カテゴリー「言葉」の442件の記事

2019/01/16

日本語になった 「トッピング」 という言葉の意味

下の写真は、先日入った立ち食い蕎麦屋のカウンターにあった「トッピングメニュー」 というものである。たまご、きつね、コロッケ、わかめの他に 「いなり 2ケ」 というのがあって驚いた。いなり寿司をどんぶりの蕎麦の上に載せて食うというのか。

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「そんなのありかよ!?」 と思いつつふと隣を見ると、お盆の上に蕎麦のどんぶりと 「いなり 2ケ」 の小皿が乗っかっている。蕎麦の上に載せるのではなく、サイドディッシュ的扱いのようで、一安心した。

それにしても、サイドディッシュとして提供されるものを 「トッピング」 と称していっしょくたに扱ってしまうのには違和感がある。もしかして "topping" という言葉が 「トッピング」 というカタカナになったとたんに、元々の 「上に載せるもの」 という意味を離れてしまったんだろうか。

三省堂大辞林では、「トッピング」 というのは次のように説明されている。(参照

トッピング 【topping】
料理や食品の上にのせたり飾りにかけるもの。ピザにのせる具やアイス-クリームに振りかけるチョコレート-チップなど。また,それを行うこと。

これは読んでホッとするような、まともな解釈である。一安心だ。しかし念のために、Wikipedia にも当たってみると、こんなようなことになっている。(参照

  1. ケーキの上飾りなど、料理において仕上げの段階で飾りとなる食品などを盛り付ける調理法。また、その飾り付ける食品などのこと。見た目を良くするためや、味や栄養バランスの調整などのために用いられる。ローソクや人形など食品以外の物を追加する場合もある。
  2. レストランなどの料理に用意された追加できる食材のこと。別皿で提供される物、混ぜ込む物、仕込みの段階で入っている物など上飾り以外の物でもトッピングと呼ばれる。食品以外でもオプションの事をトッピングと称している場合もある。

1番目の説明はまともだが、2番目の方はびっくりである。カタカナの 「トッピング」 は、「別皿」 (つまり 「サイドディッシュ」 ね) とか 「オプション」 とか言う意味ももってしまっているようなのである。言葉というのは生き物みたいなところがあるから、ひょっとしたことから別方向への進化を遂げてしまったりすることはあり得る。

例えば山形県の米沢辺りでは、「ありがとう」 の意味で 「おしょうしな」 (お笑止な) と言ったりする。「笑止千万」 みたいなちょっと恥ずかしい気持ちということから転じて、その 「くすぐったい気持ち」 が 「ありがとう」 という意味をもってしまったようなのだ。(参照

今後、「サイドディッシュ」 とか 「オプション」 とかいう意味で 「トッピング」 という言葉が使われることが一般的になってしまうのかと思うと、私の故郷の庄内弁でいうところの 「笑止」 である。(庄内弁の 「笑止」 は 「しょし」 と発音して 「お恥ずかしい」 という意味になる)

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2018/12/22

「いらっしゃいませ、こんにちは」 という挨拶を聞かなくなった

最近ふと気付いたのだが、コンビニやスーパー、ファミレスなどに入った時に、あの一世を風靡した 「いらっしゃいませ、こんにちはぁ〜」 という妙な挨拶を、ほとんど聞かなくなった。おかげで私はストレスが軽減されて、かなり清々している。

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私が 「いらっしゃいませ、こんにちは」 という挨拶を嫌悪していることは、このブログの古くからの読者ならとっくにご存じだろう。それについて書いた記事は、ざっと検索しただけでゴロゴロ出てくるが、代表的なのは、次の 3本である。

いらっしゃいませ こんにちは」 を巡る冒険  (2005年 3月 5日)
馬鹿が利口を指導している (2007年 1月 10日)
ビジネスマナー屋の妄言 (2015年 6月 16日)

本当に、上に挙げた最初の記事を書いた 2005年、つまり 13年ぐらい前までは、ちょっと買い物しようとしてコンビニのドアを開けると、店内のあちこちから 「いらっしゃいませ、こんにちはぁ〜」 という妙な挨拶が乱れ飛んできていた。それを聞くだけで、私は憂鬱な気分になっていたものなのである。

