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2015/02/03

私の 「イスラム国」 理解をチョー駆け足で書くと

例の 「イスラム国」 問題が大きくなって以降、ようやく日本でもイスラム教やムスリムへの具体的な関心が大きくなっているような気がする。それまでは、イスラム教というのは日本人にとって最も縁遠い宗教だった。

それは私自身にとっても同様で、まあ、フツーの日本人よりはイスラム教に関する書籍は読んでいる方だと思っている(『コーラン』 は持ってないけどね) が、具体的には何も知らなかった。スンニー派とシーア派の違いなんて、いくら解説書を読んでわかったつもりになっても、一晩寝てしまうと 「ありゃ、どっちがどっちだっけ?」 となってしまっていた。

ところが、「イスラム国」 問題がここまで切羽詰まってきてしまうと、いくらなんでも 「スンニー派とシーア派がごっちゃになっちゃう」 なんて呑気なことを言っているわけにもいかなくなり、初めて解説書を読んで以来、ほぼ 10年ぐらいぶりに、どっちがどっちかぐらいはわかるようになった。

要するに、圧倒的多数派はスンニー派で、シーア派はイランとイラクに多い。根本的な違いはムハンマドの後継者に関する立場の違いだが、それを言うと長くなるので、ここでは省略しておこう。それ以外の違いは、シーア派の方がより内面性重視であるらしいが、そうとも言い切れないケースが多々あり、はっきりいって、よくわからん。

イラン革命を担ったホメイニという人は現代のシーア派の代表的な人で、民衆にやたら熱狂的に支持されたため、周囲のスンニー派諸国は、「あんなのがウチの国に入ってきたらたまらん」 と、反イランになった。

その反イランの急先鋒だったのがイラクのサダム・フセインという人である。イラクはイランのお隣だけにシーア派住民が多いので、スンニー派のフセインとしてはナーバスにならざるを得なかったのだろう。一時は反米的なイラン革命の波及を恐れた米国の支援を受けて、やたらと軍事力を伸ばし、国内ではシーア派住民を圧迫した。

原爆保有国のイランと対抗するため、フセインは 「大量破壊兵器」 なんて持っていないくせに、持っているように受け取られてもいいような素振りをし続けた。これに関して私は 2005年 8月 20日の記事で次のように書いている。

イラク戦争が始まるときにしたって、サダム・フセインは、「大量破壊兵器」 なんてものを持っているような、いないような、のらりくらり戦術で、世界を煙に巻こうとしていた。この 「のらりくらり」 は、アラビア商人の常套戦術だな。

ところが、ジョージ・ブッシュは、そんなゲーム感覚に付き合えるほど、頭の中が洗練されていなかった。根がカウボーイだもの、仕方がない。いきなりテーブルをひっくり返して頭をぶん殴るという無粋の挙に出たのである。

サダム・フセイン自身は、米国の 9・11 テロ事件を引き起こしたオサマ・ビンラディンのアルカーイダとは直接のつながりはなかったようなのだが、同じ穴のむじな扱いされてしまったわけだ。まあ、米国のイラク侵攻はジョージ・ブッシュの犯した大間違いだったわけだが、フセインにしてみれば、相手が単純すぎるオッサンであることを理解していなかったための大失敗である。

ちなみに、アルカーイダにしても、スンニー派である。同じスンニー派でも、極めて柔軟な人たちもいれば 『コーラン』 の記述に厳格に沿うことを信条とする原理主義的な人たちまで、中身はいろいろだ。スンニー派の中でも原理主義の代表格とされるのが、ワッハーブ派だが、なんとこれが親米派の代表格であるサウジアラビアの国教になっている。

同じイスラム教のスンニー派の原理主義的な派閥でも、反米になったり親米になったりする。このあたりのところは、系統樹的な分類原則で捉えようとするとよくわからないことになるが、どうやらイスラム教というのは、いわゆる 「原理原則」 で運用される宗教ではないようなのである。(「原理主義」 というのはあるが、それとは別の問題として)

イスラムには、カソリックのローマ教皇みたいな存在がない。だからそれを説く人によって、『コーラン』 で説かれるあっちの部分を強調したり、こっちの部分に従えと言ったり、かなり多様なことになるようなのだ。どちらかと言えば 「内面的な信仰」 よりも 「外に存在する神 (アッラー) の声」 を、現実の場面ごとにあてはめて実践するという、とてもプラクティカルな性格が強いようなのである。

このあたりが、宗教とか信仰とかいうと、精神的、内面的な世界を重視すると考える日本人が、よく理解できないところなのだと思う。キリスト教は 「悔い改めよ」 と説き、仏教は 「覚れ」 と説くが、イスラム教は 『コーラン』 の中で具体的に 「ああしなさい、こうしなさい」 と説く。それに従い、現実的に実践するのだ。

