商品としての 「南セントレア市」
愛知県美浜町と南知多町が合併して、「南セントレア市」になりかけたという騒動は、両町民には気の毒な限りであった。
正直に言えば、部外者の無責任さで、ちょっとだけ楽しませてももらったが、改めて、「こっ恥ずかしくない」新市名が制定されることを、陰ながら祈るばかりである。
両町民にしてみたら、妙な酔狂で新市名を決められるのは、大迷惑だろう。譬えて言えば、フツーの主婦が突然ダンナに呼び出され、「キクエ、52年間、慣れ親しんだ名前を捨てて、来年から『エリザベス』になってくれんか?」と言われたようなものである。こんなもん、「ハイ、お受けします」なんて言うか?
協議会メンバー諸氏も、場の空気が読めないにもホドがある。聞けば、公募段階では「セントレア」の「セ」の字もなかったのに、会議でいきなり「セントレア市」「南セントレア市」「遷都麗空(セントレア)市」 の 3つが候補として登場したらしい。3つ目なんか、すごい。「夜露死苦」のノリである。そうでなければ、書き取り試験だ。
協議会では「全会一致」で「南セントレア市」に決まったのだそうだ。この辺からして怪しい。はっきり言うが、裏工作のない全会一致なんて、この世に存在しないのである。
どう考えても、素人の発想ではない。「ギョーカイ」関係者が裏で一枚噛んでいたとしか思われない。そりゃあ、日本で唯一景気のいい愛知県のことだもの。いろんな広告会社、マーケティング会社、コンサルタントなんかが群がったと想像するに難くない。
「南知多市ィ? あぁ、ぜぇんぜんダメ、ベタすぎ!」
「将来的な観光事業のためにも、もっと、こう、インパクトを感じるやつで、どーんと行きましょう!」
「名前だけで、全国的に有名になっちゃえますよ!」
「時代ですよ、時代!」
多分、こんな感じだったのではなかろうかと思うのである。
今回の騒動で思い出したことがある。10数年前、国鉄が JR になったことに伴い、「国電」 の新名称をどうするかで、そうそうたるメンバーが真面目に検討した結果が「E電」だったというお粗末である。
新幹線で東京駅に着いて、場内アナウンスで 「E電へのお乗り換えは・・・」 と言うのを聞く度に、背中にむず痒い思いがしていたのは、ついこないだまでの話である。「E電」であんなにむず痒かったのだから、「南セントレア」ではもだえてしまうだろう。
こういう問題では、玄人筋が「おっ、それいいじゃん! それで行きましょうよ!」というようなアイデアは、スベる場合が多いのである。彼らは、バラエティ番組や雑誌のタイトルと、日常の名称を、つい同じノリで捉えてしまう。
なるほど、確かに新市名を「商品名」として考えれば、インパクトのあるものがいいのかもしれない。しかし、地名は 100%商品名としては考えられない。その中で、血の通ったフツーの人間が暮らすのだ。
上滑り気味の名前のおかげで、市民に妙な自虐癖がついて、若い男が総「ヒロシ」化してしまったら、どうするのだ。
それに、「日本中に名を売る」 という目的は、既に十分に果たしてしまったし。
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