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2013/12/22

「誤嚥」 という言葉について

「誤嚥」 という言葉がある。「誤った嚥下」 ということで、つまり水分や食物を嚥下する時に、間違えて食道ではなく気管の方に送り込まれて、むせてしまったりすることだ。「誤嚥性肺炎」 などという言葉もあって、誤嚥が原因となっての肺炎のことである。誤嚥は 「あぁ、ムセちゃった」 だけで済むものじゃなく、結構恐ろしいものなのだ。

で、今回のテーマは、「誤嚥」 の恐ろしさや、誤嚥を避けるための注意とかいうものではなく、「誤嚥」 という言葉自体についてである。なんでまた、こんなに身近なことが 「誤嚥」 なんていう小難しい言葉で表現されるのかということだ。

「嚥」 という難しい漢字が使われることに関しては、フツーに考えれば、「嚥み込む」 という場合に 「飲む」 という言葉との差別化がきちんと行われなければならないからだろう。「飲む」 では、酒とは限らないまでも、どうしても液体でなければならないというイメージがある。「呑む」 にしても、かなりそれに近い。

ところで、公式の日本語では 「嚥」 という漢字には 「の (む)」 という訓読みはないようで、上記の 「嚥み込む」 という表記は、かなりイレギュラーなものである。個人的には  「嚥」 という漢字は 「の (む)」 と訓読したいところなのだが。

まあ、そんなような面倒な事情もあり、「誤嚥」 という言葉が結構広まっているのだが、「あぁ、苦しかった、誤嚥しちゃった」 なんていう言い方はまだ 「ごくフツー」 というところまでは来ていない。そこまで一般化するには、今イチである。

「誤嚥」 という言葉が難しいからといって、簡単な言い換えを探してもなかなか見つからない。せいぜい上述の 「ムセちゃった」 がよく聞かれる程度で、あとは 「気管に入っちゃった」 なんていうチョー即物的な言い方があるぐらいである。

ちなみに 「嚥下する」 ということを英語ではどう言うのかというと、"drink" ではなく、"swallow" である。ここで、「嚥」 という漢字にも 「燕 (ツバメ)」 という字があり、英語の方もツバメと同音異義語なので、両方とも鳥のツバメが餌を丸呑みするのが語源なんじゃないかと思いたくなるのが人情というものである。

ところが、どうやらそうじゃないらしい。「人力検索 はてな」 のページ (参照) によると、嚥下するという意味の "swallow" の語源は、古英語の "swalgan" で、さらに辿るとゲルマン語 (注) の "schwelgen" に行き着くらしい。ツバメとは別系統の言葉のようなのだ。ふぅむ、残念。

また、中国語では 「嚥下」 という言い方はしないらしいのだ。確かに、手持ちの 「携帯 新漢和中辞典」 (三省堂・刊) にも 「嚥下」 という熟語は載っていない。どうやら 「嚥み下す」 という和語に当てられた和製熟語のようだ。

さらに、「嚥下」 の読みはフツーは 「えんげ」 が優勢だと思うが、「えんげ」 「えんか」 の両方ありのようなのである。Atok ではなんと、「えんげ」 では変換されず、「えんか」 でないと 「嚥下」 にならない。ちょっとびっくりである。

また 「誤嚥」 の英訳に関して、Weblio で調べると、次のように出てくる (参照)。

breathing in (of a foreign body, food, etc.)
pulmonary aspiration
mis-swallowing
swallowing down the wrong pipe
accidental swallowing

私としては、"swallowing down the wrong pipe" (違う方の管で嚥み下しちゃう) という言い方がものすごく気に入った。

【注】
この箇所、参照先の 「人力検索 はてな」 では 「ギリシャ語」 ということになっているが、hokkaidense さんからでゲルマン共通祖語から来ていると指摘するコメントをいただいたので、修正させていただいた。

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コメント

ふぅむ…こいつぁ、瓦版の誤字脱字を見張って飯を食ってるあっしにも興味深いテーマでげす。
てぇか、ここまで深く掘り下げてくだすったtakさんに脱帽でげす! ありやとやんした!
あっしゃ、恥ずかしながら、あちゃらの言葉はあんまし得意じゃねぇんで…。
ま、しかし、わざわざ読みにくい漢字を使う必要性は薄いでげすよね。ましてや命に関わることでげすし。
即物的な世の中でげすから、そっちの表現でいきてぇですな。お年寄りも読みやすいでやんしょ。

投稿: 下衆兵衛でげす | 2013/12/23 08:45

北国生まれですが、雪の上の歩き方を忘れたhokkaidenseです。

中学生の頃だったでしょうか、プロ野球チームの「ヤクルトスワローズ」が「ヤクルト」を「飲み込む」だと知ったときの驚きを思い出しました。英語のswallowは「つばめ」から覚えたほうです。

ところで、英語のこの両語は関係ないようです。ただ、ギリシア語としているのは、引用元で解説している人の誤解です。辞書か何かに略語でGと書いてあるのをギリシア語と勘違いしたのでしょう。ギリシア語ではなくドイツ語Germanです。「飲む」のswallowはゲルマン共通祖語のswelgenから来ていて、schwelgenというのは現代ドイツ語で「ぜいたくに飲み食いする」という意味の動詞です。「つばめ」のSchwalbeもやはりドイツ語です。

一方、漢字のほうですが、学研『漢字源』によれば、嚥の燕は音価を表すに過ぎず、燕と関係がない、とあっさりと書かれていて、民間語源のロマンもへったくれもないですが、「えん」という音を表すだけなら他の字でも良さそうですよね。実際、「咽」と同じともあります。
語源は本当に難しいテーマだと感じます。

投稿: hokkaidense | 2013/12/23 09:42

下衆兵衛でげす さん:

「嚥み下す」(のみくだす)の読みを公式に認めてもらいたいところですね。

「誤嚥」は、「嚥みこみそこない」 とか (^o^)

投稿: tak | 2013/12/23 23:13

hokkaidense さん:

>中学生の頃だったでしょうか、プロ野球チームの「ヤクルトスワローズ」が「ヤクルト」を「飲み込む」だと知ったときの驚きを思い出しました。英語のswallowは「つばめ」から覚えたほうです。

「ヤクルト・スワローズ」 の名称は、「国鉄スワローズ」 → 「サンケイ・スワローズ」 → 「サンケイ・アトムズ」 → 「ヤクルト・アトムズ」 → 「ヤクルト・スワローズ」 と変化してきましたから、元々 「ツバメ」 だったんだと思いますよ。

球団キャラクターもツバメの 「つば九郎」 だし、「ヤクルトを飲み込む」 というのは、後付けの洒落でしょう。

ギリシャ語ではなく、ゲルマン語とのご指摘、ありがとうございます。

私としても、1つのウェブ・ページの情報だけで裏を取らずに書くのは、何だかアブナい気がしていましたが、やっぱりこういうことになりますね。反省です。

「ゲルマン語」 に修正しておきます。ありがとうございます。

投稿: tak | 2013/12/23 23:20

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