それが、いつ頃からか廃れてしまった。本当にいつ頃からなのか、私はまったく意識せずに今日まで来てしまったのだが、本当に 「文字通りいつの間にか」、ほとんど聞かれなくなってしまっているのである。

あれだけ妙ちくりんな 「定番接客言葉」 になっていたものが、こんなにまであっさり消えてしまうというのは、嬉しいことだが、一方では信じられないほどのことだ。しかし信じられないことほど、あっさり生じてしまうのが世の中というものである。

一時は 「こんな変てこな言葉が、日本の定番になってしまうのか」 と、すっかり諦めていたのだが、こうしてみると、世の中まんざら捨てたものじゃない。

2007年 1月 10日の 「馬鹿が利口を指導している」 という記事で指摘しているように、あのけったいな挨拶は、コンサルタントと称する馬鹿な人種が 「コミュニケーションの始まり」 なんぞと言って指導していたもののようなのである。私はこの記事の中で、「そもそも、コンビニで店員と客がのべつ本格的に 『コミュニケーション』 なんか始めたら、仕事にならないじゃないか」 と嘆いている。

で、その 「コミュニケーションの始まり」 とやらがすっかり廃れてしまった今、10年以上前にエラソーに指導していたコンサルタントの連中は、どんな顔をして商売しているのだろうか。まあ、多分、昔のことなんかすっかり忘れて、また新たなデタラメの種を考えているのだろうね。

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2018/12/15

"The Guide of Goods for a Cozy Room" というフレーズ

マガジンハウスの雑誌に 『&Premium』 ってのがある。この雑誌のウェブサイト 『&Premium.jp』 なんてものまであって、その案内ページには 「“The Guide to a Better Life” と宣言して、2013年11月、雑誌 『&Premium』 は創刊しました」 とある。

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「よりよい生活への案内書」 として、「ファッション、インテリア、日用品、ビューティー、食、旅、カルチャーなど」 の情報発信をすることが、この雑誌の基本コンセプトのようだ。で、個人的に 「なんだかなあ」 と思ってしまうのは、「よりよい生活」 というのは 「1つ」 の方向性しかないというのがこの雑誌の基本コンセプトらしいということである。

とにかく "a Better Life" とあるのだから、好意的に読み取れば 「いろいろあるかもしれないけど、オススメはこの一択だからね」 という 「コンセプトの明確さ」 の表現なんだろう。私としては 「よりよい生活」 というのは多様と思っているので、当然ながら "Better Lives" の方がしっくりくるのだが。

で、その 2018年 3月号で、"The Guide of Goods for a Cozy Room" (もっと部屋を心地よくするためのガイドブック) という特集が組まれている。上の写真が、その特集の扉ページだ。

で、やっぱり 「なんだかなあ」 と思ってしまうのが、その特集タイトルだ。雑誌自体のコンセプトは "The Guide to ..." と、一応文法的には問題ないフレーズで示されているのに、この号の特集はなぜかこんなふうに、ちょっと 「フツーじゃない言い方」 になっている。

まあ、何を言いたいかわからないわけじゃないけど、どうして素直に ”The Guide to a Cozier room" にしなかったんだろう。あるいはどうしても 「グッズのガイド」 にこだわりたかったなら、"The guide on Goods for a Cozier Room" がフツーだと思うがなあ。ちなみに "Cozier" と比較級にしたのは、日本語タイトルが 「もっと部屋を心地よくするための」 となっているからだ。

まあ、いずれにしても個人的には "Cozier Rooms" と複数形にしたいところだが、むしろ長々言うより "The Cozy Room Catalog" とするのが一番手っ取り早いかも。

まあ、結局は 「雰囲気のもの」 でしかないようだから、どうでもいいといえばいいのだけどね。

 

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2018/12/02

よく聞くけど実は意味を知らない横文字

「Goo ランキング」 というサイトで、「よく聞くけど実は意味を知らない横文字ランキング」 というのを見つけた。きっかけは、スバル自動車の 「レガシー」 という車種って、どういうつもりでネーミングしたのだろうということが、ふと疑問になって調べたことである。

