カテゴリー「言葉」の438件の記事

2018/11/13

「言われたい放題」 という摩訶不思議な表現

先ほど、友人と電話で仕事の連絡を取り合っていたところ、彼が 「ところでさあ、『言いたい放題』 って言葉はよく聞くけど、『言われたい放題』 ってのは、ちょっと変だよね」 と言い出した。一体どういうことかと思ったら、ネット・ニュースでこの言い回しを見かけたのだという。

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彼に教えてもらったサイトに飛んでみると、ニュースはニュースでも、どうでもいい類いの芸能ネタで、「何があった? みのもんたのおじいちゃんぶりが顕著に」 というタイトルだ。見ていてあまり気分のよくないみのもんたの顔写真の下の方に、なるほど、「さらに最近は、同じく司会を務める久本雅美に言われたい放題」 という一文がある。

これ、書いたのはペリー荻野というコラムニストらしいのだが、テキスト全体を読んでみれば、それほど滅茶苦茶な悪文家というわけでもなく、概ね意味は通じる。しかしいくら何でも 「言われたい放題」 というのはひどすぎる。「言いたい放題言われている」とか「言いたい放題されている」 ぐらいがフツーの言い方だろうね。

ただ、念のため 「言われたい放題」 でググってみたら、世間ではこの言い回しがそれほど珍しくないみたいなのである。Yomiuri Online の 「発言小町」 に 「退職にすることで、言われたい放題」 というのがあるし、Yahoo 知恵袋には 「職場言われたい放題ですごくストレスたまりますどうしたらよいのかわかりません」 という、ちょっと日本語が不自由っぽい人の質問もある。

みのもんたに関する記事ではもう一箇所、彼の 「シニアモード」 (要するに 「ジジくさい」 ってことか) の表現として、「顔の艶よりも赤味を帯びた血色のよさが目立つのである」 というフレーズも、何を言いたいのかよくわからない。ディスっているようで、実は持ち上げているような、苦しい表現とも読み取れる。

この記事、全体をよく読むと何だかんだとおチャラケた表現でウケを狙いつつ、結局は 「大御所」 のみのもんたを要所要所でちょこっとずつヨイショするという、かなりビミョーな配慮を見せるともなく見せながら、結局は持ち上げ気味の記事として終わっている。要するに、「業界内の人」 の文章ってわけだ。

というわけで、「言いたい放題される」 という受け身の表現じゃなく、彼は能動的に選んでそうした役どころを演じているということを匂わせたいという、筆者の潜在意識が、「言われたい放題」 という摩訶不思議な言葉を使わせたのだろうね。

芸能界ってのは、なかなかご苦労なところである。

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2018/11/03

毎度おなじみパターンの、「妙な英語コピー」

今日、久しぶりで電車で都心に出て、JR の駅構内に貼り出してある 「お馴染みの不思議英語パターン」 のポスターで、毎度おなじみの 「何だかなあ気分」 に陥ってしまった。東京ステーションシティというところが展開している "START with YOU" というコピーのキャンペーンである。

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日本の広告コピーでは完全にお馴染みになったパターンである。翻訳すると 「あなたと共に始めなさい」 というわけのわからない日本語になってしまう。何だか知らないが、このパターンは、日本の広告の世界に繰り返し繰り返し出現するもので、私も過去に次のコピーを取り上げている。

Get Old With You (お前と共に年を取れ): ゼクシーの広告
Be a driver (運転手であれ): マツダの広告
Walk with You  (お前と共に歩け): Docomo
Be Myself (私自身でありなさい): 森の仕事ガイダンスの広告

これらはすべて同じパターンの気持ち悪い英語になってしまっている。主語を省いていきなり動詞を出したら 「命令形」 になるという、中学英語の基本の基本を無視しているのだよね。ゼクシーのコピーでいえば 「あなたと共に年を取るわ」 と言いたいところを、主語の ”I" を省いたせいで 「お前と共に年を取れ」 になってしまっている。

同様にマツダは 「私たちはドライバーでありたい」 と言いたいところを、「運転手であれ」 と命令してしまっているし、Docomo は 「私たちはあなたとともに歩みます」 と言いたいところを 「お前と共に歩け」 になり、森の仕事ガイダンスは 「私自身でありなさい」 になっている。「なんで俺がお前自身でなければならないんだ?」 と言いたくなってしまうではないか。

