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2012/01/17

おおくま座とこぐま座の尻尾はなぜ長い?

いくつになっても、知らないことってあるものである。そして、その気になったら調べられないこともないのに、ずっと調べもしないで知らないままになっていることもある。まさに、我々はいくつになっても物知らずである。

私は 「あれ、これって一体、どうして?」 と思うことがあって、そのまま放っておくと気にかかってしょうがない性質で、春日三球・春代の 「地下鉄漫才」 みたいに 「眠れなくなっちゃう」 ほどではないにしろ、ムズムズして気が済まなくなってしまう。

ところがそんな私でもちょっとした落とし穴があって、何年も何十年も 「これって、一体、どうして?」 と思いっぱなしの懸案事項がいくつかある。そのうちの一つが、「星座のおおくま座とこぐま座って、どうして尻尾が長いんだ?」 という疑問である。

Cr120117

星座の元になったのは、ギリシャ神話である。私としては、昔のギリシャにはあまり熊がいなかったので、古代ギリシャ人は実物の熊に馴染みがなく、あんな尻尾の長いものと想像してしまっていたんじゃないかと、漠然と考えていた。それで、今日までマジメに調べてみようという気になれなかったのだと思う。

おおくま座とこぐま座に関するギリシャ神話のくだりは、ざっと次のようなお話である。

おおくま座はカリストというニンフで、こぐま座はその子アルカスの姿である。カリストは月の女神アルテミスに使えていたが、ゼウスに見初められて身籠もった。ゼウスはあちこちに子どもを作るので、珍しいことじゃない。ところがアルテミスはそれを知って怒り、呪いをもって彼女を熊の姿に変えた。

カリストは熊の姿になってゼウスの子、アルカスを産んだが、自分は熊の姿を恥じて森の奥深くに身を隠していた。

15年の歳月が経ち、狩りの好きな青年 (神話の時代だから、15歳でも青年ということらしい) に育ったアルカスが、森の奥で熊に出会い、自分の母、カリストとも知らずに弓を引こうとする。

その様子をオリンポスの山から見下ろしていたゼウスは、これはたまらんとばかりに、咄嗟にアルカスを小熊の姿に変え、2頭の熊を天に上げて星座にしてしまった。

ざっとこんなお話である。子どもの頃にこの話は読んだか聞いたかしたことがある。しかし、この神話を聞いただけでは、どうしてその 2つの星座は熊の姿なのに尻尾が長いのかという疑問の答えは得られない。

今日たまたま初めて知ったのは、それは、ゼウスが 2頭の熊を天に上げる時、尻尾をつかんで振り回して投げたから、伸びてしまったのだという説である。ネットで検索してみると、そんなような話がいくつも見つかる。

しかし私の子どもの頃に読んだギリシャ神話は、ゼウスが尻尾をつかんで振り回したなんてえげつないことにはなっておらず、「一陣の旋風を巻き起こして天に巻き上げた」 というようになっていたはずなのだ。今、ネットで調べてみても、まともなギリシャ神話の紹介では、たいていそういうことになっている。

尻尾をつかんで振り回したなんて、どうみてもおかしい。ゼウスらしくない。一番エライ神様だもの、一瞬にして旋風を巻き起こすぐらいのことで解決しなければ、沽券にかかわるじゃないか。

思うに、尻尾つかんで云々というのは、後世の屁理屈による俗説なんじゃないかという気がする。ギリシャ神話成立時には、熊の尻尾は短いなんてことは常識的知識じゃなかったので、他の動物同様に長い尻尾のままに当てはめたのだが、後になって 「おかしいじゃないか」 ということになり、テキトーに話をこしらえたのだ。

ネットで調べた中には、北米インディアンの神話に、尻尾をつかんで放り投げたので伸びたのだという説があるというのも散見されたが、北米インディアンの神話ができた時代にギリシャ神話と交流があったとはよもや信じられない。北米インディアンの神話にたまたまそういう話があったとしても、それをギリシャ神話に当てはめるのは乱暴というものだ。

というわけで、私はずっと漠然と思っていた 「古代ギリシャ人は実際の熊の尻尾が短いとは知らなかった説」 に、初めて意識的に固執しようと思う。ギリシャでは早くから森林伐採が進んでいたというから、熊なんてよくよく希少動物になっていたんじゃあるまいか。

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コメント

ヨーロッパならヒグマですかね?結構分布してるんで知らなかったなんて事は無いような気がしますが、僕は割と振り回し説でしっくり来る方です。最近の新しい神様や宗教と違って、ギリシャ ケルト インドなんかの神々は、みんなどこか人間臭く、嫉妬深く、おっちょこちょいだったりして、その辺が今も親しまれ、色んな作品、アニメなどにもなる魅力的な部分だと思うんです。だからゼウスがしっぽ掴んでグルグル振り回したってのは、ああ、あのおっさんだったらやりそうだわな、くらいに思うのですが(笑)

投稿: シリオンパパ | 2012/01/18 17:05

シリオンパパ さん:

ギリシャは地中海覇権のための船の建造と日常生活の燃料、そして山羊と羊の放牧のために、早い段階で森林を伐採し尽くし、砂漠化して、森林面積は極端に小さくなりました。

僅かに残った森林も、燃料確保のための里山と化して、クマの棲む余地は、早くからなくなっていたんじゃなかろうかと思います。

スペインのピレネー山脈とか、アルプスを越えたゲルマンの地とは、様相が違っていたはずです。

ですから、古代ギリシャ人のほとんどはクマなんて見たことなかったんじゃないでしょうかね。

いうまでもなく、当時は写真もないし、絵を描くにしても絵の具と紙は貴重品だし、クマの正確な姿は伝わってなかったんだろうと、想像します。

紙と絵の具がそれほど貴重でなくなった時代でも、あまり馴染みのない動物というのは、世界各地で珍妙な絵に描かれています。

浮気者で人間くさいところのあるゼウスですが、2頭のクマを放り投げるなんていう、物理的な力技は、どうもゼウスらしくないですね。

アトラスとか、オリオンとかの力自慢ならわかるんですが。

投稿: tak | 2012/01/18 18:16

なるほど そう言われると、ギリシャって森林っていうより石の神殿とかばっかりで、木といえば船とか兵器ってイメージありますね。しかしゼウスは色んな女性に手を出し過ぎですよね(笑) それがバレる、もしくはバレそうになる度に、色々中途半端な策を弄してますよね~。反面教師ぶりが板につく全能神さま(笑)

投稿: シリオンパパ | 2012/01/18 18:34

シリオンパパ さん:

ギリシャとクマは、親和性が低いように思います。いくら大昔でも ^^;)

神話に関しては、文明の高いところほど神様が人間じみてくるような気がするんですが、どうなんでしょうね ^^;)

投稿: tak | 2012/01/19 19:52

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