ウッドストック
「ウッドストック」 をご存じだろうか。今や伝説となった 1969年のロックフェスティバルである。
この 3日間を記録した映画 (1970年公開)が地元の映画館で公開される日を、当時高校生だった私たちは、一日千秋の思いで待っていたのだが、その公開初日は、不運にも期末試験の前日に重なってしまった。
1970年。ロック、ヒッピー、フラワーチルドレン・・・、当時花開いていたアメリカのサブカルチャーにあこがれていた私たちは、学校でロック音楽関係の雑誌をめくりながら、大画面で触れるジミ・ヘンドリックスやクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングを、今か今かと待っていた。その映画の中で、「現代」 を共有したかった。
しかし、なんということか。待ちに待った映画「ウッドストック」の地元での公開は、高校の期末試験の前日からという、最悪のスケジュールになってしまったのである。
そして、この時から 10年近く経ったある日、私の高校の 2年後輩、A という男が、ある種、誇らしげな顔で吹聴した。
「俺なんか、あのウッドストックを、公開初日に見に行ったもんね。憶えてる? あの日は期末試験前日だったのよね。『他の連中は、試験勉強なんかしてるんだろうな、ヘヘン』なんて嘲笑いながら、俺はロックに操を立てたわけよ。tak さんだって、あの日は試験勉強してたでしょ」
「冗談じゃない!」 私は応えた。「なんだよ、お前もあの時、あの映画館にいたのか!」
「俺はあの日、町中の高校生が試験勉強なんてほっぽり出して、映画館に殺到すると思ってた。だから 1週間前から、密かに高い指定席券まで手配して、あの日を待ちわびてたんだよ」
他には誰も来ないだろうと、ニヒルな笑いを浮かべて映画館に向かった後輩と、大入り満員を信じて疑わなかった私とでは、どちらが純粋な(あるいは愚直な)ロック・ファンだったか。言うまでもないだろう。
「ところがあの日の映画館は、お前も知ってる通り、ガラガラだったよな。あれだけ楽しみにしてたのに、他の連中が皆、試験勉強の方を選んだことに、俺は愕然としたね」
初めは裏切られたような空虚さを感じた私だったが、映画が始まるとすぐに、画面の中に吸い込まれ、たった一人の指定席で熱狂していた。指定席券への投資(プラス 300円ぐらいだったかな?)が無駄に終わったことなんて、完全に忘れていた。
あのウッドストックを観るために、期末試験前日に指定席券を買ってまで映画館に行った自分自身を、私は一生誇りに思うだろう。
この生涯の誇りと、10点や 20点の点数の、どちらに価値があるかといえば、それはまったく比べものにならないではないか。
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