IT の視点から離れつつある Apple のマーケティング
新型 iPad (名称は "iPad 3" にはならなかった) の販売が開始されたが、私自身は今回の新バージョンを買う予定はなく、買うとしても多分、来年か再来年に発表されるより新しいバージョンになるだろう。企業でまとめ買いをする場合には、旧バージョンの iPad 2 が値引きになって 3万円台で買えるようなので、そっちをオススメしているほどだ。
とはいえ、新型がどんなふうに評価されているのかを知りたくて、3月 21日付の日経 Trendy の 「評価が分かれた新しいiPad、販売は伸びるか?」 という記事を読んでみた。佐野正弘氏の連載、「"日本的"ケータイ論」 の最新記事である。
読んでみた感想は、「うぅん、やっぱりこの分野の専門家に評価させると、こういうことになるのだろうなあ」 ということに尽きる。初っ端の紹介が 「解像度を大幅にアップさせた Retina ディスプレイの採用で画面の美しさを絶賛する人がいる一方、目立つ新機能が用意されなかったことから失望の声も聞かれ、評価は賛否両論分かれたようだ」 だもの。
iPad のユーザー像については、未だに誤解から抜け出せない人が多いようだ。それは、「iPad のメイン・ユーザーは、IT に大いに関心のある若年層」 という誤解だ。
確かに、今回の新型 iPad に限らず、待ちきれなかったというようにいち早く購入する層は、「IT に大いに関心のある若年層」 に違いない。しかし、メイン・ユーザーがそうであるかということは、大いに疑問だ。方向性としてはむしろ、iPad は IT なんて別に好きでも何でもない 「広範なユーザー」 にこそ、使う価値のある製品なのだと思う。
最初に購入する層、「IT に大いに関心のある若年層」 にしてみれば、「目立つ新機能」 がないというのは、失望要素なのかもしれない。しかし、「広範なユーザー」 にしてみれば、「目立つ新機能」 なんて要らないのである。うっとうしい新機能なんかより 「ぱっとみて理解できる使いやすさ」 の方が、ずっと価値あることなのだ。
私は今月 15日の 「法人需要でも 「ポスト PC」 革命なのだね」 という記事で、次のように書いている。
フツーのオフィスワークなんて、簡単な体裁のドキュメントを作成したり、メールの受発信をしたり、ちょっと金額は張るが関数の内容はお小遣い帳か家計簿と変わらないレベルのスプレッドシートを作るぐらいのものだった。よっぽど慣れてきて初めてプレゼンを作成したりするが、それができるのは部署の 3割もいない。
プレゼンテーションの作成を含め、その程度のことなら何も PC を使わなくても iPad で十分だ。ということは、これまでフツーの企業は、コンパクト・カーで十分なドライバーに大出力のスポーツカーを使わせるような無駄遣いをしてきたわけだ。
つまり、オフィス・ユーザーだろうが個人ユーザーだろうが、7割以上のユーザーは、PC の機能の 2割も使っていないのである。ということは、iPad をもっても、その機能をフルに使うユーザーなんて、それほどにはいないのだ。
ほとんどのユーザーにとっては、iPad 2 のレベルの機能で十分以上なのである。むしろ重要なのは使い勝手の洗練と、画面の美しさだ。それに関しては、新型 iPad はそれなりの進化を遂げているようなのである。マーケティング的には、それこそが望ましいことではないか。
記事の筆者の佐野正弘氏も、その辺のことは多少わかっておいでのようで、次のように書いている。
初めてタブレットデバイスを購入する人にとっては、iPad の進化に関わらず iPad 自体が "新しいもの" であるし、iPad に対する明確な対抗馬となるタブレットデバイスもまだ存在していない。こうした状況を見るに、市場拡大と共に、新しい iPad の販売は継続して伸びる可能性が高いと考えられるのだ。
しかし、わかり方が中途半端のようで、ユーザーにとって iPad が "新しいもの" でなくなれば、新たな新機能を求め始めるはずだと言わんばかりの視点のようである。しかし私としては、ユーザーにとって iPad が "新しいもの" でなくなったとしても、多くのユーザーは 「新機能」 よりも 「よりユーザーフレンドリーな使い勝手」 を求めるだろうと思う。
面倒な高機能が必要なら、PC を買えばいいだけのことだ。オフィス・ユースだろうがホーム・ユースだろうが、面倒な高機能が必要なユーザーは圧倒的少数派とはいいながら、確実に存在する。事実私も、業務としてウェブ・ページやデータベース・プログラムなどを作成する時には、iPad では使い物にならないので、当然にも PC を使う。
しかし、そうした業務なんてしなくて済む大多数のユーザーにとっては、PC なんかより iPad の方がずっと使いやすい。「画期的な新機能」 なんてものを加えて使いにくいものにするよりは、機能限定でいいから、ますます使いやすいデバイスに進化してくれればいいのである。
機能限定されていてもどうせ、大多数のユーザーにとっては、限定されているということすら意識されないのだから。
| 固定リンク
「マーケティング・仕事」カテゴリの記事
- 個々人に最適化したメニュー表示なんかされたら(2019.02.16)
- 日本での Subway 不振に見る 「文化の違い」(2019.01.18)
- 閉店、撤退の続く百貨店業界(2018.09.29)
- 大塚家具は、末期的状態らしいので(2018.08.05)
- 早朝から、下手すると夜明け前から働き始める米国人(2017.03.04)
コメント