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2003年10月16日

3億円の砥石

カーラジオで 永六輔さんの 「誰かとどこかで」 を聞いていたら、世の中には 「3億円もする砥石」 があると言っていた。

日本刀など、高価な美術工芸品を研ぐためのもののようだが、工芸品よりも、それを研ぐ道具の方が高いとは。

永さんがある工芸品関係の集まりで、30万円もする砥石を見つけて驚いていたところ、「そんなのは、安い方だ」 と言われてなお驚いたという。そしてさらに聞いてみると、300万円はおろか、3000万円、3億円の砥石というものが、京都のどこかにはあるというのである。

そんな高価な砥石では、たかだか ン百万円程度の刃物は、もったいなくて研げないだろう (なにしろ、1000円の包丁を研いでも、砥石は砥石だから、減るわけだし)。ホームセンターで、たかだか500円程度で買った我が家の砥石と、どこがどう違うのか知らないが、やはり見る人が見ればわかるのだろう。

ところで、人生には何一つとして無駄な経験というものはないのだという。人生の苦難とは、自分を磨いてくれる砥石のようなものだという。

ならば、なるべく 「いい砥石」 となる体験に巡り会いたいものだ。その価値基準は、決して値段とは思わない。心の奥できちんと満足して死ねるかどうかの問題のような気がする。そして、「いい砥石」 で研いでもらえる人間になりたいなどと、我ながら殊勝なことを思ったのであった。

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