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2005年3月 1日

寝台列車のパラドックス

元祖ブルートレインの「あさかぜ」(東京・下関間)と「さくら」(東京・長崎間) が、2月末で廃止になったのだそうだ。

それで 2月中は、カメラを持った鉄道マニアが大勢押しかけたらしい。価値がなくなったからといって廃止しようとすると、その時になって、突然価値が上がったりする。

今の若い人は、寝台列車というものに乗ったことなどほとんどないだろうが、昔はそれなりに意味があった。飛行機は高かったし、前日のうちに現地入りしようとすると、その前日がほとんど潰れてしまう。だから、寝台列車で、移動と宿泊を同時に済ませようという発想が、合理的に思われていたのである。

しかし、この発想は 2つの意味で有効なものではなくなってしまった。

まず、移動と宿泊を同時に済ませようという安上がり発想をする者は、ほとんど高速バスに流れてしまった。その方がずっと安いからだ。

さらに、下関や九州まで寝台列車で行こうとすると、現地に着くのが遅すぎる。「あさかぜ」では東京 19:00発 →下関 09:55着。ほとんど 10時だ。「さくら」になるともっとひどくて、東京発 18:03→長崎 13:05着 である。長崎入りの日の午前は、列車の中でうだうだしているしかない。

料金的にも時間的にも、中途半端すぎる。バスと飛行機に客を取られるのも当然である。

バスではゆっくり寝られないのではないかという声もあるが、はっきり言って、寝台特急だってそれほど安眠できるものではない。私は割とどこでも寝られる方だが、寝台車ではいつも、うつらうつらしているうちに夜が明けてしまうという感じだった。

せっかく高い料金を払って寝台車にしたのだから、寝なきゃ損だというプレッシャーと、旅の非日常的気分のせめぎあいで、案外リラックスできないのである。いっそ高速バスの方が、旅行というより単なる移動と割り切って、余計なプレッシャーがなく眠れる。

これでは、他のブルートレインも徐々に廃止されるだろう。しかし、すべて廃止すればいいかというと、そういうものでもない。

世の中には希少価値という価値がある。観光シーズンに特別寝台列車を仕立てて運行すれば、それなりに需要はあるだろう。「寝台列車に乗る」 ということ自体を目的とした旅行だってあり得るからだ。それにしても、年寄りには思いの外、ハードな旅になるだろうが。

JR は「カシオペア」(上野~札幌)とか「トワイライト エクスプレス」(大阪~札幌) などの豪華寝台特急を走らせているようだが、採算が取れているのだろうか。取れないのなら、季節限定のプレミアムツアーにすればいいだろう。

昔は「合理的」だった寝台列車の旅が、今は「無駄を楽しむ」旅になっているのかもしれない。

tak-shonai の本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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