「不味い」 という言葉
最近、「知の海」の中に "「庄内力」 養成委員会" というサブサイトを作った。私の出身地、山形県庄内地方のアイデンティティを考えることを趣旨としている。
ところで、庄内には食べ物に関する「不味い (まずい)」という言葉が存在しない。「美味い(うまい)」は「んめ」だが、その反対語がないのだ。
「うまい」には、「上手(じょうず)」という意味もあるが、その反対語は、庄内でもちゃんと「下手(へだ)」という。しかし、「美味い」の反対語の「不味い」に相当する単語は、庄内弁にはない。
では「おいしくない」ことをどう表現するのかというと、「んめぐね」または「んまぐね」というのである。「美味くない」の訛りである。これは、単に「おいしくはない」ということで、明確に「不味い」と言い切っていない。これはすごいことだと気付いた。
「不味い」と言ったら、食物を否定してしまうことに通じる。不遜である。それを避けるために、庄内人は料理がおいしくなくても、「不味い」の一言で切り捨てずに、「んめぐね」と遠回しに言うのである。
これは、非常に謙虚な態度である。基本的に、食物をリスペクトしているのだ。こうした文化で育ったので、私は 18歳で上京してからも、料理に関して「不味い」と言い切ることにとても抵抗がある。
これは以前書いた「食べ物の好き嫌い」にも通じることだろう。食物は好きだの嫌いだの言わずに食べるのが、望ましい態度である。そのためには、「不味い」などとは言わない方がいい。
庄内人は食物を否定するなんて、考えたこともないから、その単語も存在しないのである。高い文化性である。
ここまで考えて、「まてよ」と思った。もしかしたら、昔は生活が貧しかったから、単に、美味いだの不味いだの言う余裕がなかっただけのことではなかったろうか。
それもあり得る。しかし、こうも思った。要するに、庄内には「不味い食材」というものが存在しないので、食物は不味くなりようがないのだ。案外これが正解かもしれない。
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