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2013/04/18

「はやあし」 の表記が 「早足」 であって 「速足」 じゃないわけ

実はずっと、「はやあし」 と入力して変換すると 「早足」 になるのが不満だった。ATOK の辞書には 「はやあし」 の変換候補は (カタカナ以外には) 「早足」 以外になく、「速足」 とは素直に変換されない。これについて 「ま、いいか」 とあきらめがついたのは、50歳を過ぎてからのことだ。

しかし、おかしいではないかと、今でも思うのである。「はやあし」 とは 「速く歩く」 ことで、「早くから歩き始める」 ことじゃない。ところが大辞林を引くと、「早足」 と 「速歩」 が出てきて、「速足」 という熟語は見当たらない。

さらに 「はやぐい」 も 「早食い」 としか変換されない。大辞林では 「食物を早く食べること、食い方の早いこと。「―― 競争」 とある。「食い方の速いこと」 ではなく 「早いこと」 とあることにはびっくりで、両方とも 「早食い」 と標記されるのである。

「早い」 と 「速い」 の使い分けに関しては、かなりの方が苦労されているようなのだ。一般的には 「時間的にはやい」 のが 「早い」 で、「スピードのはやい」 のが 「速い」 と使い分けられているにも関わらず、「早足」 や 「早食い」 に限らず、「早回し」 「早口」 「早駆け」 など、例外がくさるほどある。

漢字の起源からすると、「早」 と言う字は地平線の上に太陽が昇りかけている早朝を表す象形文字なのだそうだ。なるほど、時間的に早いという意味そのもののような気がする。それに対して 「速」 の字は 「のろのろ歩いている人をせかせること」 という意味なのだという。

ところが、これは漢字の世界のお話で、和言葉としての 「はやし」 (古語で考えるので、こうなる) は、時間的なこともスピード的なこともまったく区別なく 「はやし」 と表現して平気だったのである。古代の日本人は、そんな区別には無頓着だったようなで、これはかなりプリミティブな感覚といえる。

それで、「早い」 「速い」 の使い分けに関しては、一応の原則があるとはいえ、慣用によって例外だらけの世界になっているようなのである。これはもう、我々も古代日本人に戻って、「固いことは言いっこなしよ」 と、あっけらかんと構えているよりほかないようなのである。

そういえば 「かたい」 も 「固い」 「堅い」 「硬い」 「難い」 と、いろいろな意味をひっくるめて 「かたし」 と言い習わしてきたのであって、日本語というのはなかなか微妙なニュアンスでもっている言語のようなのだ。

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コメント

足と脚、取る撮る摂る採る…
同様らしき例は無数にありますね。
日本語がまだ未熟で概念が分化していない時代に、漢語が入ってきて、同じ和語を漢字の意味で書き分けはじめ、和語としての表現を発達させる必要がなくなり、今に至る。
ということなのでしょうか。

投稿: HIROKAZ | 2013/04/18 20:47

あたくしは瓦版の誤字脱字を見つける仕事をしてやすが、「同音意字」はなかなか骨が折れやすね。
ま、これで飯を食わしてもらってんですから、感じ、おっと、漢字さまさまでございやすよ。
それに、漢字てえのは絵から派生してやすから、よく見ると味わい深いっつうか、かわいいやつでげすな。
例えば、「足」てえ字をよ~く見ると、ほ~ら、蹴鞠(ややこしい字ですな)に興じる平安のお方の姿が目に浮かんでくるじゃござんせんか。
「早」てえ字も、よく見ると、早起きしていっちに、さんしとラジオ体操してるお方に見えやすな。
いやぁ、漢字、楽しいもんでげすな(爆)。

投稿: 下衆兵衛 | 2013/04/19 09:00

おっと、「同音意字」になってやした(冷汗三斗)。

投稿: 下衆兵衛 | 2013/04/19 09:07

実は古い日本語では、スピードが高い意味での「はやし」は「ふぁ(fa)」と「ぱ(pa)」が混ざったような音、時間が先と言う意味での「はやし」は普通の「は(ha)」と、発音レベルで区別がつけられており、それに対応して別の漢字が当てられていたのだが、時代が下るに従って発音の区別がなくなり、それとともに漢字の表記も混同されるようになっていった、という事情のようだ。

(出典:201x年4月1日付けToday's Crack)

なんてね。


投稿: 山辺響 | 2013/04/19 09:43

HIROKAZ さん:

和ことばはなにしろ、文脈の中でニュアンスを推し量る言葉ですからね。あまり厳密に意味を規定する必要がなかったというか、そんなことをしたら台無しになってしまうというか、まあ、そんな感じですよね。

その上で、漢語をアシスタントとして用いて、「厳密な意味」をも少しは磨けたと。なかなかのモンですよね。

投稿: tak | 2013/04/19 21:03

下衆兵衛 さん:

>例えば、「足」てえ字をよ~く見ると、ほ~ら、蹴鞠(ややこしい字ですな)に興じる平安のお方の姿が目に浮かんでくるじゃござんせんか。
>「早」てえ字も、よく見ると、早起きしていっちに、さんしとラジオ体操してるお方に見えやすな。

本当だ! (^o^)
そんな風な想像力を働かせるというのも、なかなか乙なものですね。

投稿: tak | 2013/04/19 21:06

山辺響 さん:

「時代が下るに従って発音の区別がなくなり、それとともに漢字の表記も混同されるようになっていった」 というのが、いいですね 。

来年の 4月 1日まで寝かせておけばよかったのに (^o^)

投稿: tak | 2013/04/19 21:08

「早足」という言葉を用いるシチュエーションには必ず時間の制限と抱き合わせになっております。

例えば「見たいテレビがあるから早足で帰宅する」
「電車に遅れそうなので早足で駅へ向かう」など。

つまり「速く足を動かす」ではなく、「少しでも早くへと向かう足」なので早足なのです。

投稿: 吉本勇貴 | 2016/08/14 19:45

吉本勇貴 さん:

そうかなあ。

私は別に時間に急かされなくても、単に気まぐれで早足することがいくらでもありますよ。

投稿: tak | 2016/08/16 15:56

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