「がんす」 と 「のぅ」
映画 「たそがれ清兵衛」 をご覧になった方はお気付きのはずだが、庄内弁では、なんでも語尾に 「~がんす」 さえ付ければ丁寧な言い方になる。
江戸山の手の 「ざます」、鹿児島の 「ごわす」 同様、「ござります」 の変化である。
「ござります」 が 「ございます」 に音便化し、頭の 「ご」 が弱まり、消えると 「ざぁます」 「ざます」 になる。さらに 「ござんす」 から変化したのが、相撲取りの 「ごんす」 だ (今どきの力士が 「ごんす」 なんて言うのは聞いたことがないが) 。
また、「ござる」 が 「おじゃる」 に変化するという流れもある。鹿児島弁の 「ごわす」 は 「おわす」 の流れも混じっているような気がする。
「がんす」 は、「ござんす」 の流れを脈々と引いている。
庄内弁では、「そうだ」 は 「んだ」 と素っ気ないが、「そうです」 は 「んでがんす」 と、ややニュアンスが加わる。
その否定形は、ちょっと高等技術になる。「そうじゃない」 は単純に 「んでね」 。 「そうじゃないんです」 は、「んでねなでがんす」 とも言うが、そう言ってしまうとややニュアンスがきつくなる。上品に言おうとすると、「んでがんすねのぅ」 になる。「んだ」 の否定形 「んでね」 を直接的に言ってしまうより、「がんす」 の方に否定の 「ね」 を付けて婉曲化するのである。「の」 は関東弁の 「ね」 に相当するが、「のぅ」 と言うと、ややおっとりした感じになる。庄内弁では、「の」 と 「のぅ」 はどこにでも付く。
複雑化するのはこれ以降である。「がんす」 という助動詞を否定してしまうので、「そうじゃないんですか?」 と言うためには、もう一度 「がんす」 を重ねて、「んでがんすねなでがんすが?」 になる。「そうじゃないんではないですか?」 は 「んでがんすねなでがんすねが?」、それをおっとり言うと 「んでがんすねなでがんすねがのぅ?」 …… もう、言っている方もだんだん自分で何を言っているかわからなくなる。
とにかく、「がんす」 と 「のぅ」 は、庄内弁の肝 (キモ) である。それさえ把握すれば、初めて庄内に行って、土地の者が何を言ってるのかさっぱりわからなくても、それほどの疎外感を感じもせずに、ゆったりと漂うような時を過ごすことができる。
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