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Legacy (レガシー) というのは、フツーは 「過去の遺物」 という意味合いであり、「レガシー・デバイス」 というような熟語で使われたりすると、「古くさい時代遅れの道具」 といったニュアンスになる。スバルは、どうしてまた自社製品にこんな名前を付けたのだろうと、前々から不思議に思っていたのだ。

調べてみると、「英語で大いなる伝承物と言う意味です」 と説明しているページが見つかった (参照)。「大いなる伝承物」 とはかなり盛り過ぎの解釈だと思うが、まあ、スバルとしてはそんなようなつもりで命名したのだろう。ただ、さすがに最近はあまり大きな声では言いたくないみたいで、"Legacy" をちっちゃく書いて、サブブランドの "OUTBACK" とか ”B4" とかを大きめに表示したりしている (参照)。

で、そのついでに見つけたのが前述のランキングで、「よく聞くけど実は意味を知らない横文字」 のトップ 3は、「イノベーション」 「ダイバーシティ」 「レガシー」 というものだった。へえ、「イノベーション」 って、あまりよくわからず使われたりしてるのかなあ。「新しいアイデアによる革新」 ということで、雰囲気としては大体そんなような意味で使われているように思われるのだが。

問題は 2番目の 「ダイバーシティ」 だ。意味は 「多様性」 ということで、”diverse" (多様な) という形容詞の名詞形である。動詞になると "diversify" (多様化、多角化する)。私としてはフツーは英語でも 「ディヴァースィティ」 (アクセントは 「ヴァー」 の部分にある) に近い発音をしているのだが、カタカナ語になった時点でしっかりと 「ダイバーシティ」 になってしまったようだ。

それだけで済まず、どうも 「ダイバー・シティ」 みたいな感じで、「シティ」 の方にアクセントを置いて言うファッション業界系日本人がめちゃくちゃ多いのである。「多様性」 が 「潜水夫の街」 になってしまっている。まあ、どうせ雰囲気重視のカタカナ言葉だから、どうでもいいけど。

で、3番目が 「レガシー」。さらに 「オルタナティブ」 「IoT」 「LGBT」 「AI」 「VR」 「パラダイムシフト」 と続いて、10番目が 「ソーシャルファーム」 となっている。

「オルタナティブ」 (alternative) は、カタカナ語としては 「二者択一」 という意味となっているが、フツーの英語では 「従来のものに代わる新しい選択肢」 というような意味合いで使われる場合が多いと思うんだがなあ。まあ、なかなかすっきりと翻訳しにくい言葉なので、まんまカタカナにして、ついでに意味も限定しちゃったのだろう。

「IoT」(顔文字の一種と思っている人も多い) と 「LGBT」 はいいとして、「AI」 は "artificial intelligence" (人工知能) ということになっている。ただこれは、"artificial insemination" (人工授精) という言葉の方が先にあったらしい。気をつけなきゃいけない。

「ソーシャルファーム」 というのは、恥ずかしながら私もよく知らなかったが、こちら のページを参照して理解できた。

で、余談だが、先日 「FAX なんてものは、アメリカではレガシーとしてスミソニアン博物館に入っちゃったんだってよ」 と言ったら、それを 「偉大な遺産」 として登録されたのだと思っちゃった人が少なくなかったのであった。日本ではまだ 「遺産」 になっていないが。

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2018/11/13

「言われたい放題」 という摩訶不思議な表現

先ほど、友人と電話で仕事の連絡を取り合っていたところ、彼が 「ところでさあ、『言いたい放題』 って言葉はよく聞くけど、『言われたい放題』 ってのは、ちょっと変だよね」 と言い出した。一体どういうことかと思ったら、ネット・ニュースでこの言い回しを見かけたのだという。

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彼に教えてもらったサイトに飛んでみると、ニュースはニュースでも、どうでもいい類いの芸能ネタで、「何があった? みのもんたのおじいちゃんぶりが顕著に」 というタイトルだ。見ていてあまり気分のよくないみのもんたの顔写真の下の方に、なるほど、「さらに最近は、同じく司会を務める久本雅美に言われたい放題」 という一文がある。

これ、書いたのはペリー荻野というコラムニストらしいのだが、テキスト全体を読んでみれば、それほど滅茶苦茶な悪文家というわけでもなく、概ね意味は通じる。しかしいくら何でも 「言われたい放題」 というのはひどすぎる。「言いたい放題言われている」とか「言いたい放題されている」 ぐらいがフツーの言い方だろうね。

