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2010/10/06

「推定無罪」 と 「本当に潔白」 とのビミョーな差

「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」 というのは、近代法の基本であり、これを 「推定無罪」 の原則という。刑事裁判では、「被告人の有罪が証明されない限り、被告人には無罪判決が下される」 ということになる。

つまり、被告人は 「無罪」 の判決を勝ち取るために、必ずしも積極的に自らの無実を証明しなければならないわけではない。有罪が立証されさえしなければ OK で、それで十分 「無罪」 になる。「冤罪」 を防止するために、被告人有利の原則となっている。

今回の小沢さんの強制起訴確定で、Twitter 上にはこの 「推定無罪」 の四文字が駆けめぐっている。私としても、この裁判は多分無罪になると思っている。何しろ検察審査会の議決のポイントが、「裁判の場で説明責任は果たしてもらう」 みたいな、やや消極的な姿勢なのだから、多分有罪には持ち込めないだろう。

ただ、例の 4億円のお金の出所に関する小沢氏の釈明は、素人目にもものすごく怪しくて、政治の世界じゃよくあることなのかもしれないが、フツーの人間なら 「なんか、からくりがないはずないじゃん」 なんて思ってしまうのはとても自然だ。それだけに、検察審議会も一応 「不自然で到底信用できない」 なんて言っているわけだ。

いや、それでも私は 「推定無罪」 の原則は尊重したい。小沢さん、無罪になるべきだと、繰り返し言っておく。いくら 「信用できない」 としてもそれは印象にすぎないのだから、「ウソ」 と証明できない限り、無罪だ。もし有罪になったら、即刻上告すべきだとまで言っておきたい。

ただ、それでも裁判判決と人々の心証というのは、また別の問題だとも言わざるを得ない。例えば、例の和歌山カレー事件でも、客観的にみれば物証に乏しすぎるのだから、いくら真っ黒けに怪しくても、林眞須美被告は 「無罪」 になるべきだと私は思っている。(参照

ただ、この裁判が無罪判決で終わるべきだということと、林眞須美被告が 「本当に潔白」 であるかどうかというのは、また別の問題だ。「推定無罪」 と 「本当に潔白」 との間には、ちょっとしたグレーゾーンがある。

彼女は  「自分の無罪 (潔白) を証明しなくても、無罪になる権利がある」 ので、有罪に持ち込むまでの決定的証拠に乏しいなら、判決としては無罪にすべきだと私は思っているのだが、正直なところ、そこにはやや複雑な心情が紛れ込む。

個人的心証としては、確実に 「あいつ、とんでもない女だなあ!」 と思ってるので、もし有罪になったとしても、あまり同情心は湧かないだろうし、ましてや彼女を救う運動なんてしないと思う。死刑判決だったら、話は別かもしれないが。

そしてこれはデリケートな問題なので、完全に理屈としての一般論でいうが、「推定無罪」 の原則で無罪判決になったからといって 「本当に潔白」 なのかどうかは神のみぞ知るというようなケースも、現実にいくらでもある。

だから小沢さんの場合も多分 「推定無罪」 にはなるだろうが、それを聞いたフツーの人たちが、「でも、本当はなんかやましいことを、上手にやっちゃってるんじゃないの?」 と心の底で思ったとしても、「無罪になった人に関してそんなことを思うのは、著しく反社会的!」 なんて言って非難するわけにもいかない。

「絶対にやましいことがあるはずだ」 なんて、マスメディアでも使ってことさらに言ったら、名誉毀損になるかもしれないが、個人的に心の底で思ったり、仲間内でひそひそ話をするぐらいなら、そりゃ、自由ってもんだ。

そこで、国民の政治に対する信頼を取り戻すためには、そんなことを思わせないような演出や戦略が必要なんだけど、そこまではまともに考えていないようなのだね、あの人は。彼はただひたすら、「裁判で無罪になりさえすれば、潔白だとわかってもらえる」 という単純ストーリーで突き進みたいみたいなのだ。

一応念のためにお断りしておくが、ここからは、小沢さんが明らかに巷で話題のいわゆる 「推定無罪」 の原則で、つまり 「有罪立証困難」 という、どちらかといえば消極的な理由で 「無罪判決」 を勝ち取るものと仮定して、話を進める。

こうした場合、「裁判で無罪になったんだから、俺は潔白」 と大いばりで言い張るのは、理屈から言っても、実はおかしい。だって、「無罪判決」 には 「無実 (潔白) の証明」 が必要ないんだから。この二つって、実はビミョーに別のことなんでしょ。「推定無罪」 って、そもそもそういうことなんでしょ。

それは単に、「有罪が立証されなければ、とりあえず無罪ってことにしとこう」 という約束事にすぎないんでしょ。そしてその結果については、後でごちゃごちゃ言わないでおこうってだけのことでしょ。

