『ひみつのアッコちゃん』 の 『スキスキソング』 と 『庄内おばこ』
知ってる者にとってはあまりにも当たり前すぎて、どうってことのないお話でも、それを初めて知った者にとっては、「大発見」 になり、大はしゃぎしたくなったりする。
今では滅多に聞かなくなったが、昔々のアニメ、『ひみつのアッコちゃん』 のエンディングテーマ、あれって、題名は 『スキスキソング』 (歌は、懐かしの水森亜土) というらしいんだが、私は半世紀近く前に、この歌を初めて聴いたときから 「ファンキー・バージョンの 『庄内おばこ』 じゃん」 と、ごくフツーに思っていた。
私はどういうわけか、子どもの頃から民謡や落語など、シブい芸能の類いには結構詳しかったのである。『スキスキソング』 が 『庄内おばこ』 であるのは、私にとってはあんまり当たり前すぎたので、自分の別宅サイトの 『庄内力養成委員会』 <「庄内力チェック」 の質問 25 で、あっさり触れるぐらいに済ませていた。
ところがこれについて、あたかもちょっとした発見のように書いてあるページがいくつか見つかった。今や庄内生まれでも大多数は 『庄内おばこ』 の歌詞なんて知らず、たまたま気付いたら 「おいおい、知ってるか!」 と言いふらしたくなるようなお話になってしまっているようなのである。それで私としても、改めてここで書いてみる気になったわけだ。
『庄内おばこ』 というのは、私の故郷、庄内の民謡で、「おばこ」 とは 「若い娘っこ」 のこと。庄内弁では 「あねちゃ」 が年長の女性 (姉妹なら姉) で、「おばちゃ」 は年少の女性 (姉妹なら妹) を意味する。決して 「オバちゃん」 のことではない。
日常の庄内弁では 「おばちゃ」 が普通で 、「おばこ」 なんて滅多に言わないのだが、何にでも 「こ」 を付けたがるお隣の秋田県の 『秋田おばこ』 にひきずられてか、庄内でも 『庄内おばこ』 を作ったんだろう。いずれにしても、仕事歌の類いじゃなくて座敷歌だと思う。
YouTube で検索しても、手頃なパフォーマンスが見つからなかったが、NHK の 「みちしる」 (『新日本風土記』 アーカイブ) でいい雰囲気のがあったので、左の画像をクリックしてご覧いただきたい (別ウィンドウで開く)。故郷の映像が見られて、私としても懐かしかった。
よく知られた (いや、今となっては 「知る人ぞ知る」 というレベルか?) 1番目の歌詞は次のようなものである。
おばこ来るかやと(アコリャコリャ)
田ん圃のはんずれまで出てみたば(コバエテコバエテ)
おばこ来もせで(アコリャコリャ)
用のないたんばこ売りなどふれて来る(コバエテコバエテ)
「田ん圃のはんずれまで出てみたば」 は 「田んぼのはずれまで出てみたら」ということで、「たんばこ売り」 は 「煙草売り」 の庄内弁発音。囃子詞の 「コバエテ」 は 「来ればいいなあ」 といった意味だが、これは庄内弁の中でも古語である。現代庄内弁では 「来いばいちゃ」 になる。
で、『アッコちゃん』 の 『スキスキソング』 だが、「アッコちゃん来るかと団地のはずれまで出てみたが/アッコちゃん来もせず用もないのに納豆売りが」となって、「おばこ → アッコちゃん」 「田ん圃のはんずれ → 団地のはずれ」、「たんばこ売り → 納豆売り」 と変わっただけである。
作詞者の井上ひさしは山形県育ちの人なので、庄内おばこのインスピレーションで行こうと思ったんだろうね。『スキスキソング』 を知らない人、忘れちゃった人は、下のビデオで聞いて戴きたい。
ちなみに庄内弁では、「おばこ/おばちゃ」 は 「オバちゃん」 のことではないと書いたが、じゃあ、正真正銘の「オバちゃん」 は何というのかといえば、「ががちゃ」(「かあちゃん」 の意味もある) になる。ちなみに、兄、弟、オジさん (とうちゃん) は、「あんちゃ」 「おんちゃ」 「だだちゃ」 で、日本一おいしい枝豆、 「だだちゃ豆」 は、「オヤジ豆」 ということになる。
ついでだが、上の 「みちしる」 の動画に出てきた酒田舞娘のパフォーマンスの完全バージョンが YouTube にある。「相馬楼」 というところの出し物で、ちょっと歌に入るまでの前段階が長いが、浮世を忘れて異次元の時間にまったりと付き合うならいいかもしれないので、下にリンクしておく。
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コメント
あいぽんの画面ではありましたが、良い伝統芸能を見せていただきました。
謡っている方の声や響きが、染み入りました。
ありがとうございました。
投稿: 乙痴庵 | 2015/02/07 10:39
乙痴庵 さん:
なかなかのものですよね。
どうぞ酒田にいらして、生でご覧ください (^o^)
投稿: tak | 2015/02/07 13:47
ぜひお座敷で!
しかしながら、何を謡っていらっしゃるのか(さっぱり)わかりません。
takさんの解説読みながら…、ふむふむと頷きながらの閲覧でした。
余計なことを申し上げまして、恐縮です。
余計なことついでにもう一点。
民謡の中で、三味線と尺八が邪魔に聞こえる(思える)モノを経験したことがあります。
この民謡に於いては、アタクシにはいささか尺八が余分な音に聞こえてしまいました。
投稿: 乙痴庵 | 2015/02/08 00:05
乙痴庵 さん:
確かに民謡の伴奏で、三味線は歌と一種の対位法的(?)な弾き方をして、間にオカズも入れますが、尺八は単なるユニゾン(歌と同じメロ)を吹くだけで、オカズもいれませんから、邪魔くさい印象の時が多々ありますね。
一番下のビデオの、相馬楼での酒田舞娘のパフォーマンスでは、地方(じかた)のみち勝姐さんの三味線一本の弾き語りがいいです。さすがです。
投稿: tak | 2015/02/08 01:09