で、今回の東京ステーションシティのコピーは多分、「私たちはあなたと共に始めます」 というココロなのだろうが、主語を省いているために 「あなたと共に始めなさい」 というわけのわからないコピーになっている。同じパターンの繰り返しだ。日本の広告業界の人たちの多くは、中学英語を忘れてしまってるみたいなのである。

ちなみに 「私自身でありなさい」 の記事に、ハマッコーさんが、東京メトロの "Find My Tokyo" というコピーについて、広告主に問い合わせたという次のようなコメントを寄せてくれている。

一年くらい前に、私も東京メトロの Find my tokyo はおかしな表現だと思いましたのでメトロにメールで問い合わせたところ、「ネイティヴに相談した結果、広告の文言としてならセーフであることを確認した上で採用した」 とのことです。

であるとしても、Find your Tokyo と言ったほうが余程表現としてはスッキリするのになあ。

このコメントに、私は次のようなレスを付けている。

相談された 「ネイティブ」 の人というのは、ある意味 「物わかりよすぎ」 か、「忖度しすぎ」 か、どちらかという気がします。

さらに言えばそのネイティブに、「どういう意味合いで 『広告の文章であるなら、ギリギリセーフ』 であるのか」 まで確認すべきだったと思います。

いずれにしても、こんな馬鹿馬鹿しい話でネイティブに相談するというのも、かなり哀しい話だと思ってしまうのである。要するに、これは日本の広告業界全体を覆う持病みたいなものなのだろう。

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2018/10/18

”ZOOM ZOOM” その 2 (無念無想で 「プサプサ」 に遊ぼう篇)

3日前の 「プサプサって何かと思っていたよ」 という記事が想定とは別方向の反応を呼んでしまって、ちょっと戸惑っている。世の中には 「マツキチ」 と呼ばれるマツダ・ファンがかなりいるようで、あの CM のキャッチ、”ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 なんていう軽薄で無意味な音に聞こえてしまうなんて言うと、ずいぶん心外に思われてしまうことがあるようなのだ。

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私としてはマツダのクルマをけなすつもりなんて毛頭なく、ただあの CM の "ZOOM ZOOM" という無声音の囁き声が、「プサプサ」 に聞こえてしまうという、単に音韻上の話を展開しただけなのである。クルマの良さとかいう話とはまったく無関係なのだ。

ところが世の中の多くの人は、あれが 「プサプサ」 に聞こえるなんて思いもよらず、額面通り "ZOOM ZOOM" と受け取っているようなのである。記事に付けられたコメントをみると、意外なことに 「ネイティブスピーカーによる正しい英語の発音」 の問題みたいに受け取られたフシがある。こんな具合である。

ネイティブスピーカーとは意思疎通が困難な者として、「プサプサ」 って聞こえること自体、「へーそうなんやー!」 と思うばかり

多分ネイティブが言っていると思うし、自分の耳の悪さを嘆きこそすれ、発音にケチをつけようなどとは夢にも思いませんでした。

わたしは 「ズーン・ズーン」 と聞こえます。。
少なくともプサプサの P の音も、S の音も入っているように感じないんですよね

とまあ、こんな感じで、私としては TV 画面に表示される "ZOOM ZOOM" の文字に、皆さんかなり引きずられてしまっておいでだなあと感じるのである。予断が入ってしまうと、人間の感覚というのは簡単に裏切られる。

実は 「正しい英語」 も 「ネイティブスピーカー」 もへったくれもない。あれは単に 「プサプサ」 に聞こえるというだけの話なのだ。ネイティブスピーカーと区別が付かない発音ぐらい、私がいつでもしてあげる。

同じように 「プサプサ」 に聞こえて気になってる人が他にもいないかと思い、ググってみたのだが、3日前には探し当てられず、記事中で 「みんな気にならないのかなあ?」 と書いてしまったが、沖縄県30代男 さんが、1つだけ見つけて知らせてくれた。Yahoo 知恵袋に次のような質問がある (参照)。

マツダ車 「アテンザ」 の TV CM の冒頭に女性の声で何と言っているのか理解できません。画面上 「ZOOM」 と言う単語と共に、何語で何と発音しているのですか。私には 「プサン プサン」 としか聞こえないのですが。