「ああしなさい。こうしなさい」 と具体的に説かれると、『コーラン』 の中ですら、どうしても矛盾した表現が出てくる。それをどう解釈するかが大きな問題だから、イスラム教は多様なのだ。ローマ教皇が一切を包括的に指導するカソリックとは、えらい違いである。

ちなみに、キリスト教の神も、イスラム教のアッラーも、同じ神である。「アッラー」 は特定の神の名前 (固有名詞) ではなく、「神」 という意味のアラビア語の普通名詞である。同じ地域から出た唯一神だもの、別の神じゃないのは当然のことだ。だからムハンマドは、ユダヤ教徒もキリスト教徒も 「啓典の民」、つまり同じ神を信じる同胞だから無駄な争いはするなと説いている。

いずれにしてもイスラム教世界の圧倒的多数は平和な人たちである。問題を起こしているのは、ほんの一部の過激派だ。ほんの一部の過激派が、世界中のごろつきや食い詰め者を集めて、彼らに居場所を与える代わりに、「アッラーのために死ね」 と言っている。

イスラム過激派の標的は、十字軍以来の対立的関わりのキリスト教世界であり、パレスチナ問題で対立するイスラエルである。キリスト教世界の代表格であり、イスラエルの後ろ盾となっているのは米国だから、「反米」 が最大の旗印となるのは自然のことである。ひいては 「西欧的価値観」 「近代的価値観」 が憎悪の的となる。

西欧的、近代的価値観が圧倒的優位を占める現代世界で、彼らは最もワリを食っている弱者と自認しているから、そうした価値観をぶっ潰せとなる。ただ、それらをぶっ潰したところで、アッラーの栄光が顕れるというわけでもないのだから、彼らは自己崩壊するしかないのだが。

とまあ、私の 「イスラム国」 問題に関する理解をチョー駆け足で書くと、こんな具合になる。

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コメント

駆け足での解説ありがとうございました。
私は義理兄が長年(20年ほど)働いているマレーシアを時々訪問する度に、世俗的になってはいるもののイスラム教というものが生活に入り込んでいる状態というのを経験してきましたが、中東に関しては以前にMOOKで特集号を読んだ程度の知識でしたので今回の解説はありがたかったです。

さて、前回の記事で安倍首相を擁護する立場と非難する立場の発言について述べておられました。
それでも立ち位置がわかっている政治家たちの発言はまだある程度のバイアスの予想がつくのですが、各種メディアで発言される中東問題・イスラム教・外交関係などの専門家と言われる方々の意見がさっぱり噛み合わなくて歯がゆく感じておりました。

その原因の一つとして、今まであまり日が当たることが無かった研究者の方々がいきなりスポットライトに照らされてために、冷静さを欠いて舞い上がってしまい、客観的に現象を把握する前に持論を展開する方に力が入ってしまったように思います。

速報性に重心が偏っている最近のメディアでは仕方がないのかもしれませんが、議論の前提になる共通理解がなされないままで、人質の生命という究極の選択を突きつけられたせいだったのでしょう。

我田引水が目につく自己流解釈の前に、「イスラム国」に対する一定の認識を共有することが必要と思っています。

投稿: ちいくま | 2015/02/04 10:25

ちいくま さん:

お役に立てたのでしたら、幸いです。
まったくチョー駆け足ですので、歴史背景や途中経過はかなり省いてしまっていますが、まあ、最低限のところはこんなところかなと思って書きました。
(池上彰さんだったら、もっtうまく解説できたかもしれませんが ^^;)

>各種メディアで発言される中東問題・イスラム教・外交関係などの専門家と言われる方々の意見がさっぱり噛み合わなくて歯がゆく感じておりました。

私はあまりテレビを見ないので、例のハッサン中田氏みたいな方が俄然注目を集めているらしいなというぐらいの感覚しかありません。

彼はイスラム国とのパイプがあるので、交渉に協力できると言っていたらしいですが、当然ながら政府としては、危なくて使えませんよね。
(彼の言い分を真に受けたら、1970年代頃までの朝日新聞の北朝鮮レポートで 「地上の楽園」 と信じた人みたいになりかねませんし)

彼は、世界の 16億人のムスリムが一致団結したら、すごいことになると語っているようですが、建前上はイスラム原理主義に近いサウジアラビアの王族が、既得権確保のために悪魔の米国と手を結んでいるぐらいですから、それは夢物語でしょうね。

投稿: tak | 2015/02/04 13:21

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