戦艦大和に「オチ」 はつかない
先日の日曜日の TBS ラジオで、「世界三大無用の長物」とは何かというのを放送していた。
その答えは何通りかあり、いずれも 「万里の長城、ピラミッド、戦艦大和、新幹線、青函トンネル」 の 5つの中から 3つを組み合わせたもののようだった。
「凱旋門」を加えるとする説もあるが、それはややマイナーである。いずれにしても、どれもが「大きいばかりで全然役に立たないもの」というコンセプトで選ばれたものらしい。
発端は「制空権を得たものが戦争に勝利する」という時代になっても、戦艦大和という無用の長物を、巨費を投じて建造してしまった日本海軍を自嘲して、「万里の長城、ピラミッド、戦艦大和は、世界の三大バカ」と言ったものと推測される。
そこにどうして新幹線が加わるのか。「新幹線はどうみても役に立っているではないか」ということになるが、昭和 30年代に新幹線計画が発表された当時は「これからは自動車の時代になるのに、そんなものを作って何になるのか」と、反対論が多かったらしいのである。
それで、莫大な予算がかかる新幹線は「世界の三バカ、ピラミッド、万里の長城、戦艦大和に次ぐ大バカ」とまで言われていた。しかし東海道新幹線に関する限り、この見方が明らかに間違っていたことは、歴史が証明している。このまま際限なくあちこちで造り続けていったら、さすがにどうなるかわからないが。
青函トンネルという説もある。巨費を投じたという点では、他の 5つにひけを取らない。鉄道建設公団のある幹部は、青函トンネルの意義を聞かれ、「男のロマンです」と答えて失笑を買った。「万里の長城、戦艦大和、青函トンネルは世界の三大バカ査定である」と放言した大蔵省の主計官は、後に過剰接待で失脚するというオチまでついた。
青函トンネルに関しては、首都圏からの移動は航空機主力になったものの、北海道の物流に多大なる貢献をしているという見方もあるので、それほどばかげたものかどうかは、議論の余地があるだろう。
さらに、歴史的にずっと先行する「ピラミッド、万里の長城、凱旋門」は、今や立派な観光資源となっているので、それほど馬鹿にしたものではない。
すると、残るは戦艦大和ただ一つになる。確かにこれはあまり言い訳ができない無駄遣いだったようだ。吉田満著『戦艦大和の最期』によると、アメリカ軍撃滅の命令を受け、沖縄に向けて出撃した戦艦大和の、他ならぬ 3000人を超える乗組員自身が、それが勝算のない自滅行為であることを、十分に認識していたもののようだ。
何しろこの出撃は、戦艦大和を沖縄近海に座礁させて砲台として使おうとしたとか、単に巨大戦艦に死に場所を与えるためのものだったとかいう話まである。「万里の長城、ピラミッド、戦艦大和は、世界の三大バカ」というのは、この戦艦大和の最期の出撃の艦内で自嘲的に叫ばれてもいたらしい。
確実に迫り来る自分たちの死に、それなりの意義が欲しいと願う青年たちの激論は、艦内で殴り合いの喧嘩にまで発展し、それを収拾したのは、哨戒長臼淵大尉の次のような言葉だったという。
「進歩のない者は決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道だ。日本は進歩ということを軽んじ過ぎた。私的な潔癖や徳義にこだわって、真の進歩を忘れていた。敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか。俺達はその先駆けとなるのだ」
あまりにも悲しすぎる意義である。こんな落としどころのない馬鹿話が他にあるだろうか。我々はとてつもない宿題を、まだ解決していない。
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