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2013/01/08

人間はシンプルな方が幸せ

芥川龍之介の短編作品に 『芋粥』 というのがある。

この作品の主人公は名前さえ定かではなく、ただ 「五位」 という官名で呼ばれる。風体はあくまで冴えず、取り柄とてない。子供にまでさげすまれる。その五位がある時ふと、当時は結構なご馳走と位置づけられていた芋粥を、飽きるほど食べてみたいともらした。

それを聞きつけた貴人が五位に、「それならば芋粥を飽きるほどご馳走しよう」 と申し出る。都からはるばる連れてこられた越前の国、敦賀で、貴人が一声かけると、一夜のうちに山芋がどっさり集まり、庭に山のように積まれた。

こうして本当に 「飽きるほどの芋粥」 にありつけた五位だが、なぜか見ただけで腹が一杯になってしまい、無理矢理進められて口には入れてみたものの、飲み干すのに一苦労だった。そして、「芋粥に飽きたいと云ふ慾望を、唯一人大事に守つてゐた、幸福な」 自分自身を、懐かしく心の中で振り返るのだった。

この作品を読んだのは、多分小学校の 4年生か 5年生の頃である。結構早熟だったかもしれないが、とはいえ、何しろ小学生のこととてものすごくシンプルな子だったから、「長い道中の末に、せっかくありつけた芋粥に、どうしてこいつは素直に喜ばないのか」 と、私は読み終えてものすごく不機嫌になった。

私は今でも、好きなものなら毎日三食出されてもいいというタイプの人間である。朝昼晩と蕎麦を食わせられる生活がずっと続いたら、それこそ本望だ。なのに、この 「五位」 という奴は、あれだけ 「飽きるほど食いたい」 とあこがれていた芋粥を、食いもしないうちから食傷してしまっている。とんでもない奴である。

芥川としては多分、「あこがれのものというのは、遠くからあこがれている時の方が幸せなのであり、実際にありついてみると、それほどうれしいものではない」 という人間心理の不条理さを描きたかったのだろう。学校の教師もそんなようなことを言っていた。しかしはばかりながら私は、そんなに複雑な心理を解する子供じゃなかったのである。

「なんで、こんなのが名作といわれるんだ?」 と、私は思った。「しかも、昔の 『何とか物語集』 とかに出てくる話の焼き直しじゃないか。偉そうな人がこれを名作だと言うから、みんなわけもわからず、名作だと思っているだけなんじゃないのか?」

この 『芋粥』 に限らず、『地獄変』 にしても 『蜘蛛の糸』 にしても 、私としてはせっかく読んでもつまらなかったのである。芥川には悪いけど、言いたいことはわからんでもないのだが、とにかくおもしろくもなんともないのだもの。とくに 『地獄変』 なんて、絵師のくせに 「実際に見たものしか描けない」 なんて、イマジネーションなさすぎである。

そして私は、このシンプルさをキープしたままで還暦を過ぎてしまった。近頃つくづく思うのだけれど、人間はシンプルな方が幸せである。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

俺、蕎麦はアレルギーで食べられないんですよ(´・_・`)

投稿: hiroyuki | 2013/01/09 12:58

hiroyuki さん:

>俺、蕎麦はアレルギーで食べられないんですよ(´・_・`)

それは気の毒に。
蕎麦アレルギーは、命に関わるらしいですね。

投稿: tak | 2013/01/09 19:10

自分に合ったものならあきないのでしょうね。わたしは、オミソ少々とごはんで十分カナ。シンプルが飽きがきづらいです。
芋粥は、イメージだけだとシンプルな感じで、飽きがこなそうなのに(食べたことないですけど)。私の贅沢品のイメージは、ステーキとか思い浮かべますが、アブラギッシュなこってりものです。これだと、作者が本で述べたかった「手に入ると・・」という気持ちは分かります。しかし最近はシンプルなものが贅沢品になりつつあるのも、なんだかなぁと思っています。

投稿: BEKAO | 2013/01/10 12:37

BEKAO さん:

おっしゃることはよくわかります。

ただ、ちょっと整理し直しますと、この記事のテーマは 「食い物はシンプルな方が飽きが来ない」ということではなく、「人間は不条理性に混濁しないで、シンプルに生きる方がいい」ということですので、「よくわかる」という以上のコメントは、あえて控えます。

投稿: tak | 2013/01/10 16:20

お話とは微妙にずれるかもしれませんが、以前読んだ行動経済学の本位よると、選択肢が少ないほうが手に入れた時の満足度が大きいんだとか。
直感的に,ああそうだよなーと思った次第

投稿: Cru | 2013/01/15 22:59

Cru さん:

確かにそうでしょうね。
究極的には "one of them" よりも、"only one" を手に入れる方が、嬉しいでしょうね。

投稿: tak | 2013/01/15 23:47

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