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2010/03/02

「号泣」 という言葉がインフレを起こしてる

私は時々 「言葉」 というものをテーマにした記事を書くので、「正しい日本語」 とやらにこだわる保守派だなんて思われているフシがあるが、実はそうでもない。「ら抜き言葉」 にはとても寛容だし、若者言葉だって案外取り入れたりしている。このブログでも 「チョー」 という形容詞 (?) は度々使ってるし。

言葉というのは生き物のようなもので、時代とともに変化する。だから、決まった言い方にこだわりすぎるのは考え物である。人間というのはちゃんとそれを理解しているから、結果的に我々は、江戸時代の日本語をしゃべらずに済んでいる。江戸時代の日本語で今の情報化社会を語ったら、さぞかったるいだろう。

とはいいながら、最近、「これはちょっと、いくらなんでもないんじゃないの?」 と思ってしまうことがある。例えば 「号泣」 という言葉のインフレ現象である。とくにスポーツ新聞や週刊誌の見出しに多くみられる。

先週、インターネットでオリンピック関連の記事の見出しを追っていたら、フィギュア・スケートの浅田真央選手が銀メダルに終わり、インタビューで 「号泣」 したというのが何件か見つかった。(念のため再度調べたら、以下の 2件が残っていた)

真央 自己ベストも悔しい号泣“銀”

浅田真央一歩及ばず銀メダル、キム・ヨナが金、安藤美姫はメダル届かず5位/フィギュアスケート女子
(記事中に 「浅田真央はインタビューで 『長かったというかあっという間でした』 と話した後、こらえきれず号泣した」 とある)

金メダルを狙っていただけに、よほど悔しかったんだろうなあと思ったが、「号泣」 に関しては敢えて眉唾にしておいた。近頃、「号泣した」 という触れ込みのインタビューを、たまたまテレビなどで見ることがあっても、ほとんどの場合、ちっとも 「号泣」 なんてしてないのだ。大抵は、ちょっとすすり泣いている程度である。

で、今回の浅田真央選手のインタビューも、たまたまニュースで見たのだが、やっぱり 「号泣」 なんてしてなかった。しきりに鼻をすすり上げ、目の周りの化粧がちょっと滲んでしまった程度である。むしろ健気な印象で、あれを 「号泣」 なんて言ったら、当人に失礼なお話だと思う。

ちなみに、Goo 辞書で 「号泣」 を調べると、以下のようになる。

(名)スル
大声をあげて泣き叫ぶこと。

すすり泣いたぐらいのことで 「号泣」 と表現してしまうのは、「言葉のインフレーション」 である。近頃デフレ気味で貨幣価値は下がらないが、「号泣」 という言葉の価値は目に見えて下がっているようなのだ。というわけで、浅田真央さんは、ちょっと気の毒っぽい記事を書かれてしまったわけだ。

こんな程度のことで 「号泣」 と書く理由としては、次の 2つが考えられる。

  • 大げさに表現する方がインパクトがあって売れる
  • 近頃の若い記者は 「号泣」 の本当の意味を知らない

「大げさな表現」 ということに関しては、確かにスポーツ新聞や週刊誌は、なんでもかんでも過剰に表現したがる。さらに近頃は 「号泣インフレ」 で、「すすり泣いた」 程度の表現ではインパクトがないので、なんでもかんでも 「号泣」 にしてしまうのかもしれない。

さらに私は、若い記者たちが 「号泣」 の意味を知らないのではないかと、秘かに疑っている。「感極まって、こらえきれずに涙があふれた」 という場合、この 「感極まった」 ということの方を大きく捉えすぎて、つい 「号泣」 と言ってしまいたがるのではなかろうか。

そう思って調べたら、NHK 放送文化研究所のデータが見つかった (参照)。このページには、"「映画を見ていて号泣してしまった」といったような言い方が、最近増えています" とある。映画を見ながらオイオイ泣き叫ぶ人はあまりいないんじゃないかというわけで、アンケートを実施したもののようだ。

「号泣」 の意味について、アンケートをしてみました。「大声で泣くこと」 と 「声を押し殺し大量の涙を流して泣くこと」 のどちらを指すかを尋ねたものですが、若い人ほど 「声を押し殺し~」 という回答と 「どちらも正しい」 が多くなっていました。つまり、「泣き声を伴わない 『号泣』」 は若い人に特によく受け入れているのです。

やっぱりね。若い人の中には、「号泣」 の本当の意味を知らない人がかなりいるようなのだ。「声を押し殺し~」 が正しいという回答と、「どちらも正しい」 という回答はそれぞれ、10代で 22%、24%、20代で 8%、17%、30代で 9% 18% となっている。そして 40代以上になるとこの数字が急減する。

それにしても、20代と 30代では、4人に 1人が誤解している程度だが、10代のほとんど半分が 「号泣」 の意味を誤解しているのだとすると、この言葉の行く末もかなり怪しいものになってしまう。

ちなみに、この調査結果は 2010年 3月 (つまり、昨日か今日) にアップされている。真央ちゃんの 「号泣」 報道に違和感をもってしまって、緊急アンケートしたんだろうか。そうだとしたら、NHK のアクション、ものすごく迅速だ。でもまあ、たまたま、ちょうどいいタイミングになっただけなんだろうな。

【3月 4日 追記】

私としては、このくらいでないと 「号泣」 の名に値しないと思ってしまうのだが。

http://www.youtube.com/watch?v=iZdJ5wg38-8

http://www.youtube.com/watch?v=HCItp3pvh-Y

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言葉」カテゴリの記事

コメント

「うわぁ~ん!」とか、「お~いおい!」という台詞が伴いそうなイメージだったんですが…。

 チョー悔しいときと、バリ悲しいときに、号泣が出てくるもんですよね。(←オッチャン無理スンナ…)
 前後不覚の如く周りも見えなくなって、見境なく悔しいとか悲しいを爆発させる様子だと、認識しております。

 「感極まって~」の場合は、大きな喜びや深く感動したときに発動される方が、文章的にはカッチョエエと思ってます。

 ところで、「苦節25年、今頂点に立つ!」なんてときの、大声を伴う泣き方は、号泣でよろしいでしょうか?


