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2014/03/08

世の多くのゴーストライターになりかわって

昨日の昼食時にちょっとテレビのニュースを見たら、例のゴーストライター作曲で話題になった佐村河内氏の記者会見の模様が映し出された。サングラスにロンゲでいかにもものものしい雰囲気を醸し出していた人物がいきなりピーコさんになっていたので、思わずこけそうになった。

この問題に関しては、先月 6日の記事で、佐村河内氏のやり方の 「あざとさ」 を指摘した (参照) のだが、もう一つ、ゴーストライター (ゴースト・コンポーザー?) をした方の新垣隆という人も結構あざといということを、つい書き忘れていた。

世の中にゴーストライターの手による著作物なんて、いくらでもある。「これはゴーストライターによって書かれたものです」 と大っぴらに言われる作品なんてほとんどないので、正確な数は誰にもわからないが、時々、学術論文でもバレたりするぐらいなのだから、とにかく数えきれないほどあるはずなのである。

ライターという仕事をしていて 「私は一度もゴーストライターをしたことがありません」 と言い切れる人がどのくらいいるのかと思うと、まあ、どこまでを 「ライター」 と定義するかでも違ってくるのだろうが、あまり多くないのではなかろうか。

私も一応テキストを書いてメシを食ったりすることがあるので告白するが、過去に何度かゴーストライターをしたことがある。経験からすると一番多い形は、インタビューをして、その人に代わって手記形式の文章を書くことだと思う。たまに女性の手記を代作することもあったが、細部の表現で男臭さを消すのは、結構難しいものである。

そうした立場から言うのだが、この新垣さんという人は、ゴーストライター (くどいが、ゴースト・コンポーザー?) の風上にも置けないと思うのである。一度ギャラをもらって代作したからには、契約に関する書面の有無に関わらず、また、公序良俗的な問題は抜きにして、当人同士の信義に基づく契約関係があるはずなのである。

その契約関係を一方的に破って、世間に裏事情を発表してしまうというのは、いかがなものかと思うのである。世の中にはゴーストライターで結構な収入を得ている人もいるはずだが、彼らの多くもそのように思っているはずだ。

しかも、その発表のタイミングがビミョーすぎるほどビミョーな時期だったことも問題だ。冬季オリンピックのフィギュアスケートで、佐村河内氏の作曲といわれていた 『ヴァイオリンのためのソナチネ』 を高橋大輔選手が使うことになっていて、その直前になって急に暴露に及んだのだ。

幸いなことに、この問題が競技の結果に大きな影響を与えることはなかったようだが、このタイミングでの発表はあまりにも無神経すぎるではないか。新垣氏は 「オリンピックの後になってからこの曲が代作だと知ったら、ショックを受けるだろうから」 というようなことを言っていたようだが、まったく逆で、直前に言われる方がずっとショックだろう。見当違いも甚だしい。

新垣氏は 「こんなことは長くは続けられない」 と思ったというのだが、それならそれで、代作を依頼されても断ればよかったというだけのことである。「断っても聞き入れてもらえなかった」 という言い分は、新垣氏と佐村河内氏の間で食い違いがあるようだが、いずれにしても作りたくなかったら作らなければいい。18年間も作り続けたから、問題が大きくなったのである。

ギャラをもらって作っておいてから、後になって思いっきりバラすというのでは、世の中のゴーストライターで収入を得ている人たち全体の信用を落とすことになりかねない。ある意味、営業妨害である。まあ、芸能界や政治の世界では、ゴースト・ライティングをあまり隠さないという風潮もあるようで、私自身はもうゴーストライターをすることもないだろうから、別にいいのだけどね。

世の中では佐村河内氏を責める空気の方が熱いようだが、この際、言いたいけど言い出せない多くのゴーストライターになりかわって、これだけは指摘しておこうと思ったわけだ。

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コメント

こんにちは。
この騒動を見ていて、
何か欠けている視点がある、とずっと
なんとなく思っていたのですが、
takさんのエントリーを見て、これだと思いました。

新垣氏の曲が良いのか悪いのかはわかりませんが、
佐村河内氏の以前の風貌と、耳が聞こえない
というストーリーがあったからこそ、
メディアでも取り上げられ、売れたはずなんです。
でも、氏が(騒動以前でも)有名になったもんだから、
新垣氏が妬いたのではないか、という気がしますね。

