« 『唯一郎句集』 レビュー #54 | トップページ | 政見放送を聞いていて思ったこと »

2009/08/23

『唯一郎句集』 レビュー #55

昨日はたった 1句のみのレビューだったが、今日は一転して 4句もある。しかもわかりやすいようにみえて、実はちょっと難しいところもある句なので、難儀である。

文字通りの単純なわかりやすさというのは、実はその奥の何かを隠すための、隠れ蓑だったりすることもある。

今回の 4句は、そんな感じのする句である。それだけに、何となく一筋縄ではいかないような気がする。さらりと流してしまっては、唯一郎の術中にはまることになるのかと用心しなければならない。しかし、案外さらりと流す方がいいのかもしれないなどと、さらにまた余計なことまで考える。

とりあえず始めてみよう。

女教師茸汁を吸ひながら様々な案山子など思ひ出して

女教師といえば、唯一郎の初期の頃の作品に 「醜い女教師の朝寝よ枕辺の団扇よ」 というのがある。そしてその次に 「黒い襟巻の伯母が鰊の煙の中にて叫び」 という句がある (参照)。

もしかしたら、この女教師は唯一郎の伯母と同一人物で、身近に暮らしていたのかもしれない。当時のことだから、女教師になれるのはそれなりの家柄の女性だったのだろう。そして唯一郎は、この人があまり好きじゃなかったのではないかと思う。

困ってしまうのは、どうしてここに 「様々な案山子」 が出てくるのかということだ。この頃の唯一郎はシュールレアリズム的な感覚がものすごく強いので、読む方はあれこれ余計なことを想像してしまう。

女教師がとろみの強い茸汁を、ずずっと音を立てて吸う。そして 「様々の案山子」。なんとなく通じてくるイメージがあるが、それを具体的には書き表せない。レビューしにくい句である。

案山子が一列に見えてはおかしいこともある俺の家で

当時は唯一郎の自宅兼印刷工場から、田んぼが見渡せたのだろう。彼岸が過ぎて稲刈りの季節である。案山子がずらりと並んでいる。

前の句の女教師が思い出したのは、このずらりと並んだ案山子なのだろうが、おそらくその背後に、もっと別なものをみている。世のしがらみを背負った別のものである。

しがらみを背負ったものが、一列に並んで見える。それはおかしいと唯一郎は思う。しがらみは様々に見えても、その奥に共通した不条理がある。

女が朝に歩いて小鳥網にからまつてから日が出で

ここに出てくる 「女」 も、伯母であり、女教師である人物かもしれない。この人物がなぜか、夜明け前に畦道を歩く。

薄明の中で、霞網にからまった雀がもがいている。その横を女が歩く。無表情に歩く。そうこうするうちに、東の山から日が昇り、世界が明るくなる。

不思議なイメージの句である。

片仮名の手紙に野菊など描いて其日は安心で

手紙を書いてそれに野菊の絵を添える。今でいう絵手紙みたいなものだ。

その手紙は、カタカナで書いた。どうしてカタカナなのだろうか。まず考えられるのは、子ども宛の手紙だからではないかということだ。近代の子どもだから、活字で育っていて、流麗に続けた変体仮名は読めない。

もしかしたらこの手紙を書いたのは、唯一郎ではなく、女教師なのかもしれない。教え子宛に絵手紙をしたためて、安心した気分になったということなのか。

あるいは、唯一郎がこの女教師である伯母宛にカタカナの手紙を書いたのか。敢えてカタカナにしたのは、本心を隠すためか。それはなんとも言えない。

本日はこれぎり。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

|

« 『唯一郎句集』 レビュー #54 | トップページ | 政見放送を聞いていて思ったこと »

唯一郎句集 レビュー」カテゴリの記事

コメント

(ご家中のことをあれこれ申し上げます。ご了承ください。)

 このおば様という方、ご一家の中では“浮いた”存在だったのでしょうか。
 案山子の言葉も、このおば様に意見しづらい他のご一家の面々を表現しているのか、と、感じ入ってしまいました。

 はじめは案山子という言葉から、おば様のご職業柄、指導する児童、生徒の『居並ぶ頭』を想像しました。
 しかしながら、『一様にモノもいわず、距離を保っている皆様』を想像し、唯一郎さんがそのはけ口として、これら句を発せられたのではないかと、僭越ながら思った次第です。


 …アタクシは家の中で、案山子然たるや、ひとり。

投稿: 乙痴庵 | 2009/08/25 13:59

乙痴庵 さん:

>このおば様という方、ご一家の中では“浮いた”存在だったのでしょうか。

私は唯一郎の血のつながった孫ではありますが、母は養女に出された存在ですので、唯一郎の家系については、あまり親しくは知らないのです。

ですから、今回のレビューは、かなり想像でものを言っています。いかにもありそうということで。

投稿: tak | 2009/08/25 19:41

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/42004/45994559

この記事へのトラックバック一覧です: 『唯一郎句集』 レビュー #55:

« 『唯一郎句集』 レビュー #54 | トップページ | 政見放送を聞いていて思ったこと »