« 「2~3回クリックすれば OK」 という、ものすごく高いハードル | トップページ | 学校の授業は、セレモニーのようなもの »

2013/04/07

和英辞書を引いただけで作っちゃったキャッチ・コピー

一昨日の "「腕ずく」 で仕事する美容院が日本中に溢れてるので" という記事の、ある意味では続編ともいえるお話である。

件の記事では、変てこな英語を使いたがるファッションや美容業界の人たちに関して、 「本当に、この手の人たちって、どうして一度でいいから辞書を引いてみようとしないかなあ」 と嘆息した。しかし、中途半端に辞書を引いたせいで痛いことになるケースも多いというのを忘れていた。

もうかなり前、バブルの頃のお話である。私が繊維とかファッション関連の記者をバリバリでやっていた頃、あるファッション・ショーの取材をした。そのショーは複数のアパレル・メーカーの共同主催で、構成は 3つのパートに分かれていた。その 3番目のパートのテーマは、"Supple Women" (柔らかい女性)。キャリア・ウーマン向けの提案だという。

私は、どうしてキャリア・ウーマン向けの向けの提案が 「柔らかい女性」 なんていうテーマなんだろうと不思議に思った。"Supple" というのは、基本的に材質とか人の体とかが柔らかいことを表現する言葉である。とても柔らかくてしなやかな皮とか洋服生地を、ファッション業界では 「サプル」 なんて言ったりすることがある。

ここまで考えて、はっと思い当たった。「もしかして、これって 『しなやかな女性』 というつもりで言ってるんじゃあるまいか?」 

山口百恵の 『しなやかに歌って』 という歌がヒットしたのは、たった今ググってみたところ、1979年のことだった。それ以後、「しなやか」 というのはことさらにいいイメージで使われる言葉となって、「しなやかな感性」 とか 「しなやかな生き方」 とかいうと、その実体はよくわからないが、とりあえずファッショナブルと思われていたのである。

そのファッション・ショーの主催者に聞いてみたところ、やっぱり "Supple Women" というのは、「現代社会を生き抜くしなやかな女性に向けた、キャリア・ファッションの提案」 ということだった。私は 「ふう」 とため息をついた。

繰り返すが、"supple" というのは基本的には 「材質とか人の体とかが柔らかいことを表現する言葉」 なのである。イメージとしては、「しなやかな生き方」 というよりは、どちらかと言えば 「くねくねっとした感じ」 に近いか、または 180度の開脚ができるとか、脚を伸ばしたまま掌がべたっと床につく女性とかいう感じなんだと思う。

比喩的な意味合いとして使う場合でも、「順応しやすい」 とか 「(他の要素を) たやすく受け入れやすい」 とかいう、どっちかというと 「芯がない」 という感じで、どうも、「凛としたキャリアウーマン」 の 「しなやかな生き方」 という感覚とはちょっと違うんじゃないかと思ったものである。

これは一昨日のお話の、"「arm = 腕 」 「腕 = 技術」、よって 「arm = 技術 」" という誤解に通じるトホホ感だ。「arm = 腕 」 は、英和辞書のお話で、「腕 = 技術」 は、国語辞書のお話である。英和辞書の文脈と国語辞書の文脈を結びつけて  「arm = 技術 」 とするのは、かなり乱暴なお話だ。「審美眼」 とかいう場合の 「目 (eye)」 ならいいのだが。

「しなやかな女性」 を "supple women" としたのは、まさに和英辞書を引いてみて 「しなやか = supple」 と確認してのことだったのだろう。なまじっか辞書を引いてのことだけに、痛さ加減はさらに増す。

悪いことは言わない。和英辞書を引いたら、英和辞書で引き直すのを習慣にしておく方がいい (本来は英英辞書の方がいいのだが、そこまでは要求しない)。 「和英辞書を引いただけで作っちゃったんだろうなあ」 と思わせるキャッチ・コピーや Tシャツのロゴほど、トホホなものはない。

ただ、"arm" には 「腕ずく」 的な感覚、"supple" には 「芯がない」 というニュアンスしか付与できないという単純筋肉思考の英語より、日本語の方がより複雑で陰影のある豊かさをもっているという気はするのである。だから基本的なことをいえば、無理に和英辞書を引いてまで慣れない横文字にしたがる必要はないんじゃないかなあ。

|

« 「2~3回クリックすれば OK」 という、ものすごく高いハードル | トップページ | 学校の授業は、セレモニーのようなもの »

言葉」カテゴリの記事

コメント

何でもで英語表記したがる「業界」は一にお役所、次にアパレル業界ですね。豊かな日本語をうまく使ったほうが、余程訴える力は強いと思います。

どうしても英語表記したければ、複数のネイティヴに確認すればいいと思いますけど、その当たり前の手間をなぜ省略するんでしょう。

一瞬で終わってしまうファッションショウならまだいいでしょうけど、テレビで毎日ガンガンへんてこ英語を放送してしまったら、目も当てられない。

投稿: ハマッコー | 2013/04/07 18:45

ハマッコー さん:

>どうしても英語表記したければ、複数のネイティヴに確認すればいいと思いますけど、その当たり前の手間をなぜ省略するんでしょう。

確認すべき複数のネイティブなんて、周囲にいないという人の方が圧倒的に多いと思います。

ということは、無理に横文字で表現する必要はさらさらないということでもあるんですがね。

これは複数の人が指摘していることですが、こうした横文字は、意味なんかより、もっともらしいアルファベットが並んでいるという 「見た目」 の方がずっと重要なのだと思われます ^^;)

投稿: tak | 2013/04/07 19:54

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/42004/57119288

この記事へのトラックバック一覧です: 和英辞書を引いただけで作っちゃったキャッチ・コピー:

« 「2~3回クリックすれば OK」 という、ものすごく高いハードル | トップページ | 学校の授業は、セレモニーのようなもの »