなのである。で、私のイメージの中にある水色っぽいのは、「浅葱色」 の方で、薄い黄色というのは 「浅黄色」 ということのようなのだ。

だが、これでもまだ済んだわけじゃない。ことはもっとずっとややこしいのである。

なにしろ、私の中にある 「あさぎ色」 のイメージを決定づけている歌舞伎の 「あさぎ幕」 は、「浅葱色」 からきているのだが、一般的には 「浅黄幕」 と表記される。かなりごっちゃになっているのだ。このあたりからして、困りものなのである。

MSN 相談室の 「浅黄色って」 という質問の項には、以下のような説明がある (参照)。

古くから浅葱と浅黄の混同はあったそうです。広辞苑を引いてみても、「浅黄」の項に『淡い黄色』『浅葱に同じ』の二つの意味が掲載されています。
また一説に「葱」が当用漢字ではないために「浅黄色」という書き方が一般的なのだ、というものあります。

ここまで調べてみて、ブルー系の 「浅葱色」 と、ベージュ系の 「浅黄色」 が混同され、ブルー系の幕までも 「浅黄幕」 と表記されるほどの混乱状態にあるというのは、なるほどよくわかった。困ったことだが、そういう状態だということは、とりあえあず理解しなければならないだろう。

ところが、これで終わりというわけでもないというのが、この問題のすごいところである。私のイメージの中にある 「鮮やかな水色」 は、本来の 「浅葱色」 というわけでもないようなのである。ああ、面倒くさい。

日本伝統色名の由来」 というサイトでは、「浅葱色」 は 「葱に因んだ色であるが、実物の葱より青み勝ちの浅い緑青色を言う」 と説明されている。ターコイズブルーに近い色だ。そして、いわゆる 「浅黄幕」 の水色は、「水浅葱 (みずあさぎ)」 というらしいのだ (参照)。

このページをさらによく探すと、同じ仲間に 「錆浅葱 (さびあさぎ)」 というのもあって、ややくすんだ浅い緑青色である。

そして、さらにだめ押し的なややこしさについて記す。ベージュ系の 「浅黄色」 は、本来は 「うすきいろ」 と読んでいたらしいのだ。それが 「浅黄色」 という表記に引きずられて 「あさきいろ」 「あさぎいろ」 に変化してしまったらしい。

「おいおい、いい加減にしてくれ」 と言いたくなってしまうではないか。どうやら、混乱の元はこのあたりにありそうだ。

シヅキログというブログの記事によると、「浅葱色」 と 「浅黄色」 の混 乱は既に平安時代の末には生じていたという、由緒ある混乱のようなのだ (参照)。以下に引用させていただく。

よくよく調べてみると、一説には「浅黄」を「あさぎ」と読み、現在の「浅葱」をさす色名として定着していた時期もあったと言います。そして時を経るにつれて、緑みの青は「あさぎ(浅葱)」色、薄い黄色は「浅黄(うすき)」色と読みと表記が別れたと言うのですが、何しろ1000年ほど前の事ですから資料に乏しく (以下略)

前々から薄々感じていたことだけれど、日本人の色彩に関するアティテュードは、めちゃくちゃアバウトである。いや、色彩感覚そのものは十分に繊細なのかもしれないが、色名を規定するにあたってのコンセプトが、情緒はあるけどアバウトすぎる。青と緑の区別が曖昧であることをとっても、それは疑いようがない。

というわけで、我々は、単に 「あさぎ色」 と耳で聞いただけでは、いや、さらに 「浅黄色」 という字をみただけでは、頭の中に浮かぶ色を早まって 1色に限定してはならないようなのである。

少なくとも、ターコイズブルー、水色、ベージュ系の、3つの候補をイメージしておき、あとは行きがかり上とか、話の展開上とか、なりゆきとかで、実はどの色なのかを判断しなければならないわけだ。

だめ押しのだめ押しとして、同様の混乱は、なんと 「もえぎ色 (萌葱色、萌黄色)」 にもあるようなのだ。これについては、もうほとほと嫌んなっちゃったから書かない。興味のある方は、こちらをご覧いただきたい。

本当に面倒だが、あるいはこれも日本文化に奥行きを与える一興なのかもしれない。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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コメント

私にとって、「浅葱色」はさだまさしの「精霊流し」で、「萌葱色」は那須与一。

どちらも最初は薄い黄色や、薄い緑のイメージだったのですが、高校のころ日本の色に興味を持って調べてみたら、全然違う色だったことに驚きました。

日本の色は本当に微妙で繊細な名前が付いているものだと感じたのを思い出しました。

投稿: 蝠樂亭 | 2008/07/10 22:46

蝠樂亭 さん:

>日本の色は本当に微妙で繊細な名前が付いているものだと感じたのを思い出しました。

微妙で繊細だからこそ、混乱も生じるんでしょうね ^^;)

投稿: tak | 2008/07/11 10:30

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