« 「共食」 と朝青龍を巡る冒険 | トップページ | トヨタの 「健康のためなら命も惜しくない」 症候群 »

2010/02/09

シンプルとエンプティネス

原研哉というグラフィック・デザイナーがいて、無印良品のアドバイザリーボードのメンバーにもなっている。私はとくに注目するというほどじゃなかったが、ほんの少しだけ意識はしていた。ただ、意識するにしても 「ほんの少しだけ」 だから、あまりよく知っていたわけじゃない。

だがしかし、これからはこの人に注目することにしよう。なかなかの卓見だ。そう思ったのは、無印良品のトークイベント採録というウェブページ (参照) を読んで、「ふむふむ、なるほど」 と膝を打ったからだ。

そのトークのタイトルは 「無印良品はシンプルではなくエンプティネス。"空っぽ" の中には何でも入れられます」 というものだ。一見するとなんだか、昨日ちょっとだけクサした広告代理店のつくりそうなコピーのように思えたが、どうしてどうして、なかなか読み応え (本当は 「聞き応え」 だったんだろうが) のあるものだった。

原氏はこのトークイベントの中で、「シンプル」 というのは 150年ぐらい前にできたのだとおっしゃっている。「シンプル」 が進化して 「複雑」 になったのではなく、世界は元々 「複雑」 から始まったのだという。

その複雑さを理性で乗り越えてシンプルにたどり着いたのが、約 150年前に 「近代社会」 と言われるようになった頃なのだそうだ。美術史をながめてみれば、確かにその通りで、薄々わかってはいたけれど、改めて言われると 「なぁるほど!」 と納得する。

ところが、その 「シンプル」 より早く誕生していたのが、日本の 「簡素」 というものなのだそうだ。原氏に言わせると、それは応仁の乱で都が焼け野原になってしまったことによる 「革命的リセット」 なんだそうだ。戦乱と絢爛に倦んだ時代感覚の極まったミニマリズムである。

そのミニマリズムの中に 「見立て」 というコンセプトによって、全てを観る。枯山水の中に山河を観る。一輪挿しの中に宇宙を観る。それは、「空っぽ」 だからだ。「空っぽ」 だからこそ、何でもかんでも放り込める。

「無一物中無尽蔵」 という禅語があるが、それを実際の美学の中に生かしているという点においては、日本が世界最高だろう。それは、原氏がこのトークイベントの最初の方で述べておられる 「神社」 のコンセプトからきていると思われる。

日本の神道というのは、原初的なアニミズムを洗練させたものとみることができる。人類の原初的な直観はかなりすごいものだが、それだけでは 「文化」 として洗練されにくい。ところが日本人は、それをやってしまった稀有な民族である。

神の依り代を作るにはどうすればいいか。神が依ってくるためには、空っぽでなければならない。その 「空っぽ」 を文化として昇華させたのが、「侘びさび」 と言えるかも知れない。

日本という国は、プリミティブでフォークロアリスティックなコンセプトが、かなりセレブなレベルにまで昇華されているという点で、ちょっと特殊な文化をもっている。ヨーロッパの国々の美術館巡りをして、日本との差に驚くのは、ただただこのことに依るのではないかと思う。

日本人が意識的にインターナショナルであるためには、このことをきちんと知って、自分なりに咀嚼しておく方がいい。そうでないと、単に薄っぺらなコスモポリタンもどきになってしまう。

|

« 「共食」 と朝青龍を巡る冒険 | トップページ | トヨタの 「健康のためなら命も惜しくない」 症候群 »

比較文化・フォークロア」カテゴリの記事

コメント

ようやく読み終えました。(^^;

いやぁ、びっくりするくらい面白いですね。
特に前半部分、実に面白いです。
空間の捉え方が変化しそう。

4ページ目あたりから無印良品の話になっちゃいますが、
MUJIに関しても、このように説明されると
なるほどそういうことかと思います。

あまり無印良品は好きじゃなかったんですが、
今後は違う角度で見ることができるかもですね。

投稿: ぺれ | 2010/03/03 20:12

ぺれ さん:

>いやぁ、びっくりするくらい面白いですね。
>特に前半部分、実に面白いです。

でしょ。

ものづくりのバックグラウンドには、このくらいの哲学があらまほしきものと思います。

投稿: tak | 2010/03/04 12:41

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/42004/47522198

この記事へのトラックバック一覧です: シンプルとエンプティネス:

« 「共食」 と朝青龍を巡る冒険 | トップページ | トヨタの 「健康のためなら命も惜しくない」 症候群 »