ただ、念のため 「言われたい放題」 でググってみたら、世間ではこの言い回しがそれほど珍しくないみたいなのである。Yomiuri Online の 「発言小町」 に 「退職にすることで、言われたい放題」 というのがあるし、Yahoo 知恵袋には 「職場言われたい放題ですごくストレスたまりますどうしたらよいのかわかりません」 という、ちょっと日本語が不自由っぽい人の質問もある。

みのもんたに関する記事ではもう一箇所、彼の 「シニアモード」 (要するに 「ジジくさい」 ってことか) の表現として、「顔の艶よりも赤味を帯びた血色のよさが目立つのである」 というフレーズも、何を言いたいのかよくわからない。ディスっているようで、実は持ち上げているような、苦しい表現とも読み取れる。

この記事、全体をよく読むと何だかんだとおチャラケた表現でウケを狙いつつ、結局は 「大御所」 のみのもんたを要所要所でちょこっとずつヨイショするという、かなりビミョーな配慮を見せるともなく見せながら、結局は持ち上げ気味の記事として終わっている。要するに、「業界内の人」 の文章ってわけだ。

というわけで、「言いたい放題される」 という受け身の表現じゃなく、彼は能動的に選んでそうした役どころを演じているということを匂わせたいという、筆者の潜在意識が、「言われたい放題」 という摩訶不思議な言葉を使わせたのだろうね。

芸能界ってのは、なかなかご苦労なところである。

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2018/11/03

毎度おなじみパターンの、「妙な英語コピー」

今日、久しぶりで電車で都心に出て、JR の駅構内に貼り出してある 「お馴染みの不思議英語パターン」 のポスターで、毎度おなじみの 「何だかなあ気分」 に陥ってしまった。東京ステーションシティというところが展開している "START with YOU" というコピーのキャンペーンである。

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日本の広告コピーでは完全にお馴染みになったパターンである。翻訳すると 「あなたと共に始めなさい」 というわけのわからない日本語になってしまう。何だか知らないが、このパターンは、日本の広告の世界に繰り返し繰り返し出現するもので、私も過去に次のコピーを取り上げている。

Get Old With You (お前と共に年を取れ): ゼクシーの広告
Be a driver (運転手であれ): マツダの広告
Walk with You  (お前と共に歩け): Docomo
Be Myself (私自身でありなさい): 森の仕事ガイダンスの広告

これらはすべて同じパターンの気持ち悪い英語になってしまっている。主語を省いていきなり動詞を出したら 「命令形」 になるという、中学英語の基本の基本を無視しているのだよね。ゼクシーのコピーでいえば 「あなたと共に年を取るわ」 と言いたいところを、主語の ”I" を省いたせいで 「お前と共に年を取れ」 になってしまっている。

同様にマツダは 「私たちはドライバーでありたい」 と言いたいところを、「運転手であれ」 と命令してしまっているし、Docomo は 「私たちはあなたとともに歩みます」 と言いたいところを 「お前と共に歩け」 になり、森の仕事ガイダンスは 「私自身でありなさい」 になっている。「なんで俺がお前自身でなければならないんだ?」 と言いたくなってしまうではないか。

で、今回の東京ステーションシティのコピーは多分、「私たちはあなたと共に始めます」 というココロなのだろうが、主語を省いているために 「あなたと共に始めなさい」 というわけのわからないコピーになっている。同じパターンの繰り返しだ。日本の広告業界の人たちの多くは、中学英語を忘れてしまってるみたいなのである。

ちなみに 「私自身でありなさい」 の記事に、ハマッコーさんが、東京メトロの "Find My Tokyo" というコピーについて、広告主に問い合わせたという次のようなコメントを寄せてくれている。

一年くらい前に、私も東京メトロの Find my tokyo はおかしな表現だと思いましたのでメトロにメールで問い合わせたところ、「ネイティヴに相談した結果、広告の文言としてならセーフであることを確認した上で採用した」 とのことです。