この人、画面上の ”ZOOM ZOOM" の文字をちゃんと見ているのに、それと気付かないのは、率直に言って 「ちょっとなあ」 と思ってしまうのだが、逆に言えば下手に気付かなかったからこそ、文字に引きずられずに、素直に耳に入った通りの音として認識したのだろう。私には 「プサプサ」 だが、この人には 「プサン プサン」 だったわけだ。確かにそうも聞こえる。

さらに 「マツダ CM プサ」 というキーサードでググると、「美貌録(備忘録) ZOOM ZOOM プサン プサン」 というページも見つかった。なんだ、他にもちゃんと 「プサ音」 の聞こえてる人がいるじゃないか。

こんなこと、敢えて詳しく説明しなくても一目瞭然 (いや 「一耳瞭然?」) と思っていたのだが、よほど文字に引きずられて耳に入った通りの音を認識しきれない人が多いみたいなので、前の記事のコメント欄で書いたことの繰り返しだが、無声音の囁き声による "ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 に聞こえるメカニズムを、改めてきちんと説明しておこう。こんな具合だ。

  1. "ZOOM ZOOM" が 「プサプサ」 になってしまった最大の要因は、囁くような無声音 (声帯を震わせない、息だけの音) を要求されたからだと思う。最初の "Z" 音を発音する際に、ことさら明瞭さを求められたためなのか、唇を閉じた状態から開くときに思わず僅かに息が漏れ、その瞬間に破裂音の無声音 ”P" が生じてしまっている。

    これはあくまでも微かな子音のみの ”p” なので、母音を伴う ”pu” (プ) という音として認識しようとしても絶対に無理。それで、 「プ」 の音は聞こえないなどと反応してしまう人が多い。カタカナの 「プ」 という文字にとらわれてしまうのだろうね。もう一度言うが、母音を伴う 「プ」 じゃなくて、微かな "p" という破裂音なのだ。
  2. それに続く "ZOOM" だが、無声音なので、”z" 音にはなりようがなく、あれで 「ズー」 に聞こえるというのは、論理的にあり得ない。よほど文字にとらわれているのだろう。同じ発音のメカニズムで声帯を震わせる有声音は "z" で、息だけの無声音は "s" になり、このケースは徹頭徹尾無声音なのだから、必然的に "z " ではなく "s" の音になる。
  3. 2番目の "z" 音も、口を閉じた ”m" から移行するために、最初同様に微かな破裂音の ”P" が発生し、”z" が ”s” 音になるという繰り返しで、その結果、続けて聞くと "psahmpsahm" (「プサプサ」 あるいは 「プサン プサン」) になる。念のため付け加えるが、ずべて息だけの無声音で、"a" も "m" も声帯は震わせない。

”ZOOM ZOOM” という意味のある文字の刷り込みから自由になって、初耳のつもりで無心に聞いてみればわかる。なんてことなくフツーに 「プサプサ」 (あるいは 「プサン プサン」) なのだ。

あまり一生懸命に聞くと、つい無意識的に左脳による 「意味づけ欲求」 が働いて、聴覚から入ったナマの音で満足できずに、”ZOOM ZOOM” と聞こえたつもりになって安心してしまう。視覚で言えば、頭の中で余計な操作をしたせいで、実際の画像通りに見えない 「錯覚」 のようなものだ。

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上図は有名な錯覚パターンだ。左右のパターンの真ん中の円は同じ大きさなのに、違って見える。目がこんなに簡単に騙されるのだから、耳だって騙されるのだね。

意味にとらわれずに無心に右脳で聞けば、「プサプサ」 がわかる。それがわからなかったら、無心になりきれてないのだ。どうでもいいことに浮世の意味を求めすぎると、神経症になってしまうよ。ここは無念無想で 「プサプサ」 の世界に遊んでみよう。

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2018/10/12

「人間ドック」 と 「人間犬」

先日夜遅く、カーラジオを聞きながら帰宅する途中、番組に登場した某お笑いコンビが 「人間ドッグ」 の話題で盛り上がっていた。「人間ドッグって、入ったことある?」 「こないだ初めて入ったけど、やっぱり若いうちに入っといた方がいいよ、人間ドッグ」 などと続き、聞いていてムズムズしてしまった。

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言うまでもなく 「人間ドッグ」 では 「人間犬」 ということになってしまい、正しくは 「人間ドック」 である。船の点検や修理などをする 「ドック (dock)」 を、人間の体の総点検に喩えた言い方だ。

