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2014/06/21

木曽路をすべて山の中?

親戚に島崎藤村の 『夜明け前』 の生原稿をパネルにしたものをいただいた。ちょっと昔に、こういうのが流行ったらしい。かなり大きなパネルなので部屋には飾るところがなく、階段の踊り場に飾ったら、結構な趣きになった。

このパネルを眺めているうちに、ふとしたことを思い出した。それは中学校時代のクラスメイトが、「島崎藤村の 『夜明け前』 は、『木曽路はすべて山の中である』 で始まるのではなく、『木曽路をすべて……』 で始まるのだ」 と言い出したことだ。「嘘じゃない。俺は島崎藤村の生原稿を見たんだから」 と言うのである。

Img_9160その時は、何を馬鹿なことを言っているのかと思っていたが、長ずるに及んで、「変体仮名の 『者』 から来た 『は』 の字を使っていたのだねと、理解された。

画像をクリックすると拡大されるのできちんと確認されるが、藤村の生原稿は、「木曽路は」 の 「は」 の字が、現代普通に使用される、漢字の 「波」 の字からできた 「は」 ではなく、「者」 という字からできた字を使っているのだ。これが一見すると、現代使われる 「を」 という字に似ているのである。

Photoよくそば屋の看板で、右図のような、わけのわからない字が書いてあるのを目にすることがあるだろう。実はあれは、「楚者」 という字を草書体にしたもので、それがそのまま変体仮名となって、「そば」 と読ませるのである。「者」 で 「は」 と読ませる字を、藤村は多用しているのだ。

昔は平仮名もいろいろな表記があって、現代一般的に使われる 「あ」 という字は 「安」 の草書体からきているが、ほかにも 「阿」 や 「亜」 の草書体からきて 「あ」 と読ませる平仮名もあったのだ。お汁粉やの看板なども 「志留古」 という漢字からきた変体仮名を使っている場合が多い。

というわけで、『夜明け前』 の書き出しは、決して 「木曽路をすべて山の中である」 ではなく、よく知られるとおり、「木曽路は……」 で OK なのだ。

ちなみに、そば屋の看板は、よく 「そむ」 になってしまっていることが多く、私は 3年半ほど前に "「そむ」 って何だ?" という画像入りの記事を書いているので、そちらも参照すれば、わかりやすいと思う。

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