であるとしても、Find your Tokyo と言ったほうが余程表現としてはスッキリするのになあ。

このコメントに、私は次のようなレスを付けている。

相談された 「ネイティブ」 の人というのは、ある意味 「物わかりよすぎ」 か、「忖度しすぎ」 か、どちらかという気がします。

さらに言えばそのネイティブに、「どういう意味合いで 『広告の文章であるなら、ギリギリセーフ』 であるのか」 まで確認すべきだったと思います。

いずれにしても、こんな馬鹿馬鹿しい話でネイティブに相談するというのも、かなり哀しい話だと思ってしまうのである。要するに、これは日本の広告業界全体を覆う持病みたいなものなのだろう。

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2018/10/18

”ZOOM ZOOM” その 2 (無念無想で 「プサプサ」 に遊ぼう篇)

3日前の 「プサプサって何かと思っていたよ」 という記事が想定とは別方向の反応を呼んでしまって、ちょっと戸惑っている。世の中には 「マツキチ」 と呼ばれるマツダ・ファンがかなりいるようで、あの CM のキャッチ、”ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 なんていう軽薄で無意味な音に聞こえてしまうなんて言うと、ずいぶん心外に思われてしまうことがあるようなのだ。

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私としてはマツダのクルマをけなすつもりなんて毛頭なく、ただあの CM の "ZOOM ZOOM" という無声音の囁き声が、「プサプサ」 に聞こえてしまうという、単に音韻上の話を展開しただけなのである。クルマの良さとかいう話とはまったく無関係なのだ。

ところが世の中の多くの人は、あれが 「プサプサ」 に聞こえるなんて思いもよらず、額面通り "ZOOM ZOOM" と受け取っているようなのである。記事に付けられたコメントをみると、意外なことに 「ネイティブスピーカーによる正しい英語の発音」 の問題みたいに受け取られたフシがある。こんな具合である。

ネイティブスピーカーとは意思疎通が困難な者として、「プサプサ」 って聞こえること自体、「へーそうなんやー!」 と思うばかり

多分ネイティブが言っていると思うし、自分の耳の悪さを嘆きこそすれ、発音にケチをつけようなどとは夢にも思いませんでした。

わたしは 「ズーン・ズーン」 と聞こえます。。
少なくともプサプサの P の音も、S の音も入っているように感じないんですよね

とまあ、こんな感じで、私としては TV 画面に表示される "ZOOM ZOOM" の文字に、皆さんかなり引きずられてしまっておいでだなあと感じるのである。予断が入ってしまうと、人間の感覚というのは簡単に裏切られる。

実は 「正しい英語」 も 「ネイティブスピーカー」 もへったくれもない。あれは単に 「プサプサ」 に聞こえるというだけの話なのだ。ネイティブスピーカーと区別が付かない発音ぐらい、私がいつでもしてあげる。

同じように 「プサプサ」 に聞こえて気になってる人が他にもいないかと思い、ググってみたのだが、3日前には探し当てられず、記事中で 「みんな気にならないのかなあ?」 と書いてしまったが、沖縄県30代男 さんが、1つだけ見つけて知らせてくれた。Yahoo 知恵袋に次のような質問がある (参照)。

マツダ車 「アテンザ」 の TV CM の冒頭に女性の声で何と言っているのか理解できません。画面上 「ZOOM」 と言う単語と共に、何語で何と発音しているのですか。私には 「プサン プサン」 としか聞こえないのですが。

この人、画面上の ”ZOOM ZOOM" の文字をちゃんと見ているのに、それと気付かないのは、率直に言って 「ちょっとなあ」 と思ってしまうのだが、逆に言えば下手に気付かなかったからこそ、文字に引きずられずに、素直に耳に入った通りの音として認識したのだろう。私には 「プサプサ」 だが、この人には 「プサン プサン」 だったわけだ。確かにそうも聞こえる。

さらに 「マツダ CM プサ」 というキーサードでググると、「美貌録(備忘録) ZOOM ZOOM プサン プサン」 というページも見つかった。なんだ、他にもちゃんと 「プサ音」 の聞こえてる人がいるじゃないか。

こんなこと、敢えて詳しく説明しなくても一目瞭然 (いや 「一耳瞭然?」) と思っていたのだが、よほど文字に引きずられて耳に入った通りの音を認識しきれない人が多いみたいなので、前の記事のコメント欄で書いたことの繰り返しだが、無声音の囁き声による "ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 に聞こえるメカニズムを、改めてきちんと説明しておこう。こんな具合だ。

