ビューグルボーイ
引き出しの奥から大きなバンダナが出てきた。 "BUGLE BOY U.S.A. INC," のロゴマークが染め抜いてある。
米国のジーンズ・メーカーである「ビューグルボーイ」が、かつてのバブル前に日本進出を狙った時、記者会見で配った記念品だ。これで思い出したことがある。
「インポート・ジーンズ」がブームになっていた時期ということもあり、その記者会見は、米国ビューグルボーイ本社の社長まで列席して、かなり力の入ったものだった。当時業界紙の記者をしていた私は、その記者会見に出席していた。
会場には、その頃まだ珍しかった大型プロジェクターが設置され、米国で放映されている同社のテレビCM がエンドレスで流れていた。それはこんな CM だった。
見渡す限りの荒涼たる西部の砂漠を走るハイウェイの道端で、車が通るのを待つヒッチハイクのイケメン青年。
そこに、1台の見るからに高級そうなスポーツカーが通りかかり、ちょっと行き過ぎてから、乱暴に急ブレーキをかけるとバックで戻ってくる。パワーウィンドウがスルスルと開くと、運転席にいるのは、絶世のモデル顔の美女である。
女はセクシーな声で訊ねる。
"Are those Bugle boy Jeans you are wearing?" (あなたがはいてるそれ、ビューグルボーイ・ジーンズ?)
「ラッキー!」 とばかりに、青年は嬉しそうに答える。
"Yes, they are Bugle boy jeans." (その通りですよ)
女が 「やっぱりね」 と納得した顔をして、"Thank you." と言うと、パワーウィンドウがスルスルと上がり、スポーツカーはそのまま悠然と走り去る。呆気にとられたようにそれを見送る青年。
なかなか洒落て印象的な CM だった。米国でもかなり話題になったらしい。
記者会見は進み、最後に質疑応答の時間になった。米国流の記者会見では、最後に気の利いたジョーク気味の質問をして、それに気の利いた回答をするのが習わしである。私は、ビューグルボーイの社長に対する最後の質問を用意していた。
"Are those Bugle boy trousers you are wearing?" (あなたがはいてるそれ、ビューグルボーイのズボンですか?)
こう聞こうとして、手ぐすね引いて待っていたのだが、司会者が 「それでは時間ですので、このへんで記者会見を終わらせて頂きます」と、唐突に終了させてしまったのである。
おかげで、私の用意した質問は発せられずに終わり、なんだか尻切れトンボになってしまった。今でも心残りである。
ちなみに、その記者会見で同社の社長が身に付けていたのは、ラルフ・ローレンか何かの、いかにも高級そうなスーツだった。多分、日本のビジネス・シーンではスーツを着用しないとイメージが落ちると入れ知恵をする者がいたのだろう。
今なら、カジュアルウェア・メーカーの人間が高級スーツで記者会見に現れるなんてことは、コーポレート・アイデンティティの観点からして、あまり考えられないが、当時はまだそんな時代だったのである。
【平成 18年 11月 21日 追記】
ベーグルボーイ・コンドームの CM というパロディが見つかった。一見に値する。
【平成 18年 11月 21日 追記】
ビューグルボーイ・ジーンズの CM がやっと見つかった。ぜひご覧いただきたい。
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