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2009/12/24

「偽カシミア」 を巡る冒険

繊維業界では、岩手県立大研究チームが開発したという 「特殊な光を当ててカシミアの純度を測定する技術」 というのが話題になっている。(参照

テラヘルツ波という電磁波を当てて分子レベルの振動を起こし、その振動数の違いで 「偽カシミア」 を見分けるのだそうだ。

実は 「偽カシミア」 というのは、珍しいものでも何でもない。その辺で売られている 「カシミア 100%」 と表示された品物を買ってきてきちんと鑑定検査すれば、ウールなどの他繊維を混入したものが、かなりの比率で見つかると思う。

「他繊維混入」 どころか、甚だしくは、検査してみると 「カシミア比率 0%」 (つまり、「カシミア 100%」 と表示された品物に、カシミアが全然入っていない)  というのだってある。昨年は複数の大手メーカーの 「偽カシミア」 商品が見つかって、業界は大騒ぎになった。

ただ、これは日本のメーカーが意識的に偽カシミア商品を作って市場に投入したわけではない。彼らもだまされたのである。というのは、今どきのカシミア製品のほとんどは中国で生産されていて、中国で下請生産をしている工場か、あるいはその前の段階の紡績メーカーが偽物を作って、いけしゃあしゃあと納品してくるのだ。

まあ、基本的に悪いのは偽物を供給するサプライヤーだが、日本側のバイヤーの質も落ちていて、「こりゃ、怪しいぞ」 と気付くことができなくなっているというのも、問題といえば問題だ。昔から 「カシミアはプロの商品」 と言われていて、素人が手を出すと痛い目に遭う。今に始まったことじゃないのだ。

あるいは、「こんな安い値段で 『カシミア 100%』 ができるわけない」 と、薄々勘づきながらも、「売ってしまえばこっちのもの」 とばかりに、ろくな検査もしないで市場に投入するというケースもあるのかもしれない。そうなると、日本のバイヤーも中国とほぼ同罪ということになる。

カシミア糸というのは、カシミア山羊のうぶ毛で作られる糸で、これは 1頭から年間 200グラムぐらいしか取れないといわれる。それだけに希少価値があるのだが、一説には、ざっとみて原毛の供給量の 4倍に相当するカシミア製品が市場に流通しているらしい。

中国におけるカシミア原毛から衣料品にいたるまでの生産プロセスの各段階で、「やった者勝ち」 的にどんどん偽物が混じり、完成段階では、偽物が相当多くなっているというわけだ。

混率の偽装表示なんてのも日常茶飯事で、「カシミア 50%」 と書いてあっても、実際は 10% 程度 (それじゃ、ほとんど意味がないのだが) だったりすることもある。だから、とくに妙に安い値段のカシミア製品を買う場合は、眉に唾をつけて買う方がいい。

どうしてそんなに偽物が出回るのかというと、鑑定が難しくて費用もかかるからだ。熟練した鑑定士が顕微鏡を覗き、製品から抜き取った毛の一本一本をためつすがめつ見定める。羊毛が混入されていても、羊毛特有のスケール (うろこ) がオフスケール加工で取り去られていると、カシミアの毛そっくりになり、見分けるのが難しい。

さらに、中国の供給側もさるもので、検査用サンプルだけをきちんと正直につくって、それ以外は偽カシミアをどっさり送りつけてくるなんていうのは、常套手段になっている。こうなるとランダムに抜き取って検査する必要があるのだが、費用と時間がかかるので、なかなか徹底できないのが現状だ。

それで、一瞬の間に判定がつく電磁波検査というのが注目されるのだが、装置を作るのが大変で、かなりの高額にもなるだろうというわけで、急に広まるとは考えにくい。だから、偽カシミアはまだまだ横行するはずだ。

ここまで来ると、偽装表示を擁護するわけでは決してないのだが、消費者としてはこうした状況を認識し、毒餃子みたいに体に害になるわけじゃないと割り切って、細かいことはことさら気にしないでいる方が、精神衛生にはいいだろうと思う。ラベルに書かれた数字を買うのではなく、「品物」 を買うのだと思うことだ。かなり嘆かわしいことではあるが。

ある意味、消費者が 「カシミア 100%」 というラベルが付いている商品を過剰に (あるいは無駄に) 欲しがるから、つけ込まれるということもある。正真正銘の 「カシミア 100%」 が欲しかったら、それなりの金を払って高級ブランドを買えばいい。

ただ、私なんかごく普通のウールのマフラーが欲しいと思っても、店によっては、大した値段でもないのに 「カシミア 100%」 しか置いてなくて、しらけてしまうことがある。本物だか偽物だかわらかないものを、自動的に売りつけられるという状況になっている。選択の余地がないのだもの。

さらにまた、高級ブランド品でも偽装表示されていないという保証はない。イタリアの高級生地なんかも組成表示に関しては案外ルーズなところがあるのだが、それを言い出したらキリがないから、ここではこれ以上触れないでおこう。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」へもどうぞ

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