しかし私の印象では、日本人の 60%以上は 「人間ドッグ」 と言っているんじゃないかと思う。Yahoo 知恵袋にも、「人間ドッグの意味を教えて下さい。なぜドッグ (犬?) なのでしょうか」 なんて質問が寄せられているぐらいのものだし。

先日のラジオ放送でも、さんざん 「人間ドッグ」 を連発し続けても、スタッフからのダメ出しがなかったように見受けられる。スタジオには 「人間ドッグ」 が間違いと知る者がいなかったのだろうか。それとも、単にうっかり気付かなかったのだろうか。

で、ふと思いついて 「人間ドッグ」 でググってみると、さすが Google で、正しい言い方の 「人間ドック」 での検索結果もちゃんと気を利かせて表示してくれるが、「人間ドッグ」 もかなり多く引っかかる。とにかく日本中の 「人間ドッグ」 機能のある病院が、いくつも表示されてしまうのだ。

ただ、Google 検索では 「人間ドッグ」 で引っかかっても、そのページに飛んでみると、ちゃんと 「人間ドック」 と表示されている場合がほとんどだ。

病院からの発注でウェブサイトを制作したやつが 「人間ドッグ」 と思い込んでいて、そのように作り込んでしまい、チェックの段階で 「おいおい、ウチは人間犬じゃないよ、ちゃんと 『人間ドック』 に直しといて」 と言われて慌てて修正したのだろう。ただ、ソースの 「ページタイトル」 の部分までは修正し忘れがちなので、Google 検索結果では 「人間ドッグ」 で表示されてしまうのだろうと推察する。

やっぱり定期的に受けた方が良い? 人間ドッグ」 なんていう大真面目なページでは、「人間ドッグ」 と 「人間ドック」 の表示が混在してしまっていて、かなりの混乱が見て取れる。これは病院の営業用ページじゃないので、ついチェックがいい加減になっちゃったんだろうね。

そうかと思うと、”越谷レイクタウン内科 「人間ドッグについて」” というれっきとした営業用ページは、ソースのページタイトルも、実際のページの表現も 「人間ドッグ」 で統一されている。大したものだと思いかけたが、URL が "https://laketown-clinic.jp/dock/index.html" となっているために画竜点睛を欠く。一貫性の確保のために "dog" としておけば満点だったのに。

関連業界まで範囲を拡げると 「健診・人間ドッグ向けサプライアイテム セール一覧 【AXEL】 アズワン」 というページは破綻なく 「ドッグ」 で一貫している。

ちなみに 「人間ドック」 というのは和製英語 (和製半分英語?) で、英語で "human dock" なんて言っても通じない。しかしよく調べてみると、イギリスの口語表現で 「彼は入院中だよ」 ってことを "He is in dock now." とか言うことがあるみたいなので、もしかしたら、こうしたところから 「人間ドック」 という言葉ができたのかもしれない。

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2018/09/24

一見もっともらしい英語の看板

下の画像は、某所で見かけた住宅販売会社の入り口にある大きな看板である。会社のモットーであるらしい文句が英語で表記され、その下にフリーダイヤルの番号が大きく書かれている。

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で、まあ、イチャモンをつけるってわけじゃないのだが、日本の住宅販売会社が、茨城県内の地方都市に社屋を構え、おそらく日本人の顧客を主対象としたビジネスを展開していると考えられるのに、どうしてまたこんな風な英語のテキストを麗々しく玄関の看板に表示してあるのだろう。私は単純に疑問に思ってしまうのである。

しかもその英語が、「ちょっとね」 というテキストなので、「何だかなあ」 という思いは何倍にも増幅されてしまうというわけだ。まあ、翻訳するとこんな感じだ。

快適で美しい一軒のお住まいは、私たちの職人技の様式です。
優雅さの中で過ごされる時間は、想像力をかき立て、
そしてあなたの心に居住する無限の可能性を刺激します。

とくに 1行目の "abode" という単語なんか、恥ずかしながら私も知らなかったので辞書 (Wisdom English Japanese Dictionary) を調べたら、こんな風なことだった。

abode 名詞 1. 可算名詞 ≪かたく・修辞的に/おどけて≫ [通例 a/one's (...) 住居、住まい
  2. 不可算名詞 ≪法≫ 住所

この場合は "a" が付いているので、意図してのことではないのだろうが、まさに 「かたく修辞的」 か 「おどけて」 かのどちらか、あるいは両方のニュアンスになってしまうよね (それで、敢えて 「お住まい」 なんて訳してみた)。まあ、翻訳する前のテキストは、全体を通してものすごくステロタイプで具体性のない日本語だったんだろうから、強いて英語にするとこんなのになりがちってことだ。

