(社)日本エレベータ協会が、エスカレーターを歩いたり走ったりして昇るのは危険とアナウンスしている。それに関連した事故が、毎年何件もあるそうだ。
しかし、そんなことを言い出したら、こけて落っこちる程度のことは、動かない普通の階段だって付き物ではなかろうか。
「日本エレベータ協会」 というところがエスカレーターまで扱っていたというのも初耳だったが、この協会のホームページでは、
「エスカレーターに乗るとき、いそいでいる人のために、どちらかあける」って聞いた事あるけど…」
「そうね、でもそれは間違いよ!」
「えっ…」
「いそいでいる人とお年寄りがぶつかってケガをする事もあるそうよ」
と、対話形式で、エスカレーターで歩いたり走ったりしないように呼びかけている。
しかし、ぶつかって怪我をするのは、基本的にステップの真ん中に乗るから、追い越そうとする人がぶつかりやすいのである。ちゃんと片側に立てば、そんなにぶつかるものではない。それに、ぶつかるのはエスカレーターに限らず、普通の階段でだってあり得ることだ。
普通の階段で止まっているわけにはいかないが、エスカレーターだと、「止まっておれ」 ということになる。それは、「動く歩道」でも同じだそうだ。私は正直なところ、「動く歩道」の両側に止まって立たれると、エスカレーター以上にムカついてしまうのだが。
「歩いたり走ったりしない」ように呼びかけるよりは、「急いでいる人のために、きちんと片側を開ける」ことを呼びかける方が、危険防止効果はずっと高いと、私は確信する。いくら「歩くな、走るな」と言っても、急ぐ人は急ぐのだから。
同協会によると、エスカレーターを分速 30メートルで運行した場合、2列に並んで詰めて乗れば、1時間に 9000人を運ぶことができ、片側を空けて乗るより、多くの人を運ぶことができるとしている。
しかし、この比較はおかしい。3通りのケースののうち、2つしか比較していない。残るひとつは、もちろん、開いた片側を歩いて昇るというものである。(両側とも歩いて昇るというケースを加えれば、4通りになるが、それは無視しておこう)
もっと言えば、同協会のこの比較はナンセンスでさえある。片側が開いていれば、9000人の半分の 4500人しか運べないのは当然だが、実際問題として、片側だけが延々と開いているなんてはずがないではないか。ありえないケースを机上で比較してもしょうがない。
片方を空ければ、その開いた方を歩いて昇る人が必ず出るはずで、その歩く人の出現頻度によって、比較の結果は変わってくる。 歩いて昇る人が絶え間なくぞろぞろと続けば、それが最も効率的な運び方になる。それは、ラッシュアワーの駅でよく見られる光景なのだが、同協会は完全に無視しているわけだ。
というわけで、協会の「歩くな、走るな」の呼びかけは、綿棒を「耳の奥まで入れるな」という PL表示みたいな意味合いなのだろうと、私は解釈している。耳の奥まで入れないで、どうして耳カスを取れというのだ。
どうしてもエスカレーターを歩いてもらいたくなければ、その横に駆け上がることも可能な階段を必ずつけてもらいたい。しかし、現実には JR の駅では、間口の片側が昇り、片側が降りのエスカレーターのみで、普通に歩いて昇り降りする階段がないというケースがかなり見られる。
私がいつも利用する常磐線取手駅がそうで、夕方に下りの電車が着いたら、エスカレーターの下は黒山の人だかりで押し合いへし合いになる。下りエスカレーターはガラガラなのに、階段の間口の半分しか実効しないのだから、イライラは募る。本当に危ないのは、この「イライラ心理」である。
取手駅では、混雑を避けて階段を利用しようと思うと、ブリッジの反対側の上り口にはるばると足を伸ばさなければならない。こうした設計をみると、JR さんは、まだ役人気質が抜け切っていないのだなぁと思う。
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