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2010/02/23

ポリエステルのスカートやズボンの毛玉

アパレル業界に寄せられる品質面でのクレームの中で上位に入るのが、「ピリング」 という問題だ。いわゆる 「毛玉」 である。生地の表面に生じた毛羽 (けば) が絡まり合い、小さな粒になったものだ。小さな粒なので、英語では錠剤の 「ピル」 と同じ言葉で表現し、それが業界用語になっている。

ピリングは大なり小なりどんな生地にも発生するが、圧倒的に短繊維織物や編み地に多い。短繊維とは、綿やウールなど、比較的短い繊維である。それを撚り合わせて糸にする。短い繊維を撚り合わせているので、糸の中に繊維の端っこが多い。その端っこが摩擦で表面に引き出されると、互いに絡み合って粒状になり、ピリング発生ということになる。

一方、シルクなどは一般的にピリングが発生しにくい。蚕の口から吐き出された長い長い繊維 (長繊維) を使って糸を作るからだ。糸の中の繊維に端っこがほとんどないようなものなので、毛羽も出にくい。

そして、ポリエステルも一般的には長繊維に分類される。蚕の口からシルク繊維が吐き出されるように、工場のノズルから細いポリエステル繊維が延々と吐き出されるので、端っこがほとんどない。それで、生地の表面に毛玉が発生する発端も少ないのだ。

ところが、ピリング関連で寄せられるクレームのほとんどは、ポリエステル 100% のスカートやズボンに生じたものである。これは一体、どうしてなのか。

ポリエステル繊維を使って糸を作る際に、長い長繊維をわざわざブツブツ切って、短繊維にし、綿やウールのように撚り合わせて糸にすることがある。どうしてこんなことをするかというと、安いポリエステルを使って、いわゆる 「ナチュラルな」 質感を表現しようとするからだ。

ポリエステルを長繊維のまま使えば、一見シルクのようなテレンテレンの表面感になる。ブラウスやワンピースドレスなどは、そうした使い方をすることが多い。だから、これらのアイテムではピリングのクレームがほとんどない。

しかし、スカートやズボンの場合、シルクのようなテレンテレンの表面感ではなく、ちょっとざらっとした綿やウールのような感覚が求められる場合が多い。そんな感覚を表現するために、ポリエステル繊維をわざわざブツブツ切って、綿やウールのような短繊維にしてしまうのだ。

いくらポリエステルでも、ブツブツ切って短繊維にしてしまうと、それを撚り合わせて作った糸の生地は、表面がテレンテレンしない。一見すると綿やウールの生地に近い感覚が生じる。それで、「天然繊維ライク」 とかいう謳い文句で市場に流れる。綿やウールよりも安いから、値段の安いスカートやズボンに使われる。

ところが、ここからが問題だ。「天然繊維ライク」 のポリエステル生地は短繊維だから、毛羽が発生しやすい。とくにショルダーバッグとの摩擦が生じる腰の辺りとか、椅子との摩擦が生じるお尻の辺りに、びっしりとピリングが発生する。

綿やウールの場合は、繊維がポリエステルより太いので、ピリングも比較的大きい。そしてポリエステルよりずっと弱いので自然に落ちやすいし、指でつまんで容易に取り除くこともできる。しかし、ポリエステルはなまじ丈夫だから、なかなか取れにくい。それで、「小さな毛玉がびっしりとついて取れない」 というクレームになる。

私個人としては、天然繊維のような感覚のスカートやズボンが欲しかったら、綿やウールのものがいくらでもあるのだから、それらを買えばいいと思う。しかし世の中には安い値段に釣られて、ついポリエステル 100% のものを買う人が多い。店でも 「ポリエステルだから丈夫ですよ」 なんて言って、無責任に売りつけたがる。

ポリエステル短繊維の生地は、ピリングが避けられない。そして前述の如く、なまじ丈夫なので一度生じたピリングは取れにくい。だから、それを承知で安物を買うのだと思った方がいい。

ところが、消費者のほとんどはそんな知識がないから、「3日はいたら毛玉だらけになった」 とクレームを付けることになる。ポリウレタン・コーティングの合成皮革は 3~4年しかもたない (参照) というのと同様、消費者知識として定着していないのが問題だ。

売る側としては、そんなネガティブな要素は敢えて大きくは訴求しない。小さな注意書き表示を、最低限のアリバイ作りみたいになるべく目立たないようにぶら下げて責任逃れするだけだから、それを購入する消費者のほとんどは、そんなことに気付かない。

それで、合成皮革の表面劣化と、ポリエステルのスカートやズボンのピリングは、何十年も同じ繰り返しで、ほとんど進歩がない。

補足だが、セーターなども毛玉ができやすいが、ウール 100% なら、比較的簡単にポロポロ落ちてしまう。ところが、紡毛系 (詳しくは長くなるので こちら) は、強度保持のためにアクリルなどを混紡することが多く、合繊は下手に丈夫なので、毛玉が落ちにくくなる。

インターネットで調べると、綿やウールは毛玉ができないなんて書いてあるページがあるが、それは間違いで、できてもすぐ落ちるから目立たないというだけのことだ。落ちてから、部屋の隅で大きなフワフワの毛玉に成長する。合繊だとなまじ丈夫なので、いつまでも頑固にひっついて、服の表面で目立ってしまうのである。

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コメント

takさん

短繊維ポリエステル生地といえば・・・
外せないのがマジッククロス@100円ショップ。
濡乾どちらもこなしてしかも基本洗剤要らずと思える程に拭汚性能が高い。
素晴らしい製品で家の中でもクルマの中でも重宝しています。


値段の高低のみが判断材料のご婦人方にも教えてあげたいところですね。
『アナタがお召しの服地(の製法)はPC画面拭きクロスと一緒なんですよ』って。
どういう反応を示すのでしょうか・・・
(悪趣味ですねぇ。>小生)


投稿: 貿易風 | 2010/02/24 00:16

貿易風 さん:

ユニクロのフリース製品 (いや、別にユニクロでなくても、ポリエステル・フリースなら OK) は、古くなってヨタヨタになったら、切り刻んでぼろ切れにすると、油汚れを取るのに素晴らしい効果を発揮します。

なかなか素晴らしいリサイクルになります。

表面がツルツルのところに書かれたものなら、油性マジックの落書きでも落ちますから、すごいですね。

これもひとえに、もとが樹脂なんで、油との親和性がいいからなんでしょうね。

投稿: tak | 2010/02/24 12:03

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