投稿: hokkaidense | 2014/03/08 12:17

hokkaidense さん:

>新垣氏が妬いたのではないか、という気がしますね。

妬いたというより、汚名含みでもいいから、世間に知られた曲の本当の作曲者は自分なんだという事実を知らしめたいという、ある種の功名心めいたものがなかったかといえば、それを否定しきることはできないんじゃないかと、思ってしまいますね。

投稿: tak | 2014/03/08 13:06

こんにちは。お久しぶりです。
佐村河内さんのゴースト事件ですが、個人的に興味があってニコニコ動画のノーカット版の記者会見を視聴したりと結構情報入れているのですが、takさんは今回の事件と、義手のバイオリン少女・みくちゃんと佐村河内氏・新垣氏の関係に関してはご存知でしょうか?

(以下ネットのまとめです) 
http://miracletrend.com/wordpress/post-874/
http://www.buzznews.jp/?p=3374
http://matome.naver.jp/odai/2139166819811228701


佐村河内氏がみっくん家族につきつけた「絶対服従を前提にした従いがたい要求」。これが今回のゴースト暴露のきっかけとわたしは見ています。新垣氏は幼稚園の頃からピアノ伴奏で付き合っていた教え子ともいえる彼女を救うために敢えてゴーストライターとしての仁義を捨てたのでは、と。
世間が佐村河内氏に対してことさら否定的になっているのは、ゴーストしていたというのももちろんですが、この少女とその家族への非道な扱いというのが大きいんじゃないでしょうか。
記者会見でも話が出てきましたが少女に対して「義手を外して舞台に立て」という佐村河内氏の提案はちょっと……と、わたしも感じました。見世物としてしか見てないな、と。

takさんが手を染めたという、いわゆるタレントなんかの文筆メインでない人の語りおろし本のゴーストに関しては、世間はかなりゆるく見てるんじゃないかな。林真理子さんなんてデビューしてすぐに松田聖子のエッセイのゴーストやってたって言ってましたし、それ言って別に世間で叩かれた様子もありませんでしたし。それに奥付の「構成/○○」とかで、ああこの人が文章に起こしたんだなって大抵わかりますよね。

投稿: まこりん | 2014/03/08 16:49

まこりん さん:

この件に関してはあまり深追いしていなかったので、みっくん関連については全然知らずにいろいろ書いたのは、迂闊でした。

しかし、そういうことだったら、新垣氏は暴露した際に、その件についても多少触れればよかったのにと思いますが、まあ、いろんな事情があるんでしょうね。

佐村河内という人、自らも障碍者を装うなど、「障碍者ビジネス」 とでもいうのかなあ、嫌らしい意識を感じますね。

投稿: tak | 2014/03/08 18:43

どもどもです。

> 新垣氏は暴露した際に、その件についても多少触れればよかったのにと思いますが、

新垣氏は、記者会見上で、このみっくんの件に関しても、慎重に言葉を選びながらも、きちんと触れています。会見の最後にはみっくんのバイオリンと新垣氏のピアノによる「ソナチネ」の映像の一部も、上映されました。記者会見を全編見れば、誰しもが問題の核心はここだと気づくと思います。
佐村河内氏の会見で彼が記者の質問に激昂したのも、このみっくんに関する質問の時でした。
とはいえ、マスメディアの報道ではこの点に関してはおまり重きをおいて語られませんでしたよね。未成年の障碍者が絡むデリケートな問題でもありますし、佐村河内氏の障碍者ビジネスに一枚噛んでいた側のメディアにとってはこれ以上こちら側に傷を広げたくないという意志が働いたのではと思っています。共犯者同士の金の奪い合いという卑小な形にまとめたほうが、自分たちに延焼しないでしょうし。

投稿: まこりん | 2014/03/08 21:29

まこりん さん:

なるほどね。

マスコミの情報というのは、いかに核心を伝えないかという見本のようなケースですね。

投稿: tak | 2014/03/08 21:44

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