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2010/03/30

「お兄ちゃんのえっち…」 の 「の」 の文法的解釈

xl1blue さんが Twitter で "「お兄ちゃんのえっち…」 の 「の」 は文法的にはどんな説明が与えられますか" と tweet しておられる (参照)。ふぅむ、言われてみればちょっと難しい。「えっち」 がお兄ちゃんの所有物というわけでもないから、所有を表す助詞というわけではない。

同じことは、「お母さんのばかぁ!」 「夕日の馬鹿野郎ぉ~!」 などにも言える。こんなのは、その辺の自動翻訳サービスにかけたら、"mother's fool!" "Foolish guy of  sunset!" なんて結果になりかねない。日本語ってなかなか難しい。

とりあえず、辞書を引いてみる。Goo辞書というのは、背後で三省堂の 『大辞林』 が動いているから、無料サービスだからといって馬鹿にしたもんじゃない。この辞書で調べると (いや、別に辞書で調べなくても)、格助詞の 「の」 であることは明白だ。

そして格助詞の 「の」 にも、2種類あって、一つは、次のように説明される 「の」 だ。

(格助)
〔格助詞 「を」 が、撥音 「ん」 の後に来て、連声によって 「の」 の形をとったもの。中世後期から近世へかけての語〕 格助詞 「を」 に同じ。
「一すぢながながととほりて剣—とぎたてたが如くにてあるそ/中華若木詩抄」

なにやら小難しい説明だが、要するに 「ん」 の後に 「を」 が来ると、リエゾンして 「の」 になることがあるというのである。「因縁 (「いん」 + 「えん」)」 が 「いんねん」 になったようなものだ。

しかし、「お兄ちゃんのえっち…」 も、「お兄ちゃん」 という 「ん」 で終わる言葉の後についてはいるものの、「お兄ちゃんをえっち…」 と言い換えると意味が通じなくなってしまうから、これじゃないだろう。「夕日の馬鹿野郎ぉ~!」 のケースで 「の」 の直前が 「ん」 じゃないことからも、それは明白である。

で、もう一つの 「の」 だが、これがなかなかやっかいで、使い方がいろいろあるのである。ここには紹介しきれないので、こちら で直接ご覧いただきたい。

ここに挙げられた中で一番もっともらしいのは、この格助詞の 「の」 の本来の使い方とされる 「連体修飾語を作る」 という機能だ。その中のさらにもっともらしく共通するのは、「同格の関係を表す」 という用法だ。以下の用例がある。

(a) 「政治家の山下氏」 「よろしくとのおことば」
(b) 「ビールの冷やしたの」 「ある荒夷 (えびす) の、恐しげなるが/徒然 142」

上記の中でも、とくに (b) で挙げられた用例と 「お兄ちゃんのえっち…」は 、かなり近い。「ビール」 と 「冷やした状態」 、「ある荒夷」 と 「恐しげな風貌」 とが、「同格の関係」 にあるというのと、「お兄ちゃん」 と 「えっち」 が、同格だというのは、共通する用例であると考えられる。

つまり、「お兄ちゃんのえっち…」 というのは、「お兄ちゃんであって、そしてなおかつ "えっち" でもある」 ということなのだ。「えっち」 と書かれた見えないラベルを、お兄ちゃんの顔にぺたりと貼り付ける行為のメタファーである。

そして 「夕日の馬鹿野郎ぉ~!」 は、「夕日であって、なおかつ馬鹿野郎」 なのである。かなり勝手な言いぐさではあるが。

【どうでもいい補足】

試しに 「お母さんのばか」 「夕日の馬鹿野郎」 を Excite の無料翻訳サービスにかけたら、"Mother's fool" (これは思った通りのベタ訳) と、"Idiot in evening sun" という結果になった。後者はちょっと意外で、"Fool on the Hill" のイメージを想起してしまったが、あるいは 「夕日のガンマン」 (古いかな?) に引っ張られた翻訳かもしれない。

【31日 追記】

「お兄ちゃんのえっち」 は、英語で面と向かって言う場合は、"You, pervert, Brother!" になると思う。これだと、「同格の関係」 だというのがすごくよくわかる。

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コメント

いつも面白ネタを見つけて来られますね。私はこの例文は次ぎのような意味が略されたものと考えます。

It is that my brother is a Hentai.