妻に言わせると 「どうせ雰囲気のものだから、深く考えなくていいのよ」 ってなことらしい。誰もまともになんか読まないし、何となくそれっぽい英語が書いてあるだけでカッコよさげに映るので、「装飾」 として充分なのだというのである。ということは、ついちゃんと読んじゃった私が変わり者ってことなのか。

ただ、「なるほど」 と納得したのは、この看板の文字が地のデザインの中に溶け込んでいる点だ。きちんと読ませようというテキストなら下の電話番号 (チラッと見えるよね) のように 「白抜き文字」 で強調するところだろうが、どうせ 「装飾」 で意味に思い入れなんてないので、こんなに背景に埋もれ気味でも全然平気なわけね。

私だったら、こんなくどくどと要領を得ないテキストなんかより、ただ一言、こんな風に書くがなあ。

A good house enhances your life!
(一軒のいい家が、あなたの生活を高める!)

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2018/09/11

機内サービスで 「ビール」 は 「ミルク」 と間違えられやすい

40年近くも前のことだが、当時務めていた会社の上司とヨーロッパに出張した時、その上司がルフトハンザの機内サービスで 「ビール」 を注文したのに、「ミルク」 を出されたことがある。

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彼は日本国内でこんな間違いをされたら、確実に 「馬鹿にしとるんかい!」 と激怒するタイプだったが、ドイツ人スチュワーデスだらけのルフトハンザ機内では一言も文句を言わず、おとなしくミルクを啜っていた。日本国内から一歩出ると、借りてきた猫になってしまうオッサンは結構多い。

そして実は、「機内サービスでのビールとミルクの聞き違い」 は、かなりよくあることらしい。ググってみると、結構な数のページがヒットして、複数のスチュワーデスのブログにも、「聞き違いの定番」 として書かれていたりする (参照 1参照 2)。

日本人スチュワーデスは聞き違いの理由として、「ビールください (ビー ルク ダサイ)」 と 「ミルクください (ミ ルクク ダサイ)」 が紛らわしいなんて書いたりしている。しかし外国人スチュワーデスには "Beer, please." みたいに言う ("please" を付けることを知らないぶっきらぼうな日本人も多い) ので、聞き違いの理由は別にある。そしてその理由は、私には前述の 40年近く前の段階で既にわかっていた。

その上司は英語がまったく苦手で、自信なげに恐る恐る小声で 「ビア」 と言う。すると 「ビ」 が明確な破裂音にならず、常にエンジン音の響く機内では、まろやかな 「ミ」 に聞こえてしまう。さらにまともに口を開かずボソボソ言うので、当人は 「ビア」 と伝えたつもりが、「ミウ」 に近い音としてしか聞こえないのだ。

そして "milk" をカタカナ英語の 「ミルク」 でない、ちゃんとした英語発音で言うと、最後の "k" は普段は 「聞こえない音」 になりがちなので、日本人の耳には 「ミウ」 みたいな音に聞こえる。 (最後の子音はフランス語ほどじゃないがあまり明確には発音されず、後に母音が続くとリエゾンされることが多い)

つまり英語の苦手な日本人のオッサンが恐る恐る言う 「ビア」 は、客観的にはほとんど 「ミウ」 という音に聞こえてしまい、その音を欧米人スチュワーデスが "milk" に脳内変換してしまうのは、ほとんど自動的なメカニズムなのだよ。あまり自然なプロセスだから、聞き直そうという発想すら浮かばない。

欧米人にカタカナ英語の 「ミルク」 は通じず、「ビア」 の言いそこないの 「ミウ」 の方がずっと "milk" と思われるのは、「アップル」 と言っても全然通じなくて、「アボゥ」 と言えば "Apple" に聞こえるのと同じようなことだ。彼らはカタカナで音を聞くカラダになってないからね。

ちなみにスチュワーデスのブログを検索しても、こうした 「聞き違いのメカニズム」 を的確に指摘しているページは見当たらない。私の知る限り、日本人スチュワーデスってほぼ全員が 「カタカナ英語」 (あるいはもっとスゴい 「ひらがな英語」) だから、このことに気付かないのも無理もないのだろうね。