  1. "ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 になってしまった最大の要因は、囁くような無声音 (声帯を震わせない、息だけの音) を要求されたからだと思う。最初の "Z" 音を発音する際に、ことさら明瞭さを求められたためなのか、唇を閉じた状態から開くときに思わず僅かに息が漏れ、その瞬間に破裂音の無声音 ”P" が生じてしまっている。

    これはあくまでも微かな子音のみの ”p” なので、母音を伴う ”pu” (プ) という音として認識しようとしても絶対に無理。それで、 「プ」 の音は聞こえないなどと反応してしまう人が多い。カタカナの 「プ」 という文字にとらわれてしまうのだろうね。もう一度言うが、母音を伴う 「プ」 じゃなくて、微かな "p" という破裂音なのだ。
  2. それに続く "ZOOM" だが、無声音なので、”z" 音にはなりようがなく、あれで 「ズー」 に聞こえるというのは、論理的にあり得ない。よほど文字にとらわれているのだろう。同じ発音のメカニズムで声帯を震わせる有声音は "z" で、息だけの無声音は "s" になり、このケースは徹頭徹尾無声音なのだから、必然的に "z " ではなく "s" の音になる。
  3. 2番目の "z" 音も、口を閉じた ”m" から移行するために、最初同様に微かな破裂音の ”P" が発生し、”z" が ”s” 音になるという繰り返しで、その結果、続けて聞くと "psahmpsahm" (「プサプサ」 あるいは 「プサン プサン」) になる。念のため付け加えるが、ずべて息だけの無声音で、"a" も "m" も声帯は震わせない。

”ZOOM ZOOM” という意味のある文字の刷り込みから自由になって、初耳のつもりで無心に聞いてみればわかる。なんてことなくフツーに 「プサプサ」 (あるいは 「プサン プサン」) なのだ。

あまり一生懸命に聞くと、つい無意識的に左脳による 「意味づけ欲求」 が働いて、聴覚から入ったナマの音で満足できずに、”ZOOM ZOOM” と聞こえたつもりになって安心してしまう。視覚で言えば、頭の中で余計な操作をしたせいで、実際の画像通りに見えない 「錯覚」 のようなものだ。

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上図は有名な錯覚パターンだ。左右のパターンの真ん中の円は同じ大きさなのに、違って見える。目がこんなに簡単に騙されるのだから、耳だって騙されるのだね。

意味にとらわれずに無心に右脳で聞けば、「プサプサ」 がわかる。それがわからなかったら、無心になりきれてないのだ。どうでもいいことに浮世の意味を求めすぎると、神経症になってしまうよ。ここは無念無想で 「プサプサ」 の世界に遊んでみよう。

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2018/10/12

「人間ドック」 と 「人間犬」

先日夜遅く、カーラジオを聞きながら帰宅する途中、番組に登場した某お笑いコンビが 「人間ドッグ」 の話題で盛り上がっていた。「人間ドッグって、入ったことある?」 「こないだ初めて入ったけど、やっぱり若いうちに入っといた方がいいよ、人間ドッグ」 などと続き、聞いていてムズムズしてしまった。

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言うまでもなく 「人間ドッグ」 では 「人間犬」 ということになってしまい、正しくは 「人間ドック」 である。船の点検や修理などをする 「ドック (dock)」 を、人間の体の総点検に喩えた言い方だ。

しかし私の印象では、日本人の 60%以上は 「人間ドッグ」 と言っているんじゃないかと思う。Yahoo 知恵袋にも、「人間ドッグの意味を教えて下さい。なぜドッグ (犬?) なのでしょうか」 なんて質問が寄せられているぐらいのものだし。

先日のラジオ放送でも、さんざん 「人間ドッグ」 を連発し続けても、スタッフからのダメ出しがなかったように見受けられる。スタジオには 「人間ドッグ」 が間違いと知る者がいなかったのだろうか。それとも、単にうっかり気付かなかったのだろうか。

で、ふと思いついて 「人間ドッグ」 でググってみると、さすが Google で、正しい言い方の 「人間ドック」 での検索結果もちゃんと気を利かせて表示してくれるが、「人間ドッグ」 もかなり多く引っかかる。とにかく日本中の 「人間ドッグ」 機能のある病院が、いくつも表示されてしまうのだ。

