恵方巻の社会学
近頃「恵方巻」という風習が、全国制覇をほぼ成し遂げたらしい。節分に家族揃って虚空を見つめ、無言で太巻きにかぶりつくというのは、考えるだに異様な光景である。
我が家では全員堪えきれずに吹き出して、床が飯粒だらけになりそうだ。そんなになったら掃除が大変だから、多分やらない。
この風習は、どうもコンビニ業界と海苔業界が結託して普及させている気がしないでもないが、考えてみると、時代にはうまくマッチしているかもしれない。世の中では豆まきに取って代わって、節分の恒例になる可能性がある。
今どき、どこの家庭も少子高齢化で、豆まきを喜ぶ子どもがいない。いい年をした大人が、日が暮れてから声を張り上げて 「鬼は外、福は内」 なんてやるのは、ちょっとこっ恥ずかしい。それに、最近の感覚では床に落ちた豆を拾って食べるなんて、ばっちい気もする。冬に流行るというノロウィルスなんてのもあるじゃないか。
そんなわけで、当世まともに節分の豆まきなんてやっているのは、幼稚園と神社仏閣しかない。多分、この傾向はずっと続くだろう。
しかしながら、節分に何もやらないというのも、日本人として何となく淋しい気がする。それで華々しく登場したのが、恵方巻である。これなら、声を張り上げることもない。何しろ、無言なのだから、隣近所に気兼ねがいらない。現代社会におあつらえ向きだ。
床に落ちたのを拾って食うわけでもない。コンビニで買ってきたビニール・パックの太巻きを食うのだから、清潔でお手軽だ。さっさと済ませて、またテレビ画面に向かうことができる。
というわけで、コンビニ業界はうまいところに目を付けたものだと思うのである。バレンタインのチョコレートとまでいくかどうかは知らないが、年を追うごとにますます売り上げは伸びるだろう。我が家ではやらないけど。
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