つまり、「お兄ちゃんのエッチ」の「の」は、単純所持ではなくて、運用や濫用をしている状態を指すと思いますね。

投稿: pfaelzerwein | 2010/03/30 17:34

pfaelzerwein さん:

>つまり、「お兄ちゃんのエッチ」の「の」は、単純所持ではなくて、運用や濫用をしている状態を指すと思いますね。

単純所持でないことは、本文で触れた通りですが、「運用や濫用をしている状態」というのは、ヒットですね (^o^)

投稿: tak | 2010/03/30 23:28

この「お兄ちゃん」と言う存在は、本当の兄妹間において、妹が兄に対して言っているのでは無い様な気がしますが・・・(笑)

投稿: alex99 | 2010/03/31 17:19

お兄ちゃんのえっち…
お母さんのばかぁ!
夕日の馬鹿野郎ぉ~!
旦那はんのいけず!
先生のイジワル!
神様のうそつき!
姉ちゃんのケチ!

これらが「ビールの冷やしたの」と同じ用法とは思えません。
夕日のガンマン、イワンの馬鹿、これらとも違うように思われます。


非難、時に甘え拗ねる相手につく係助詞、なんてダメか!
いろいろ考えましたが、よくわかりません。


p.s.
お兄ちゃんのえっち…
実に意味深な”…”です。
えっち!とは別の味わい。

投稿: McC | 2010/04/01 00:39

alex さん:

>この「お兄ちゃん」と言う存在は、本当の兄妹間において、妹が兄に対して言っているのでは無い様な気がしますが・・・(笑)

えぇと、それは文法論議から外れますので、なんとも……。

ただ、はてな界隈での萌え感から言えば、本当の兄妹である方がいいかもしれませんよ ^^;)

投稿: tak | 2010/04/01 10:26

McC さん:

(前略)
>これらが「ビールの冷やしたの」と同じ用法とは思えません。

うぅむ、意味とかニュアンスを考えると、「ビールの冷やしたの」 とはかけ離れますが、あくまで文法論で考えれば、「同格の関係」 と解釈できると思います。

>夕日のガンマン、イワンの馬鹿、これらとも違うように思われます。

「夕日のガンマン」 とは明らかに違いますね。

「イワンの馬鹿」 とは同じかと思います。
あとは、文脈とニュアンスの違いですね。

>お兄ちゃんのえっち…
>実に意味深な”…”です。
>えっち!とは別の味わい。

それは確実に言えますね。
はてな界隈の萌え感の源かもしれません。

ただそれは、純粋な文法論からちょっと離れたところの問題だと思います。

投稿: tak | 2010/04/01 10:40

 はじめまして。ご参照いただければ幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/killhiguchi/20100129#p1

投稿: killhiguchi | 2010/04/01 19:59

killhiguchi さん:

おぉ、かなり重要なご教示、ありがとうございます。
これは根本から考え直さなければいけないかもしれませんね。

投稿: tak | 2010/04/01 23:07

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知ってますかぁ~~こんなことすごいっ!!知らなかったのは、私だけでしょうか~~・・・・・・・・・・・・( ..)φメモメモ「お兄ちゃんのえっち…」 の 「の」 の文法 ことは、「お母さんのばかぁ!」 「夕日の馬鹿野郎ぉ!」 などにも言える。こんなのは、その辺の自動翻訳サービスにかけたら、"mother's fool!" "Foolish guy of sunset!" なんて結果になりかねない。日本語ってなかなか難しい。とりあえず、辞書を引いてみる。Goo辞書と(続きを読む) 【レビ... [続きを読む]

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