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2008/11/12

「田母神論文」 問題を巡る冒険

田母神論文」 問題で、世間は不思議な騒ぎ方をしている。擁護する側も批判する側も、おっかなびっくりなのだ。

東京新聞は、"『持論、なぜ悪いのか』 自民部会 田母神氏に擁護論" の見出しで、自民党内部に田母神論文に共感する空気があることを伝えている。

報道によると、「(自衛隊の) 歴史認識を教育するなんてことを言ってもらったら困る」 「田母神氏の持論がなぜ悪いのか分からない」 「(防衛省が)歴史観を対象に懲戒処分しようとしたのは問題」 など、田母神氏擁護論が相次いだという。

私は八日前のおちゃらけ記事でもちらっと触れたのだが、今回の問題で一番クールな態度を崩していないのが田母神氏本人で、周囲は当たり障りのない建前論で逃げるか、田母神論文をヒステリックに否定しようとするか、はたまた、ある種靴の上から足を掻くみたいにオロオロしているかというのがほとんどのように見える。

麻生首相も田母神論文に関して、「幕僚長としては不適切」 と述べているだけで、論文の主旨、内容そのものに関しては、一歩も踏み込んでいない。踏み込んでしまったら、多分自己矛盾に陥ってしまうとわかっているから、ただでさえ面倒くさいこの時期に、そんなことはしたくないのだろう。

東京新聞の記事では、党内の不満に対して沢徳一郎元防衛庁長官が、「稚拙な知識で論文を書いていることが問題だ」 なんて、とんちんかんな釈明をしている。これは、例の論文コンクールの審査員長をつとめた渡部昇一氏を侮辱したことになると思うがなあ。それに、博学的知識で同じ主旨の論文を書けばいいということにもなりかねない。

私は前のおちゃらけ記事で、「『この程度でも、賞って取れるんだ』 と思ってしまった」 なんて書いているが、それは文章があまり上手じゃないとか、出典がほとんど示されていないとか、テクニック的なこを言っているのであって、内容そのものについてはほとんど批判していない。基本的には、「そういう見方があってもいいよね」 という態度である。

歴史とは、限りなく多くのうんざりするような要素がとぐろを巻くようにからまりあって、こけつまろびつ進むものである。一つの単純な歴史観で割り切れるようなものなら、誰も苦労はしない。

日本は一方的な侵略国だったことも、一方的な被害者だったこともないのである。だから、村山見解も田母神論文も、ある一つの見解であって、それですべてを言い切ることなんてできるわけがない。それは、5日前に書いた "栃木の 「モロ」 の教訓" とも共通する。

田母神論文を否定する立場の人は、彼の論旨の中のいろいろなポイントを取り上げて、鬼の首でも取ったように批判しているが、自分の論旨の中にも逆に批判されてもいいポイントは山ほどあるということを、是非忘れないでいてもらいたいなあと思うのである。

ただそれだけに、私のように 「いろいろあるよね」 なんて言っているだけでは不十分で、具体的にいろいろな見解が提示され、しっかりした見識を持って検証されることはもちろん必要だ。どちらかが他方を無闇に、あるいはヒステリックに抹殺しようとしたり、くだらない泥仕合に堕することは、避けたいものなのである。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント


tak-shonai さん

全くその通りですね

私は日本が侵略国家だったとはハッキリ認めます
しかし、欧米列強は侵略国家の大先輩だった
だからこそ「列強」になったのです

遅れてきた(ずいぶん遅れましたが) (笑) 有色人種初の帝国主義者たる日本に白人社会はパニックになった
例えばあのロシアに勝ってしまったのです
その反応がABCD包囲網であり・・・

いずれ怒りを込めて (笑) ブログで(楽天はやめないの?)書きます
ただ、空将殿の論文は散漫でロジックの構築も貧弱
あれで最優秀か? (笑)
私がゴーストライターになりたいな