ただ、Google 検索では 「人間ドッグ」 で引っかかっても、そのページに飛んでみると、ちゃんと 「人間ドック」 と表示されている場合がほとんどだ。

病院からの発注でウェブサイトを制作したやつが 「人間ドッグ」 と思い込んでいて、そのように作り込んでしまい、チェックの段階で 「おいおい、ウチは人間犬じゃないよ、ちゃんと 『人間ドック』 に直しといて」 と言われて慌てて修正したのだろう。ただ、ソースの 「ページタイトル」 の部分までは修正し忘れがちなので、Google 検索結果では 「人間ドッグ」 で表示されてしまうのだろうと推察する。

やっぱり定期的に受けた方が良い? 人間ドッグ」 なんていう大真面目なページでは、「人間ドッグ」 と 「人間ドック」 の表示が混在してしまっていて、かなりの混乱が見て取れる。これは病院の営業用ページじゃないので、ついチェックがいい加減になっちゃったんだろうね。

そうかと思うと、”越谷レイクタウン内科 「人間ドッグについて」” というれっきとした営業用ページは、ソースのページタイトルも、実際のページの表現も 「人間ドッグ」 で統一されている。大したものだと思いかけたが、URL が "https://laketown-clinic.jp/dock/index.html" となっているために画竜点睛を欠く。一貫性の確保のために "dog" としておけば満点だったのに。

関連業界まで範囲を拡げると 「健診・人間ドッグ向けサプライアイテム セール一覧 【AXEL】 アズワン」 というページは破綻なく 「ドッグ」 で一貫している。

ちなみに 「人間ドック」 というのは和製英語 (和製半分英語?) で、英語で "human dock" なんて言っても通じない。しかしよく調べてみると、イギリスの口語表現で 「彼は入院中だよ」 ってことを "He is in dock now." とか言うことがあるみたいなので、もしかしたら、こうしたところから 「人間ドック」 という言葉ができたのかもしれない。

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2018/09/24

一見もっともらしい英語の看板

下の画像は、某所で見かけた住宅販売会社の入り口にある大きな看板である。会社のモットーであるらしい文句が英語で表記され、その下にフリーダイヤルの番号が大きく書かれている。

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で、まあ、イチャモンをつけるってわけじゃないのだが、日本の住宅販売会社が、茨城県内の地方都市に社屋を構え、おそらく日本人の顧客を主対象としたビジネスを展開していると考えられるのに、どうしてまたこんな風な英語のテキストを麗々しく玄関の看板に表示してあるのだろう。私は単純に疑問に思ってしまうのである。

しかもその英語が、「ちょっとね」 というテキストなので、「何だかなあ」 という思いは何倍にも増幅されてしまうというわけだ。まあ、翻訳するとこんな感じだ。

快適で美しい一軒のお住まいは、私たちの職人技の様式です。
優雅さの中で過ごされる時間は、想像力をかき立て、
そしてあなたの心に居住する無限の可能性を刺激します。

とくに 1行目の "abode" という単語なんか、恥ずかしながら私も知らなかったので辞書 (Wisdom English Japanese Dictionary) を調べたら、こんな風なことだった。

abode 名詞 1. 可算名詞 ≪かたく・修辞的に/おどけて≫ [通例 a/one's (...) 住居、住まい
  2. 不可算名詞 ≪法≫ 住所

この場合は "a" が付いているので、意図してのことではないのだろうが、まさに 「かたく修辞的」 か 「おどけて」 かのどちらか、あるいは両方のニュアンスになってしまうよね (それで、敢えて 「お住まい」 なんて訳してみた)。まあ、翻訳する前のテキストは、全体を通してものすごくステロタイプで具体性のない日本語だったんだろうから、強いて英語にするとこんなのになりがちってことだ。

妻に言わせると 「どうせ雰囲気のものだから、深く考えなくていいのよ」 ってなことらしい。誰もまともになんか読まないし、何となくそれっぽい英語が書いてあるだけでカッコよさげに映るので、「装飾」 として充分なのだというのである。ということは、ついちゃんと読んじゃった私が変わり者ってことなのか。

ただ、「なるほど」 と納得したのは、この看板の文字が地のデザインの中に溶け込んでいる点だ。きちんと読ませようというテキストなら下の電話番号 (チラッと見えるよね) のように 「白抜き文字」 で強調するところだろうが、どうせ 「装飾」 で意味に思い入れなんてないので、こんなに背景に埋もれ気味でも全然平気なわけね。

私だったら、こんなくどくどと要領を得ないテキストなんかより、ただ一言、こんな風に書くがなあ。

A good house enhances your life!
(一軒のいい家が、あなたの生活を高める!)

