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2008/11/18

黒森歌舞伎による観客論

近頃、JR 東日本の電車内の吊り広告に、ウチの田舎の 「黒森歌舞伎」 が紹介されている。雪の降る真冬、地元の人たちが神社の境内で演じるものだ。

ポスターに映っているのは、多分、忠臣蔵の討ち入りの場である。実際に降りしきる雪が抜群の効果になっている。

Crack_081118_2 私は一度だけ、実際の現場で黒森歌舞伎を見たことがある。多分、30年ぐらい前のことだと思う。酒田からバスで 30分ぐらいの黒森で降りると、そこに大きな日枝神社があり、まさに芝居が始まらんとするところだった。

観客席なんてものは無論ない。みんな思い思いに地面に敷物を敷き、縦より横幅の方が広いぐらいの厚着をして、芝居の始まるのを待っている。そのぐらいの厚着をしないと、寒くて凍えてしまう。私は冬山用の寝袋を持参して、それに入ったまま見物した。

観客席がないというのは、神社仏閣で奉納される芸能の常である。芸能というのは本来、神仏に奉納するもので、「お客様は神様です」 というより、「神様がお客様です」 という方が近いものだった。

「近い」 と書いたのは、「神様がお客様」 というのもまた、正確な表現といえず、本来は、演者もまた精進潔斎して神の資格で芸能を演じるのであり、ということは、神様同士が楽しむものであったという方がよりよい表現だと思っている。

だから、その芸能を見物する人間というのは、本来は 「観客」 ではなく、単に神様同士の楽しみのご相伴にあずかる余計者だったのだ。折口信夫は、影でこっそり盗み見する精霊が、今の観客だったというようなことを言っている。

だから、雪の中で凍えそうになりながら、時にはホワイトアウトして舞台がよく見えなくなりそうな、芝居見物には最悪の条件の中でも、観客は文句もいわず、着ぶくれして、重箱のごちそうをつまみながら、一日地べたに座っているのである。(黒森歌舞伎は序幕から切りまで通し狂言で演じるから、朝から日暮れまでかかる)

もしかして、芸能の堕落は、お金を払ってくれる人間の方を本来の 「客」 と勘違いしたところから始まっているのかもしれない。

それから、ちょっと蛇足かもしれないが、この JR のポスターの 「山形は、男前」 というコピーが、私は気に入らない。その隣の 「新潟は、粋な華」 というコピーとのシリーズなので、そういうことにしたのだと思うが、黒森のある庄内は本来は山形じゃないのである。

これは、私がいつも言っていることだが、庄内人は 「山形県人」 と言われるのは渋々ながら受け入れるが、「山形人」 と言われるとかなりの違和感を覚える。山形と庄内は、別の国なのである。廃藩置県直後は、「酒田県」 という独立した県だったのだが、あろうことか、すぐに山形県に併合されてしまったのだ。

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コメント

黒森歌舞伎いいですね。寒い中、七輪を囲んで熱燗をいただきながら、歌舞伎を見て、さらに
演目は、雪の降る中での忠臣蔵って最高じゃないですか。

私も、檜枝岐歌舞伎でしたらみたことがあります。
春と夏に2回開催するのですが、夏が本番で混むので、春に見に行きました。
歴史的な建築物である芝居小屋、周辺は木々に囲まれて、何ともいえない非現実世界を感
じました。
春5月とはいえ、山を登れば尾瀬ですので、道のあちこちに残雪が残り、歌舞伎が開催される
夜は本当に冷え込みますので、厚着の上ベンチコートを羽織って観劇していました。
そうか、神様同士の楽しみを人間が盗み見させてもらっているのですね。確かに納得です。
人間は、我慢しなければなりませんね。

>庄内人は 「山形県人」 と言われるのは渋々ながら受け入れるが、「山形人」 と言われると
かなりの違和感を覚える。

全く同感です。
私も会津人で、福島人ではありませんが、かつての藩の格から言っても、福島藩は会津藩に
比べると取るに足らない規模ですので、福島県ではあまり福島人とは言わないような気がします。

投稿: 雪山男 | 2008/11/18 12:43

雪山男 さん:

>黒森歌舞伎いいですね。寒い中、七輪を囲んで熱燗をいただきながら、歌舞伎を見て、さらに演目は、雪の降る中での忠臣蔵って最高じゃないですか。

本当に、なかなかいいもんですよ。寒さを別とすれば。(別にしきれないので、ちょっと大変ですが ^^;)
でも、七輪なんか囲んでたかなあ?

なかったように思いますが、今はどうなんだろう? 卓上コンロなんか持ち込んでたりして。

>私も、檜枝岐歌舞伎でしたらみたことがあります。

檜枝岐歌舞伎もよさそうですね。
厳冬を避けて催されるのは、ありがたいかも。

>私も会津人で、福島人ではありませんが、かつての藩の格から言っても、福島藩は会津藩に比べると取るに足らない規模ですので、福島県ではあまり福島人とは言わないような気がします。

そうですね。福島人という言い方は聞いたことないですね。「会津っぽ」 と 「水戸っぽ」 は聞きますけどね。(ともに賊軍 ^^;)

投稿: tak | 2008/11/18 13:41


大阪も、府になる前は複数の藩が混在していたようです
大阪府は、大阪湾を抱え込んだブーメランのような形をしています
北西側がいわゆる北大阪
南東側がいわゆる南大阪です

北大阪は旧摂津藩
南大阪は和泉藩と河内藩

しかし摂津藩は兵庫県の東部もその領土で大きな藩
それを江戸側が恐れて大阪府と兵庫県に分割したと言う説がある
そうして歴史的にも共通点の無い、遠く離れた和泉藩・河内藩と無理にくっつけたらしい

