わからないことはわからない
わかっている人がわからない人にモノゴトを教えるのは、実は大変なことである。わからない人の気持ちがわからないからだ。
わからない人が、一体何をわからなくて、わからながっているのかを、わかっている人はわかってあげなければならない。
コンピュータ・ソフトにデフォルトで付いてくるマニュアルは、とてもわかりにくい。それは、わかっている人が作っているからである。あまりにもわかりにくいので、ユーザーはオフィシャルなマニュアルではなく、市販のマニュアル本を購入せざるを得ない。
昔、米国から来たピーターという留学生と友達になった。彼は日本に着いてからしばらく、一般家庭にホームステイした。最初の日、彼はその家に招き上げられる時、米国で購入したマニュアル本 "Japanese Life Style"(日本式生活) にあった「日本で家に入る時は、靴を脱がなければならない」という記述をしっかりと思い出した。なんだか変な気持ちだったが、それが風習というのだからしかたがない。
夕食を終えて「お客さんは一番風呂に入るもの」という風習を押し付けられ、彼は生まれて始めて日本式の風呂というものに入った。
彼はマニュアル本にあった「日本の風呂の入り方」の項目を必死に思い出した。それには「バスタブの中で石鹸を使ってはならない」と書いてあった。湯船から出て石鹸で体を洗いながら「ボクは、かなりうまくやっている」と、彼は自分に言った。「初日にしては、完璧にこなしてるじゃないか、ピーター」
そして最後に、彼は満足して湯船の栓を抜いた。マニュアルには、何のためにバスタブの外で体を洗うのかが説明されていなかったし、ましてや 「風呂から出る時に、栓を抜いてはならない」 という記述はなかったのである。
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