投稿: alex99 | 2008/11/12 11:55

>日本は一方的な侵略国だったことも、一方的な被害者だったこともないのである。

私も同感です。
連合国側が正義と何となく考えがちですが、本来それぞれの利権のぶつかり合いが先の大戦
だったのですから、どちらも正しいわけでもないのです。
争いに負けてしまうと、勝者の歴史が記録されるのは、世の常ですので。

実は、田母神さんの意見には、賛成のところが、自分には多いです。
自虐的になってしまうのは、いかがなものかという気がします。国際社会は生き馬の目を抜く世界
なので、自虐的になると、相手に弱みを見せることになりますし。

先日のコメントでは、田母神さんに役人として、私見を述べるのがいかがなものか?といいました
が、よく考えてみると、単純に意見を述べただけで更迭までされるのは、いまいちだと思いました。
思想信条の自由は誰にでもありますし、今回は周辺諸国も何も言ってきていないので、外交上
支障も来していないのであれば、もっと違う処遇があったのではないかと思います。
マスコミもヒステリックに騒ぎすぎかな。と感じられますし。
ただ、高級官僚の発言は、時として外交や経済上にも影響を及ぼすので、もうちょっと考えてほ
しいと思う気持ちもあるのですが。。。

投稿: 雪山男 | 2008/11/12 12:43

この人って、いわば、在職中は、空軍大将でしょう。軍曹とか中間管理職が雄叫びの如く論文発表なら許せるような気もしないでもないが、やっぱ、私的には、今回の論文記述はまずいんじゃないのかと恐る恐る言ってみる。シビリアンコントロールを旨とする組織に在籍しながら統制側の見解と違うとなれば、こりゃ、問題あります。社長の言う事を聞かなくてもクビにはならないが、会社の風紀を乱すとなれば解雇もやむなし。

それよりも何よりも、強気で法改正を声高に叫ぶ姿に、「この人、酔ってる」と思ったのが正直な感想です。殺戮武器を保持した軍隊(軍隊じゃいの?自衛隊は?)をローゼンメイデン閣下とか呼ばれて、居酒屋で食べたホッケの塩焼きをホッケの煮物と間違って言って、ゲラゲラ下品な笑いを浮かべる首相が、統率を取ってるって、何か不思議。番頭が機敏だと旦那がアホでも切り盛りできるが、あまりにもシャープ過ぎると、なんとなく怖くなる昔で言う空軍大将様でした。

投稿: やっ | 2008/11/12 13:58

alex さん:

>遅れてきた(ずいぶん遅れましたが) (笑) 有色人種初の帝国主義者たる日本に白人社会はパニックになった

このあたり、侵略された側のメンタリティの中にもあって、例えば、中国は阿片戦争なんてお恥ずかしい策略を弄した英国には怒らず、もっぱら日本にだけ怒っているなんてことがあるということは、前に書きましたね。

「東アジアの序列メンタリティ」
http://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/08/post_de8d.html

「東アジアの欧米コンプレックス」
http://tak-shonai.cocolog-nifty.com/crack/2008/08/post_ad87.html

>ただ、空将殿の論文は散漫でロジックの構築も貧弱
>あれで最優秀か? (笑)
>私がゴーストライターになりたいな

同じようなことを、私も思いました (^o^)
あれは、かなり短時間で、やっつけで書いちゃったものだと思います。
いつも言ってることを、単に文章にしちゃっただけって感じで。

投稿: tak | 2008/11/12 14:09

雪山男 さん:

>が、よく考えてみると、単純に意見を述べただけで更迭までされるのは、いまいちだと思いました。
>思想信条の自由は誰にでもありますし、今回は周辺諸国も何も言ってきていないので、外交上支障も来していないのであれば、もっと違う処遇があったのではないかと思います。