結論。日本人のオッサンは妙に緊張して恐る恐る 「ビア」 なんていうより、思いっきり開き直って 「ビール!!」 という方が、通じる可能性はずっと高い。

【付記】

ここでは、あえて political correctness を無視して 「スチュワーデス」 と書かせていただいた。何しろ 40年前のエピソードから入ったので。

というわけで、「CA と言うべきでは」 みたいなコメントは不要なのでよろしく。(CA って和製英語だし)

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2018/09/10

「消すやつ」 でいいよね

1ヶ月近くも前の話で恐縮だが、emi さんのブログに 「消すやつ」 という記事がある。「板書を消すやつ」 を何と称するかというお話だ。

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日本語では長らく 「黒板消し」 と言い習わしてきたが、最近はホワイトボードが多くなったので、その名称が面倒くさいことになっている。「黒板消し」 をそのまま踏襲する人も結構多いが、それじゃおかしいってわけで、「白板消し」 と言ったり 「ホワイトボード消し」 と言ったり 「ボード消し」 と言ったり、はたまた 「クリーナー」 なんて言う人もいたりする。

私はといえば、その辺の使い分けがたまらなく面倒なので、昔から単に 「消すやつ」 で通してきた。板書していて間違えた時なんか、「あれ、『消すやつ』 どこ?」 なんてつぶやいたりする。黒板を消すジェスチャーをしながら 「消すやつ」 と言えば、一目瞭然だ。そして emi さんのブログ記事のタイトルがまさに 「消すやつ」 だったので、何となく嬉しくなってしまったわけだ。

この 「消すやつ」 というのを、まんま英語に直訳してしまうと "eraser" となって、和英辞書的には 「消しゴム」 の英訳としてこの言葉が表示されることが多い。一節には、英国では "rubber" (「ゴム」 のことね) と呼ぶ人が多いらしいが、まあ、米国では大抵  "eraser" (イレイサー) だよね。

で、ここからが emi さんの 「思わず膝打つ」 指摘なのだが、"事の発端は、「消しゴム」 だろうな。/あそこで 「ゴム」 方面に行ってしまったことが、後々こうして厄介な問題を生んだ。/なんでそんなに素材を言いたくなっちゃったかなぁ" ということになる。なるほど、英語なら 「消しゴム」 だろうが 「黒板消し」 だろうが 「ホワイトボード消し」 だろうが、単純に "eraser" —— 「消すやつ」 で済んで、面倒がないのだ。

英国では 「消しゴム」 が "rubber" なら、板書を消すやつは "felt" だったりするのかなんて思ったが、調べてみるとやっぱり "rubber" でいいんだそうだ。そうか "rub" という動詞は 「こする」 ってことで、そこから 「ゴム」 が "rubber" になったんだったよね。だから、黒板消しも "rubber" (こするやつ) でいいのか。

いずれにしても、日本でもこの 「消すやつ」 を非公認のポジションから解放して、広く認証してしまえばありがたいよね。私なんかも堂々と胸を張って使えるようになる。

さらにここからが私の庄内生まれの血が騒ぎ出すところなのだが、本当は 「消すやつ」 なんて言うより 「消すな」 (「な」 にビミョーなアクセントをおく) と言う方が、個人的にはしっくりくるのである。これは庄内弁で 「消すモノ」 という意味で、"Don't erase." (消してはいけない) ではない。

この 「な」 は、とても汎用性がある。「あんめな」 と言えば 「甘いモノ」 ということで、主に飴ちゃんのことだし、「はっこな」 と言えば 「冷たい (ひやっこい) モノ」 ということで、夏に嬉しいアイスクリームとか、かき氷とか冷たいお茶などを指す。

極めると 「あだまあっちぇな」 なんて用例があり、「頭の熱いやつ」 ということだ。ただ、庄内弁の 「頭が熱い」 は、ハードボイルドではなく、常にトンチンカンな人のことを指す。「冷静」 の反対だが、中途半端に 「ほろアツい」 のだね。

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2018/08/15

「いつも新鮮」 って、単に 「フツー」 ってことでは?

