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2004年5月16日

「博士の愛した数式」

今、ニューヨークに向かう機内でこのコラムを書いている。ロッキー山脈を越えたあたりだ。日本時間では日付が変わっているはずだが、米国はまだ15日の昼を過ぎたばかりである。

機内では「博士の愛した数式」を一気に読み終えた。

これは最近当サイトの BBS に初めて書き込みをしてくれたニャージュさんのお薦めの小説だ。日本を発つ前日に、書店で買い求め、帰宅の電車の中で 10ページほど読んだら、つい引き込まれそうになり、それでは機内で読む楽しみがなくなるので、無理やり中断していたものである。

離陸してから読み始めたのだが、あっという間に読み終えてしまった。とても気持ちのいい小説だった。全国の書店が今一番売りたい本として選んだという理由が、わかったような気がした。

内容は、これから読む人の楽しみを奪わないために詳しくは書かないが、交通事故の後遺症で記憶が 80分しかもたなくなった数学博士の世話をすることになった主人公の「わたし」と、その一人息子、そして時々しか登場しないがかなり重要な役割を占めている博士の義姉の 4人の世界が描かれている。

博士は、世界を矛盾なく整った数式で表現することにとても大きな意味を見出している。世界を数式で表現するなどというと、とても冷徹なことのように思われるかもしれないが、実際はそれとは正反対で、直感的に捉えられた世界の秩序を、論理的でシンプルな数式で表現することは、喜びあふれる行為なのである。

この小説を読んでいて、「直感で捉えたことを論理で表現すること」ということの謙虚な率直さに惹かれた。徒な感情の昂ぶりを抑制し、ただ世界が神の創造であることを認め、その創造の素晴らしさを追認していくことの謙虚さである。その謙虚さゆえに、美しく追認できた時の喜びは、とても純粋だ。

何ゆえにそれが純粋な喜びであるかといえば、そこに「私利私欲」というものの入り込む余地がないからである。そうした欲望を忘れるほどに、数式で表される世界は美しいのであった。

(今、ニューヨーク時間で午後 8時45分。16日付のアップロードには早すぎるかも知れないが、日本ではとっくに16日だし、時差ぼけ解消のために早く寝たいので、早だし? させていただく)

 

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