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2003年8月 5日

「自由形」と「クロール」

水泳の大会を見ると、「自由形」という種目は「自由」とは名ばかりで、100%「クロール」である。

一番速いタイムを出せる泳法を探求した結果、クロールという泳法に辿りついて、皆がそれを選択しているということだろう。

しかし、昔は違った。「自由形」という種目は、文字通り「自由形」 だったのである。

それは、我が家にテレビというものが導入されて間もなくの頃だったから、東京オリンピックの1~2年前の夏休みだったろうか。たまたま、山形県の水泳大会(多分、高校の大会だったろう)がテレビで実況されるのを見た。画面はもちろん白黒である。

おりしも、種目は女子 100メートル自由形。私はそれまで、「自由形」というのは「クロール」の別称だと思っていた。どんな水泳競技会でも、「自由形」でクロール以外の泳ぎをする選手を見たことがない。

号砲一発、きれいにそろったスタート。しかし、浮き上がって泳ぎ始めると、どこかおかしい。よく見ると、両端のコースの 2選手だけが、明らかに「異様な動き」をしているのである。

一人は「横泳ぎ」。田舎では「ノシ」といった。水泳大会に出て「ノシ」で泳ぐ選手を、私は生まれて初めて見た。

もう一人は、明らかに「背泳ぎ」である。そういえば、この選手だけ飛び込み台からではなく、水中でスタートしたような気がする。ならばどうして「背泳」の種目に出ないのかと思っていたら、50メートルのターンをしたところで「平泳ぎ」になってしまった。どうも「背泳ぎ」では50メートルが限界で、後半は「平泳ぎ」に転換しないと、100メートルもたないらしい。とんでもない水泳選手だ。

アナウンサーが「自由形というのは、本来、このように自由な形で泳いでいいんです」と、真っ当だがかなり苦しい説明を入れる。そうかと思うと解説者は、「そうですね。いろいろな泳ぎ方で記録を伸ばしてくれる選手が、もっともっと出てくるといいですね」などと、無責任なことを言う。そんなことを言っている間に、両端の 2選手は見る見る大差をつけられる。全然フォローにならない。

変わり者好きの私は密かに「横泳ぎ」の選手を応援してみたが、結局「背泳/平泳ぎ」のスイッチ泳法にも及ばず、どん尻に終わった。

なるほど、皆がクロールを選択するのは無理もないと、幼い私は心の底から納得したのだった。

 

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