今日、京浜東北線の電車で気になるポスターを見つけた。キャッチコピーの文字のコントラストが不鮮明なので、"ALWAYS FRESIL" と見えてしまうのだが、 "fresil" なんて単語は知らない。よく見ると "ALWAYS FRESH" である。

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「ミュゼ」 という脇毛処理だかなんだかの会社のポスターで、これに関するウェブページを見ると、"新コンセプトは「Always Fresh」!" とある (参照)。どうもカギ括弧と感嘆符のつけ方が独特すぎるような気がするが、まあ、敢えてそこには触れないでおこう。

それよりも、"always" と "fresh" という 2つの単語が、こんなに簡単に結びついてしまっていいものかという問題である。「いつも、常に」 という副詞と 「新鮮な」 という形容詞は、そんなに安易には両立しないんじゃないかと思ってしまうのだ。

"Fresh" というのは、一定の時間軸の上でのある状態を指す言葉だと思うのである。つまり 「新鮮な」 という状態は、常に継続するものじゃない。

最大限譲って、「常に新鮮な状態」 というのがあると仮定しよう。しかし常にそうだったら、それは特段 「新鮮」 というわけじゃなく、単に 「フツー」 ってことじゃないか。矛盾に陥ってしまう。「新鮮」 というのは、他の状態と比べて差別化されるからこそ、「新鮮」 と言えるのじゃないのか。

あるいは時間軸の問題ではなく、空間軸として捉えて、「いつも、他と比較して新鮮に見える」 ということなのだろうか。しかしそれだったら、"fresher" と比較級にならなければならないんじゃなかろうか。やはり "Always Fresh" というコピーは、私には違和感があるのだよね。

私には関係のない商品だし、言いがかりっぽいと言えば、我ながらその通りでもあると思われるんだけど、言葉に関してはついこだわってしまうビョーキの私の感覚として、「無理筋的」 に座りが悪いと感じてしまうのだよね。Bob Dylan の ”Forever Young" とはちょっと次元が違う気がするわけだ。

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2018/08/14

「かなとこ雲」 が翻訳語という推量は正しかったようだ

下の写真は刀鍛冶の桔梗隼光さんという方が使っている 「金床」 である (参照)。砥石で仕上げた直後というだけに、うっとりするほど美しい。画像検索で見つけたのだが、他の刀鍛冶のものをみても大体似たような形だ。

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今月 9日の "「かなとこ雲」 を巡る冒険" という記事で、「かなとこ雲」 の 「かなとこ」 というのは、鍛冶屋さんの使う道具、『金床』 のことであることに触れた。ただそれに関連して、「もしかしたら、この 『かなとこ雲』 という名称自体が、明治以後にできた翻訳語なのかもしれない」 という疑問を呈しておいたのである。

かなとこ雲の学術名 "Incus" はラテン語で 「金床」 を意味し、英語でもこの雲を "anvil cloud" (anvil は 「金床」 の意) と称する。それで初めは、この雲の特色ある形が 「洋の東西を問わず同じ道具を連想させる」 のだと早合点しそうになった。しかしすぐに、「いや、多分そうじゃないだろう」 と、思い直したわけだ。

いくら何でも、名称が共通しすぎて、「かなとこ雲」 という日本語は、英語 (あるいは他の欧米語で 「金床雲」 を意味する言葉) からの翻訳語なのではないかと考える方が、自然に思われる。ただ、これは私の直観に過ぎないので、客観的にそう言い切るための証拠が見つからない。

江戸時代以前の日本の文献に 「かなとこ雲」 という語が出てきたら、私の推量は崩れるので、ここ 2〜3日、暇を見ては 「金床 古典文学」 というキーワードでググり続けてきたが、検索されない。これは期待通りなのだが、 「見つからない」 ことが 「ない」 と結論づけるためのエビデンスにはならないので、ちょっとウジウジしていたわけだ。

ところが今日、「そうか、テキストではなく、日本の伝統的な金床の形を見ればいいではないか」 と気付き、画像検索して上の写真が見つかった。9日の記事で使った画像を下に再録したが、西洋の金床との形の違いは明白で、両者は別物と言っていい。「かなとこ雲」 の名称は、日本の四角い塊の金床からは発想しようがない。

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どう見ても、かなとこ雲というのは西洋の金床の形から付けられた名前である。ということはどうやら、「明治以後の翻訳語だろう」 という私の推量が正しかったと結論づけていいだろう。