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2018/09/11

機内サービスで 「ビール」 は 「ミルク」 と間違えられやすい

40年近くも前のことだが、当時務めていた会社の上司とヨーロッパに出張した時、その上司がルフトハンザの機内サービスで 「ビール」 を注文したのに、「ミルク」 を出されたことがある。

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彼は日本国内でこんな間違いをされたら、確実に 「馬鹿にしとるんかい!」 と激怒するタイプだったが、ドイツ人スチュワーデスだらけのルフトハンザ機内では一言も文句を言わず、おとなしくミルクを啜っていた。日本国内から一歩出ると、借りてきた猫になってしまうオッサンは結構多い。

そして実は、「機内サービスでのビールとミルクの聞き違い」 は、かなりよくあることらしい。ググってみると、結構な数のページがヒットして、複数のスチュワーデスのブログにも、「聞き違いの定番」 として書かれていたりする (参照 1参照 2)。

日本人スチュワーデスは聞き違いの理由として、「ビールください (ビー ルク ダサイ)」 と 「ミルクください (ミ ルクク ダサイ)」 が紛らわしいなんて書いたりしている。しかし外国人スチュワーデスには "Beer, please." みたいに言う ("please" を付けることを知らないぶっきらぼうな日本人も多い) ので、聞き違いの理由は別にある。そしてその理由は、私には前述の 40年近く前の段階で既にわかっていた。

その上司は英語がまったく苦手で、自信なげに恐る恐る小声で 「ビア」 と言う。すると 「ビ」 が明確な破裂音にならず、常にエンジン音の響く機内では、まろやかな 「ミ」 に聞こえてしまう。さらにまともに口を開かずボソボソ言うので、当人は 「ビア」 と伝えたつもりが、「ミウ」 に近い音としてしか聞こえないのだ。

そして "milk" をカタカナ英語の 「ミルク」 でない、ちゃんとした英語発音で言うと、最後の "k" は普段は 「聞こえない音」 になりがちなので、日本人の耳には 「ミウ」 みたいな音に聞こえる。 (最後の子音はフランス語ほどじゃないがあまり明確には発音されず、後に母音が続くとリエゾンされることが多い)

つまり英語の苦手な日本人のオッサンが恐る恐る言う 「ビア」 は、客観的にはほとんど 「ミウ」 という音に聞こえてしまい、その音を欧米人スチュワーデスが "milk" に脳内変換してしまうのは、ほとんど自動的なメカニズムなのだよ。あまり自然なプロセスだから、聞き直そうという発想すら浮かばない。

欧米人にカタカナ英語の 「ミルク」 は通じず、「ビア」 の言いそこないの 「ミウ」 の方がずっと "milk" と思われるのは、「アップル」 と言っても全然通じなくて、「アボゥ」 と言えば "Apple" に聞こえるのと同じようなことだ。彼らはカタカナで音を聞くカラダになってないからね。

ちなみにスチュワーデスのブログを検索しても、こうした 「聞き違いのメカニズム」 を的確に指摘しているページは見当たらない。私の知る限り、日本人スチュワーデスってほぼ全員が 「カタカナ英語」 (あるいはもっとスゴい 「ひらがな英語」) だから、このことに気付かないのも無理もないのだろうね。

結論。日本人のオッサンは妙に緊張して恐る恐る 「ビア」 なんていうより、思いっきり開き直って 「ビール!!」 という方が、通じる可能性はずっと高い。

【付記】

ここでは、あえて political correctness を無視して 「スチュワーデス」 と書かせていただいた。何しろ 40年前のエピソードから入ったので。

というわけで、「CA と言うべきでは」 みたいなコメントは不要なのでよろしく。(CA って和製英語だし)

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