 昔のことですが、故内海好江師匠のご主人がお亡くなりになった際、新聞のテレビ欄で、『内海好泣号泣』という誤植を発見したことを、思い出しました。

 最近、号泣してねえなぁ…。

投稿: 乙痴庵 | 2010/03/02 19:24

号泣の誤用は三省堂国語辞典が第6版で押さえているようですね。
下のリンクは三省堂の辞書サイトです。
最初は誤用であってもそう捉える人が増えてくるとなると変化していくものなのでしょうか?
個人的にはその誤用がどういう過程で広まっていったかに興味があります

http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/2008/03/26/%e3%80%8e%e4%b8%89%e7%9c%81%e5%a0%82%e5%9b%bd%e8%aa%9e%e8%be%9e%e5%85%b8%e3%80%8f%e3%81%ae%e3%81%99%e3%81%99%e3%82%81-%e3%81%9d%e3%81%ae8/

投稿: reccoa | 2010/03/02 20:37

乙痴庵 さん:

>「うわぁ~ん!」とか、「お~いおい!」という台詞が伴いそうなイメージだったんですが…。

嗚咽しながらね ^^;)

>昔のことですが、故内海好江師匠のご主人がお亡くなりになった際、新聞のテレビ欄で、『内海好泣号泣』という誤植を発見したことを、思い出しました。

テレビ欄というのは、誤植の宝庫らしいですね。

>最近、号泣してねえなぁ…。

たまには遠慮なく泣く方が、健康にはいいらしいですよ。

とはいえ、私も号泣してないなあ。

投稿: tak | 2010/03/02 23:07

reccoa さん:

そうですか。

ついに三省堂の辞書が対応しちゃいましたか。

(ちょっと早すぎという気もしますが ^^;)

私としては、号砲一発とか、号令とかいう言葉の関連で、大声がないと号泣にならないと思ってるんですがね。

投稿: tak | 2010/03/02 23:09

泣きながら、意識して、声を出すことはあるし、
抗議の声ともに泣くこともある。
しかし、大声を出すことは大泣きの必須条件ではあるまい。

そもそも人が、悲しさや悔しさの発露として純粋に泣くときに、
嗚咽以上の大声を出すものだろうか。
嬰児が泣き叫ぶのは単に不快だからに過ぎず、これらの感情とはまだ無縁であろう。

号泣とは、怒髪、血涙と同じく、写実ではなく、
感極まって大泣きすることを意味する慣用表現として良いのではなかろうか。

>しきりに鼻をすすり上げ、目の周りの化粧がちょっと滲んでしまった程度である。
私は、あのアイシャドーの崩れ行くさまがショックでした。
"号泣"といって良いんじゃないかなあ。


ただし、
〈30分後に声を止めて号泣してる娘を発見〉
「声を押し殺して号泣していた」
これらはオカシイ。
ともに"泣きじゃくっていた"とでもすべきでしょう。

投稿: McC | 2010/03/06 13:27

McC さん:

>しかし、大声を出すことは大泣きの必須条件ではあるまい。

それは確かにその通りです。

ただ、私の中では、「大泣き」 と 「号泣」 との間には、ちょっとした隔たりがあるのです。

一つ前のコメントに対するレスでも書きましたが、「号泣」 の 「号」 は、「号砲一発」 とか 「号令」 とかの 「号」 で、具体的に 「大音声」 を表わしているので。

投稿: tak | 2010/03/07 18:38

最近も見ました。「松下奈緒、撮影終了、号泣」 ・・ほんと、こういう軽薄な文章野郎は死んでほしい。 若いから? いや、俺は若い時から 号泣 の意味なんとなくわかってたよ、誰に教えられたわけでもないけど。結局はセンス、感受性の有る無しだと思う。 号泣・・もうどうしようもない悲しみが伴った時の様子だよ。親兄弟が亡くなったくらいの時に相応しい言葉だ。お前ら馬鹿な奴等の号泣の目白押し生活っていったいなんなんだよ!? (笑)

投稿: 大人 | 2010/08/21 23:43

大人 さん:

>結局はセンス、感受性の有る無しだと思う。

うぅむ。

投稿: tak | 2010/08/22 21:18

号泣 という言葉は最大級の泣き叫びであって、悲しみや苦痛以外の何物でもない状態のことですよ。感動なんてものはまったく入る余地はないですね~、 映画を見て「号泣」なんてのはもっての他でしょう。安っぽい媒体で「号泣」がオンパレードされてるのは、覚えたての言葉を意味もわからず、とりあえず使ってみたいという醜態ぶりですよ。似たような現象に、「走馬灯」。漢字で書けもしないのに口にすんなよ、というやつです。私はその実物がどんなものなのか知らないので口にしませんが。

投稿: セミ丸 | 2010/09/09 02:42

セミ丸 さん:

走馬灯、見たことありませんか?
昔は縁日でよく売られてたものですが。

要するに、灯籠の中で影絵が動くんですよ。

投稿: tak | 2010/09/09 09:48

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