重箱の隅案件、一応解決。ふう、肩の荷が下りた。

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2018/08/07

「サギ = 鷺」 のアクセントに関する 「まともな」 レポート

先日、栃木県の大田原市だったかでシラサギが増えすぎて困っているというレポートをテレビで見た時、アナウンサーのアクセントに少々違和感を覚えた。私は 「サギ」 (「詐欺」 ではなく、鳥の 「鷺」 ね。念のため) という名詞のアクセントは、頭高型 (「詐欺」 と同じく、「さ」 が高い) と思い込んでいたのだが、アナウンサーは平板型 (「先」 などと同じ) でナレーションしていたのだ。

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「へえ、鳥の 『サギ』 のアクセントって、平板なんだ!」 と驚いて、さっそくググって見ると、「鷺のアクセント」 というブログ記事が見つかって、こんな風に書かれている。(リンクは敢えて示さない)

NHKを見ていたら 「鷺」 が 「さ」 というアクセントになっていた。いや、平坦アクセントだったかな? 早速調べてみたら、「ぎ」 を強く (高く) 読むのが正しいそうだ。

申し訳ないが、はっきり言って、かなり 「イタい記事」 である。こんなのがググった結果のトップに表示されるのは、日本人として放っておけない。

この人、日本語のアクセント (イントネーションというべきという議論もあるが) ということがわかっていない。まず NHK のアナウンサーの 「鷺」 が、「ぎ」 の字をわざわざ大きく書くように聞こえたという点で、完全に耳がおかしいし、重ねて 「平坦アクセントだったかな? 」 というのだから混乱が深まっている (「平板型」 という用語を知らないようだし)。ダメ押しで、「調べてみた」 結果の解釈が滅茶苦茶だ。

この人が一体何で調べたのか知らないが、私も今日、ようやく図書館に行く時間ができたので、「NHK 日本語アクセント新辞典」 で調べが付いた。下に画像で示す。

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ご覧の通り、「さぎ ≪×鷺≫ のアクセントは、「サギ」 の右側に赤い平らな線が付いており、即ち 「平板型」 であることが示されている。上述のブログの筆者もこの辞典で調べたのだとしたら、「ギ」 の右上に線が付いているので、つい "「ぎ」 を強く (高く) 読む" なんて思い込んでしまったんだろうが、「ぎ」 を高くいうなら 「サ/ギ」 と表示されるはずで、これはすぐ下の 「さぎ 【詐欺】」 が 「サ\ギ」 になっているので分かりそうなものだ。

ちなみに、「き」 に 「ぱぴぷぺぽ」 に使われる小さな 「マル」 が付いているのは、鼻濁音で発音されることを表している。そして 「×鷺」 となっているのは、NHK としては原則的に漢字は使わずに 「サギ」 と表示するということだ。なるほど、結構厳密に決められているのだね。

というわけで、ネットの世界にはこれまで 「サギ = 鷺」 のアクセントについて読むに足る記事が存在しなかったようなので、ここで (多分) 最初の 「まともな」 レポートを掲げさせていただくことにする。

で、これで済ませてしまったら、おもしろくもなんともないので、言葉にこだわるビョーキの私としては、語源にまで遡ってみることにする。「鷺の語源」 について 「語源由来辞典」 で調べてみると、次のように諸説ある。(参照

羽が白いから 「サヤケキ (鮮明)」 とする説
鳴き声が騒がしいことから 「サワギ (騒)」 とする説
「サケ (綿毛)」 「サケ (白毛)」 と羽毛に由来する説
「キ」 は 「トキ」 「シギ」 などと同様、「鳥」 を意味する接尾語で、「白い鳥」 を意味する
水辺の鳥なので 「イサ (磯)」 に 「キ (鳥を意味する接尾語)」 がついた

なるほど。思い込みからすると平板型の 「サギ」 というアクセントにはかなり違和感を覚えてしまうが、語源まで遡ると、いずれの説を採るにしても平板型が自然であるような気もしてくる。ただ、「トキ」 が頭高型で、「シギ」 が平板型なのは、「ギ」 と鼻濁音になると平板になるのかなあ。

まあ、ここまでくると疲れたので、そのあたりのことは今日は目をつむっておこう。

ちなみに、アクセント辞典で調べてしばらくしてから、「シラサギ」 とか 「アオサギ」 とかいう場合には、自然に平板型で言っていることに気付いた。「詐欺」 の場合は 「寸借詐欺」 とか 「結婚詐欺」 とかいう場合にも、元の形通りに 「さ」 にアクセントを置いているから、やはり元々のアクセントが違うのだろう。

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