寝台列車のパラドックス
元祖ブルートレインの「あさかぜ」(東京・下関間)と「さくら」(東京・長崎間) が、2月末で廃止になったのだそうだ。
それで 2月中は、カメラを持った鉄道マニアが大勢押しかけたらしい。価値がなくなったからといって廃止しようとすると、その時になって、突然価値が上がったりする。
今の若い人は、寝台列車というものに乗ったことなどほとんどないだろうが、昔はそれなりに意味があった。飛行機は高かったし、前日のうちに現地入りしようとすると、その前日がほとんど潰れてしまう。だから、寝台列車で、移動と宿泊を同時に済ませようという発想が、合理的に思われていたのである。
しかし、この発想は 2つの意味で有効なものではなくなってしまった。
まず、移動と宿泊を同時に済ませようという安上がり発想をする者は、ほとんど高速バスに流れてしまった。その方がずっと安いからだ。
さらに、下関や九州まで寝台列車で行こうとすると、現地に着くのが遅すぎる。「あさかぜ」では東京 19:00発 →下関 09:55着。ほとんど 10時だ。「さくら」になるともっとひどくて、東京発 18:03→長崎 13:05着 である。長崎入りの日の午前は、列車の中でうだうだしているしかない。
料金的にも時間的にも、中途半端すぎる。バスと飛行機に客を取られるのも当然である。
バスではゆっくり寝られないのではないかという声もあるが、はっきり言って、寝台特急だってそれほど安眠できるものではない。私は割とどこでも寝られる方だが、寝台車ではいつも、うつらうつらしているうちに夜が明けてしまうという感じだった。
せっかく高い料金を払って寝台車にしたのだから、寝なきゃ損だというプレッシャーと、旅の非日常的気分のせめぎあいで、案外リラックスできないのである。いっそ高速バスの方が、旅行というより単なる移動と割り切って、余計なプレッシャーがなく眠れる。
これでは、他のブルートレインも徐々に廃止されるだろう。しかし、すべて廃止すればいいかというと、そういうものでもない。
世の中には希少価値という価値がある。観光シーズンに特別寝台列車を仕立てて運行すれば、それなりに需要はあるだろう。「寝台列車に乗る」 ということ自体を目的とした旅行だってあり得るからだ。それにしても、年寄りには思いの外、ハードな旅になるだろうが。
JR は「カシオペア」(上野~札幌)とか「トワイライト エクスプレス」(大阪~札幌) などの豪華寝台特急を走らせているようだが、採算が取れているのだろうか。取れないのなら、季節限定のプレミアムツアーにすればいいだろう。
昔は「合理的」だった寝台列車の旅が、今は「無駄を楽しむ」旅になっているのかもしれない。
| 固定リンク
「旅行・地域」カテゴリの記事
- パリの人たちって、ウンコ強いよね(2024.08.05)
- 「がっこ」が美味しそうでたまらない(2024.07.23)
- 京都の「オーバーツーリズム問題」を考えてみる(2024.06.09)
- 新潟に移動して、庄内のポスターを見る(2024.06.06)
- 東京とマニラの違法建築、スケールが違いすぎる!(2024.06.05)
コメント