だから兵庫県東部と北大阪は言葉が同じ北摂弁
例に取れば、元ヤクルトの古田がしゃべるのが北摂弁
JR西日本の事故があったときに、テレビでしゃべっている乗客の言葉が見事に北摂弁で、ハッとしました
一般的にテレビでしゃべられていて、標準大阪弁と全国的に思われている吉本系の大阪弁とは、微妙にちがうから、気がついたのです

南大阪の言葉
代表的なのが河内弁です
って、河内弁、本当はよく知らない (笑)

北大阪と南大阪、あまり交流しません
ブーメランの両端みたいに、すごく離れているし
私も遠足以外に行ったことがない

私の不満は、関空が和歌山との県境という大阪の最南端にあること
橋下知事がさかんに「(最南端の)関空を使え!伊丹空港(北大阪)など廃止しろ!」とわめいているが、バカじゃないの?
海外旅行の場合はしかたなく関空まで行っているが、国内旅行・ビジネスの国内出張に和歌山の手前まで行く人って、いますか?

最後はやはり、藩意識?が出てしまいました (笑)

それから血糖値が正常になったので、禁酒も解きました
ウシシシ
(酒の話題だとtak-shonai さんにしかられる)
失礼しました (笑)

投稿: alex99 | 2008/11/18 17:11

takさん

相撲や神楽や能楽、ひいては祭や禊といったものは元来は神事であるとされていますね。(今でも充分に神事の側面は多分に有しているといえるでしょうが。)

ですから、力士や芸能者は所謂シャーマンであり、八百万の神を召喚していたという見方も出来るかと考えます。

今でこそ日本生まれで無い横綱は多々輩出されておりますが、嘗て、外国人横綱は誕生しまいと思われていた時期がありました。その(抵抗感)の理由に、相撲は日本の神様の代理戦争であって、諸外国の神様を召喚するのは困るし、ましてや最高神が他所者というのは尚更だ、という意識が働いていたように見受けました。
相撲は競技では無く、(日本域限定の)神事であるという事かと私は捉えておりました。日本人以外だと理解に苦しむだろう内容ですね。(もちろん、日本人だからといって誰でも無条件に理解できる事でもありませんが・・・。)

寒い思いが苦手でしたら・・・
MOA薪能が毎年8月1日、2日に熱海で開かれております。
(MOAは、あの美術館のMOAです。)
私も、数年前に家内に拉致されて(笑)観てきましたが真夏の夜、松明の炎に照らされての演芸は幽玄という言葉そのもので、神様が暗闇に紛れて降りて来てるな、と思わせるに充分なものでした。

もちろんこちらも席は芝生に茣蓙となります。
しかも斜面となりますので、皆で体育座りしておりました。(懐)

投稿: 貿易風 | 2008/11/19 01:07

alex さん:

>だから兵庫県東部と北大阪は言葉が同じ北摂弁

微妙な違いまでは識別できませんが、確かに、いわゆる吉本のお笑いの大阪弁とは違いますね。
よそ者にはちょっと上品な感じがしてしまいます。

大阪は畿内だから、地域差が密なんでしょうね。
今の東京が下町と山の手でかなり違うみたいに。

>海外旅行の場合はしかたなく関空まで行っているが、国内旅行・ビジネスの国内出張に和歌山の手前まで行く人って、いますか?

ひえ~ん、贅沢に聞こえます (T_T)
私なんか、国内出張でも茨城県南西部のつくばから、千葉県を通り抜けて東京南部の羽田まで行ってますから。

>それから血糖値が正常になったので、禁酒も解きました

血糖値はすぐに乱高下しますから、油断は禁物ですよ。気を付けてくださいね。

投稿: tak | 2008/11/19 08:45

貿易風 さん:

>相撲や神楽や能楽、ひいては祭や禊といったものは元来は神事であるとされていますね。(今でも充分に神事の側面は多分に有しているといえるでしょうが。)

まさにその通りで、私は今でも相撲が 「スポーツ」 だなんて思えません。あれは広義の 「芸能」 です。
土俵入りは、狭義でも芸能ですし。

ただ、外国人の横綱が誕生して以来、少しだけスポーツ的な要素が入り込んでいますね。
朝青龍なんかは、単に 「格闘技」 だと思っている気配があります。

>寒い思いが苦手でしたら・・・
>MOA薪能が毎年8月1日、2日に熱海で開かれております。

こっちは暑そうですね ^^;)
でも、熱さを忘れそう。

投稿: tak | 2008/11/19 08:53

takさん

>「山形人」 と言われるとかなりの違和感を覚える。
私も同感です。
と言うか、takさんや私だけでなく、大方の庄内人はそう思っていますよね。
→「酒田市の噂」No.24 ( http://wiki.chakuriki.net/index.php/%E9%85%92%E7%94%B0%E5%B8%82

それとJRのコピーJR 「山形は、男前」
これもちょっと違和感が・・・。どちらかというと、隣の 「新潟は、粋な華」のほうがあってますよね。
何たって酒田市のキャッチコピーが「粋な文化に出会う街 湊街・酒田」ですから。

投稿: 伊藤 | 2008/11/19 15:10

伊藤さん:

「酒田市の噂」、見ました。
書いてあることのほとんどが、冗談じゃなく、かなり真実に近いので、コワイ ^^;)

>それとJRのコピーJR 「山形は、男前」
>これもちょっと違和感が・・・。どちらかというと、隣の 「新潟は、粋な華」のほうがあってますよね。
>何たって酒田市のキャッチコピーが「粋な文化に出会う街 湊街・酒田」ですから。

そうそう。
私も、「粋な華」 って、酒田の話でしょって思いました。
(新潟の人には申し訳ないですけど ^^;)

投稿: tak | 2008/11/19 16:25

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