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2013/01/17

「トナカイ」 と 「オットセイ」

去年のクリスマスの頃、ラジオで 「実は 『トナカイ』 はアイヌ語なんです」 というのを聞いて、「そういえば、『ラッコ』 とか 『オットセイ』 なんかもアイヌ語と聞いたことがあるなあ」 と思っていた。するとその翌日、友人に会うと 「知ってる? 『トナカイ』 ってアイヌ語なんだってさ」 と言うのである。どうやら同じラジオを聞いていたらしい。

彼はさらに続ける。
「すごいね。『トナカイ』 というアイヌ語が、世界に広まっちゃったんだね」
私はあわてて打ち消す。
「いや、広まってない、広まってない。英語だと、確か 『カリブー』 だったと思うし」
「なんだ、『トナカイ』 は世界では通じないのか」
「通じないよ。カタカナだからって、外国でも通じると思ったら大間違いだよ」

念のため和英辞書で調べたら、トナカイは "reindeer" というのだった。そういえば、『赤鼻のトナカイ』 は "Rudolph the Red-Nosed Reindeer" である。念のため "caribou" を調べたら、「北米産の大きなトナカイ」 と出てきた。

米国でもサンタクロースのそりを引くのは、北米産の 「カリブー」 じゃなくて、北欧の 「レインディア」 ということになっているのだね。ちなみに、あの赤鼻のトナカイ君の名前は 「ルドルフ」 である。あの歌がこんなにもスタンダードになっているのに、名前を知る人が日本ではほとんどいないのが不思議である。

話が横道にそれかかったが、私の疑問は 「どうして 『トナカイ』 という言葉が世界に広がったか」 という見当違いではなく、「どうして北海道にはいないトナカイが、アイヌ語として存在するのか」 だったのである。しかしそれは、ググってみたら案外簡単にわかった。

まず、「トナカイ」 がアイヌ語由来であることについては、Wikipedia では "和名であるトナカイはアイヌ語での呼称 「トゥナカイ」 (tunakay) または 「トゥナッカイ」 (tunaxkay) に由来する" と説明されている (参照)。このページには、"caribou"  や "reideer" の語源も説明されている。

そしてこのページの棲息分布図で、トナカイは北海道にはいないが、北欧からツンドラ、樺太北部にかけて (そして北米にも) 棲息するということがわかった。アイヌの居住地域は樺太にまで広がっていたので、言葉のみが北海道にまで入ってきたというのは、理解できないでもない。

さらにおもしろいこともわかった。OK Wave の 「カリブーとトナカイは同じですか?」 という Q&A ページに、ユカギール語という古言語との関係で説明してある。

それによると、「トナカイ」 というのは元々は、アイヌ語の元になったユカギール語から入ってきた単語らしい。そしてそのユカギール語を話す民族というのは、今ではいなくなってしまったので、「トナカイ」 という言葉は世界で唯一、日本に残っているというのである。

で、最後に残った疑問は、「どうして日本人は、アイヌ語から伝わった 『トナカイ』 という言葉と、それまで見たこともなかった動物を、一致させたのだろうかということである。まあ、こればかりは、アイヌ民族との交流で知った言葉を、「これって、あの大型のシカのことなんだろうなあ」 と、想像力をたくましくして一致させたのだろうと思うしかない。

蛇足だが、「オットセイ」 がアイヌ語というのは、ビミョーに正しいというわけでもないということもわかった。Wikipedia には次のように説明されている (参照)。

オットセイはアイヌ語で 「onnep」 (オンネプ) とよばれていた。それが中国語で「膃肭」と音訳され、そのペニスは「膃肭臍」 (おっとせい) と呼ばれ精力剤とされていた。後に日本ではペニスの部位だけを指す生薬名が、この動物全体を指す言葉になった。

もっともこれは、定説といっていいほど確立したものではなく、いろいろあるというのが、佐藤和美さんという方の "「オットセイ」の語源を求めて" というページに詳しい。

さらにおもしろいのが、Wikipedia の次の記述である。

あまりにも一般的になったため、1957年に北太平洋のオットセイの保存に関する暫定条約が締結された際、出席した日本代表団がオットセイを英語であると誤解。英語でオットセイと説明しても理解されず、何回か発音を変えて言い直しを行うニュース映像が残されている。

そのニュース映像を見てみたいと思い、ググってみたがみつからなかった。1957年といえば島倉千代子の 『東京だよおっ母さん』 がヒットした年だから、無理もない。ビデオじゃなく、貴重なフィルムとして残っているのだろう。

私の友人は 「トナカイ」 が英語になっていると思いこんでいたが、条約締結に派遣された日本代表団は 「オットセイ」 が英語と思いこんでいたようなのである。繰り返すが、カタカナだからって、外国でも通じると思ったら大間違いである。

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コメント

アイヌ語はロマンがありますねーヽ(´▽`)/

投稿: hiroyuki | 2013/01/19 21:25

hiroyuki さん:

私の死んだ父は、アイヌ語に詳しかったですよ。
父の資料を形見として引き継いではいるんですが、なかなか自分で研究するきっかけに恵まれません。

投稿: tak | 2013/01/19 22:36

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