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2009/09/05

『唯一郎句集』 レビュー #58

今年は秋の訪れが早い気がする。今日も晴れている割には風が爽やかで、雲も高く盛り上がらない。

『唯一郎句集』 の進行はもっと速い。もう晩秋の句に差し掛かった。庄内の晩秋は冷え冷えとしている。地吹雪の季節が、角を曲がったあたりまで来ている気がする頃だ。

今回の 4句は、かなり粒ぞろいだ。さっそくレビューにはいろう。

心沈みはてし時は赤き柿の葉にふれてありぬ

晩秋の午後、心が沈む。単に沈むのではなく 「沈みはてし時」 というのだから、大変なメランコリーである。

庭の地面に柿の赤い落葉が散り重なっている。その落葉を拾い上げている姿が想像されるが、句としては、沈みはてた心が地面まで降りていって落葉とともに重なっていると歌っているのだとみたい。

唯一郎の新感覚派的感性である。

心病む若者が畦の霜の音ひそまり聞きし

心病む若者とは、自分自身のことを言っているのだろう。

朝に畦道を歩くと、霜柱を踏んでその音がひそかに響く。

夜中から明け方にかけてせっかく盛り上がった霜柱を無惨にも踏んで歩く。霜柱の崩れる音が、自分の心の静かな叫びのようにも聞こえる。

父が居眠りをして父の活けた菊の前で長男であり

唯一郎の父が生きている頃の句である。だから、まだまだ若い頃だ。

父が居眠りをしている。その父が、菊を活けた。多分それは仏壇に供えたのだろう。

仏壇に供えられた菊の前で、長男であることのさだめのようなものを感じる唯一郎。長男である限りは、家業を継がなければならない。俳句で身を立てることは諦めなければならない。

ちなみに次男 (唯一郎の弟) は、東京に出て立身出世し、海運業界の団体の理事長にまでなった。自分はそうした自由を許されていないと感じている。自分の不自由さを受け入れつつも、それに馴染めないでいる唯一郎。

若い舩乗にマントを借りし暗い街で鰰がひかる

酒田は港町である。船着き場に出ると、大陸からの季節風がことさらに吹き付ける。あまりの寒さに、若い船乗りがマントを貸してくれた。

鰰 (はたはた) が陸揚げされる。庄内の冬の風物詩だ。暗い空の下で、魚偏に神と書く魚が光る。その光を見て、この町で生きていこうとする自分を励ましている。

本日はこれぎり。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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