相手が一般人だったら、たとえ多少割り切れない思いがあっても、「せっかく無罪になったんだから、そっとしとこう」 と思うだろう。しかし、政治家が、しかも最も影響力のある立場のオッサンが、「裁判で無罪になったんだから、俺は潔白!」 なんていう論理で迫ってくるとしたら、そりゃちょっと厚かましすぎると感じる人がいてもおかしくないってことだ。

状況は、裁判で有罪にもちこむにも、はたまた 「潔白なんだから、俺を信じろ」 と言い張るにも、両面で弱すぎるということなのだよ。要するに。

どうしても 「潔白な俺の言うことを信じろ」 と言いたいのなら、「有罪が立証されなかった」 というレベルでは不十分で、もっと積極的に、大方が納得できるような 「潔白の証明」 が伴う方がいい。そりゃあ、その方がずっといいに決まっている。

具体的な言い方をすれば、裁判の過程で、「被告の言い分はあまりすっきりしないけど、それがウソだと証明することはできないしなあ」 というようなレベルを越えて、多少手間はかかっても 「なぁんだ、そうだったのか、よくわかった!」 と納得できるぐらいの明瞭な説明がされればいい。そうなったら、私だって彼を信じる。積極的に信じる。

政治家としての 「説明責任」 というのはそれぐらいのものであるべきと期待しても、罰はあたらないだろう。そして、そのあたりのギャップを埋めきれないところが、あの人の限界なのだと、恐縮ながら、私なんか思ってしまうのだよね。まあ、政治の世界というのは、よくよく因果なもので、気の毒な限りである。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

今回の検察審査会の決定に関し、私はこの山崎元氏のコラムが一番納得感がありました。
http://diamond.jp/articles/-/9630
要約すると
1.検察は一旦立件したら必ず有罪に持ち込まなければならないという「無謬性」に囚われている。
2.その観点からは、「難しそうだから深入りしないでおこう」と小沢氏を不起訴とした判断と、最近のFDD改竄事件とはコインの裏表
3.検察審査会は「小沢氏が怪しい」と言うよりは、「検察がきちんと調査していない」ということを問題にしている。本当に犯罪があったかどうかは裁判の場で決着すればよいという立場。
4.検察が不起訴にした案件に関して検察審査会というシロウトが「起訴しろ」というのは間違っていると言う評論家たちは、検察無謬の幻想に囚われている。
5.検察の恣意性をチェックするという意味で今回の議決は検察審査会の本来の趣旨に合致している。
という趣旨。

投稿: きっしー | 2010/10/06 17:19

そうですよね

私は、私のブログでこう書きました
----
検察審議会は、裁判ではないのです
国民目線を加味すると言う目的で設置された
しかし、再三言っているように、日本は法治国家ですし、(判決が出るまでは)推定無罪です
(今回も)新証拠が出る可能性はほぼゼロでしょうから、結局また無罪でしょう
過度に、予見を言い立てるべきではないと思います
例え、本当は、小沢は非合法な行為をしていても、法的に立証されない限り、無罪は認めるべきです
日本は、法治国家なんですからね
----

これは、非常にはしょって書いていますから、そのおつもりで

おっしゃるよに、推定無罪の段階から無罪となっても、完全潔白かどうかは、別問題です
それは、別個に立証されなければならない
(無理でしょうが)(笑)

ただ、「検察委員会が強制起訴相当としたから議員辞職しろ」というのは、無理があると思います
立証されていないとはいえ、完全無罪の可能性も否定されたわけではないからです


投稿: alex99 | 2010/10/06 17:44

きっしー さん:

ご紹介の山崎元氏のコラム、確かに、客観的で公平で、説得力ありますね。

とくに、

>検察の恣意性をチェックするという意味で今回の議決は検察審査会の本来の趣旨に合致している。

という指摘は、いいですね。

「有罪に持ち込めなかったら、検察の敗北」という考えは、卒業した方がいいでしょう。

有罪か無罪かを検察が密室の中であらかじめ決めてしまうような恣意性が、確かに厚労省の件にもつながっていますね。

投稿: tak | 2010/10/06 19:13

alex99 さん:

>検察審議会は、裁判ではないのです
>国民目線を加味すると言う目的で設置された

この事に関して、「素人がごちゃごちゃ言うな」というのは、ゴーマンですね。

>ただ、「検察委員会が強制起訴相当としたから議員辞職しろ」というのは、無理があると思います

無罪の結果が出たら、土下座してくれるでしょうかね ^^;)

今の時点で進退を決めるのは、小沢氏自身でしょうが、彼は決して辞めないのだから、そんなことをを言うのは、無意味なパフォーマンスでしかないでしょう。

投稿: tak | 2010/10/06 19:18

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