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2011/01/22

「あの節はどうも…」 で気持ち悪くならないのは、ちょっと問題

時々人に会って、「あの節はどうもお世話になりまして…」 なんてお礼を言われることがあり、そのたびにちょっとガクっとなってしまうのだが、「そういう時は 『その節は』 って言うもんだよ」 と言うのも面倒だから、かなり親しい関係でもなければ知らんぷりしている。

言葉の使い方というのは別に法律で定められているわけでもないので、「あの節は…」 でも別にいいのだが、やはりそこは 「その節は…」 でないと感覚的に気持ち悪い。だが、平気で 「あの節は…」 という人にとっては、気持ち悪くもなんともないみたいなのだ。これはちょっと、日本語の危機なんじゃないかと思ってしまう。

「こそあど」 は、便宜的に英語を訳すときに "this" "it" "that" "what" に当てはめているから、そんな風に解釈している人もいるが、それは元々の日本語というより 「翻訳語」 である。本来の日本語は英語との機械的な対応関係で説明しきれるものではない。「こそあど」 はなかなか面倒なのである。

外国人に日本語教育をしている 「矢野アカデミー バンクーバー」 というサイトでも、"「その節」 か 「あの節」 かどっち…?" というページでこの問題を論じている。このページにおける 「こそあ」 の違いの説明の仕方が、とてもわかりやすい。

まず第一に、距離の問題である。次のように説明されている。

まず先生の近くに本を置いて生徒に 「これは本です」。生徒の近くに本を置き、先生はもとの場所に戻って、「それは本です」。そして二人から遠くに本を置き、生徒と肩を組んで 「あれは本です」 と何回も繰り返す。

つまり、自分の近くにあるのが 「これ」で、相手の近くにあるのが 「それ」 。そしてどちらからも離れているのが 「あれ」 だ。つまり、「自分」 と 「相手」 という存在を意識しないと、「こそあ」 はうまく説明できない。これは日本人でもそれほど明確には意識化されていないことだと思う。

さらに距離だけの問題ではない。自分にも相手にも見えないほど遠くのことについて語る場合の、「あ」 と 「そ」 の使い分けは、ちょっと別の問題になる。件のページには、次のように説明されている。

もう一つの使い方は話し手と聞き手と両方分かっている場合には 「あ」 を使い、片方しか分からない場合には 「そ」 を使いましょうである。

(中略)

「ロブソン通りにおいしいラーメン屋があります。今度その店に行きましょう」 であり、「きのうのラーメンおいしかったね。今日もまたあの店に行きましょう」 である。

つまり、自分は知っているが、相手はまだ知らない店に行く場合には 「その店に行きましょう」 だが、一度二人で行ってしまって、両方とも知ってしまったら 「またあの店に行きましょう」 となるのだ。

とてもわかりやすい説明である。

ところが、このページでも困っているのが 「その節は…」 という言い回しだ。「その節」 がいつのことを言っているのかは、話し手と聞き手の両方わかっているのだから、本来ならば 「あの節」 というべきなのではないかという疑問が当然湧き上がるのである。「あの時はどうも…」 なんていう場合は、決して 「その時はどうも…」 なんて言わないし。

やはり、「その節はどうも…」 というのは、日本語の文法としてもかなり変則的な言い回しなのである。間違って 「あの節はどうも…」 なんて言う人が多いのも仕方のないことかもしれない。

この件について、件のページでは次のように説明されている。

これは 「時」 と 「節」 の丁寧さの違い、敬語表現の独特の用法なのであろう。「節」 の場合 「あ」 を使うとあまりにも生々しく、「そ」 を使って何となく和らげ (ママ) と丁寧さを醸し出しているのであろう。

つまり、「その節」 というのはかなり婉曲的な表現なのである。婉曲的に言わないと気持ち悪いから、そのように言うのだ。「あの節は…」 で気持ち悪くならないのは、やはりちょっとまずいのである。しかし悲しいことに、「あの節は」 でググると、こんなにたくさん ヒットしてしまう。

「その節」 は、過去だけではなく、未来を指す場合もある。大辞林には次のように説明されている。

① 過去のあの折、あの時。「―― はお世話になりました」
② 未来のその折。その時。「来月上京いたしますので、―― はまたよろしく」

② の場合なら、「あの節」 にはなりようがないから安心だ。この使い方で、「その節」 に慣れてしまう方がいいかもしれない。

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