あの 「更迭」 は、論理上はとてもよくできていて、「幕僚長としては不適切」 なので、まず、幕僚長としての任を解いた。

そうしたら、田母神さんの年齢は、たまたま 60歳を越えたばかりだったので、一般の将と同様の60歳定年が適用され、自動的に定年退職になったというわけです。

「幕僚長の任は解いたが、クビにまでしたわけじゃない」 というロジックですね。

実際、田母神さんがまだ 59歳とかだったりしたら、いきなり民間人になったかどうかは疑問です。
ただ、それはそれでまた大問題になるだろうから、自衛隊としては、彼が 60歳を過ぎていたということで、「ラッキー!」 と思ったでしょうね。
退職金も払ってあげられるんで、義理を欠いたみたいな感覚も薄らぐし。
(何しろ、自衛隊幹部の多くは、田母神さんと同じような見解ですから)

>ただ、高級官僚の発言は、時として外交や経済上にも影響を及ぼすので、もうちょっと考えてほしいと思う気持ちもあるのですが。。。

妙な意味で、ちょっと 「はしゃぎすぎ」 ということはあるでしょうね。
苦虫かみつぶしたような表情をして、案外やんちゃな人なのかもしれません。
(「そんなの関係ねえ」 とか言ったりして)

投稿: tak | 2008/11/12 14:23

やっ さん:

>番頭が機敏だと旦那がアホでも切り盛りできるが、あまりにもシャープ過ぎると、なんとなく怖くなる昔で言う空軍大将様でした。

言い得て妙 ^^;)

投稿: tak | 2008/11/12 14:30

やはり「航空自衛隊の幹部は頭が悪い」という機密事項を内外に知らしめてしまったのは安全保障という点でマズかった……。

投稿: 山辺響 | 2008/11/12 15:56

山辺響 さん:

>やはり「航空自衛隊の幹部は頭が悪い」という機密事項を内外に知らしめてしまったのは安全保障という点でマズかった……。

座布団 5枚! (^o^)

投稿: tak | 2008/11/12 16:01

山辺響さん、核心を突いてますね!
この事件、外交上実害は出ていないという見方もあるそうですが、ホントですかね。
先般は、イージス艦の機密漏洩事件によって自衛隊の機密保持能力に大きな不信感が持たれたため、日本が次期戦闘機として希望しているF22ステルス戦闘機に関して米国議会において輸出への反対が強まったと聞きます。今回の件も軍隊としての規律に不信感を持たれることは間違いないと思うんですけどね。
田母神氏と懸賞論文主催者であるアパグループ元谷氏に親交があったとのことで、語るに落ちたという感です。あふれんばかりの「愛国心」の持ち主が、まさにその「愛国心」を気持ちよくあふれさすことによって国の品格に泥を塗って行くというのはよくあるけれども困った現象です。

投稿: きっしー | 2008/11/13 09:45

きっしー さん:

>今回の件も軍隊としての規律に不信感を持たれることは間違いないと思うんですけどね。

それもありますが、基本的には、

自衛隊の本音>自衛隊の建前≧国の建前

みたいな見え見えの関係の中で、国の本音が拡散しているという図式も問題だと思います。

軍隊としての規律以前に、国の規律自体が変則的ですから、いろいろな跳ねっ返りは必然的に出ます。

>あふれんばかりの「愛国心」の持ち主が、まさにその「愛国心」を気持ちよくあふれさすことによって国の品格に泥を塗って行くというのはよくあるけれども困った現象です。

確かに、"あふれんばかりの「愛国心」の持ち主"同士の議論は、「そうだ、そうだ、その通り!」 ばっかりで、話が極端になりがちですね。

その点が心配です。

投稿: tak | 2008/11/13 12:35

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「田母神前幕僚長の独演会」について  ホントはやりたくないのだけれど、それでは世間が許してくれないから、イヤイヤ開いているホンネが、ブラウン管からただよってくるような参議院外交防衛委員会の田母神前航空幕僚長への参考人質疑の映像だった。論議を政府の責任問題に限定することで、話題が歴史認識に飛び火する事態を、質問者も政府答弁も必死になって押さえ込んでいた。とりわけアワレを感じたのは、民主党質問者の浅尾慶一郎議員と、犬塚直史議員の発言で、ターゲットを政府与党の責任問題にしぼり込んで、話題が歴史...... [続きを読む]

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