暦のお話
Rtmr さんが先月に論じられた暦の話(参照)の関連で、私はこの年になって初めて知ったことがあった。
それは、現在の太陽暦のもとになったローマ歴では、1年の始まりが 1月ではなく 3月だったということだ。これを知るまで、私はとんでもない誤解をしていた。
英語では 7月を July、 8月を Augusut というが、これは、ジュリアス・シーザーと初代ローマ皇帝アウグストゥスが、自分の名前を月の名前 (Julius、July / Augustus、August) にしたことによるというのは、よく知られた話である。
私はこれを、シーザーとアウグストゥスが、ごり押しして自分の名前の月を、現在の 6月と 9月の間に押し込んだ(挿入した)ために、9月以後が 2つずつ後ろにずれてしまって、本来の名前の意味と乖離してしまったのだと思っていた。
例えば、9月は September というが、本来これは、「7番目の月」 という意味である。 そして、10月は October。"Oct" というのは、「8」 という意味で、8本足のタコのことを、英語では Octopus (オクトパス) という。
同様に、November は 「9番目の月」、December は 「10番目の月」 である。
このように、8月の October から 12月の December まで、本来の意味とは 2か月ずつずれてしまったのは、シーザーとアウグストゥスのわがままのせいだとばかり思っていたのだ。
しかし本当は違っていた。ローマ歴では、最初の月が現在の 3月とされていたのだと、この年になって初めて知ったのである。シーザーとアウグストゥスは、単に 5番目と 6番目の月の名前を自分の名に変えただけで、新たに 2か月分押し込んだわけではなかったのだ。
つまり、その時点では September はちゃんと本来の語義通りに 「7番目の月」 で、December は 「10番目の月」 だったのである。なるほど。
しかし、今の 3月が 1年の始まりだったとしたら、1月と 2月は一体どうなっていたのか。
以下、Rtmr さんが 、永田久 『暦と占いの科学』 (新潮選書、1982) という本で調べてくれたことに全面的に依拠して書かせていただく。
紀元前 8世紀半ばまで使われていた「ロムルス暦」という暦は、1年が 304日の 10ヶ月しかない太陰暦だった。現在の 3月が年初で、農作業のできない寒季の 60日は、暦そのものがなかったというのである。
ずいぶんいい加減な話なのであった。いわば「存在しない 60日間」が放置されていたのである。
いくらなんでもこれではまずいということになって、紀元前 8 世紀の終わりに採用された「ヌマ暦」に至って、初めて 11月(Januarius)、12月( Febrarius)の 2か月が年末に追加され、1年が 355日になった。
紀元前 153年に、ヌマ歴の改革が行われ、それまで 11月だった Januarius が年初の月と定められたが、3月(Martius) は依然として「旧正月」として存続していた。紀元前 46年に、シーザーが Januarius を年初の月として正式に定め、これ以後、名実共に現在の 1月 1日から新しい年が始まることになった。
我々日本人は、月の名前を仰々しく呼ぶ習慣を廃して、単に数字の順番で呼ぶため、その歴史的背景にはまったく無頓着だが、January から December まで、きちんとした呼称を保存している欧米人にとっては、「3月が年初」という感覚は、まるで盲腸のようにわずかながらに残っているのではあるまいか。
ちなみに我が国の月の呼称は、代表的なものが 「睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走」 である。
この覚え方はいろいろな流儀があるようだが、私は独自に 「むつきさや うさみふはなが かみしもし」 という 五七五の俳句形式で覚えた。
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コメント
暦のお話、大変勉強になりました。これからも、知のヴァーリトゥードで知性を磨かせていただきます。
投稿: あとりえ・チビッコ | 2005年5月18日 10:05
Augustusはアウグストゥスと読んでいるのに、なぜCaesarをカエサルと読まないのですか?
投稿: un-un | 2005年5月25日 22:58
>Augustusはアウグストゥスと読んでいるのに、なぜCaesarをカエサルと読まないのですか?
あはは、そうですね。(^o^)
失礼しました。
「ユリウス」 となると、「ジュライ」 からかけ離れるような気がして、つい無意識に 「ジュリアス・シーザー」の方にはまっちゃったんですね。
しかし考えてみると、「オーガスト」 からも離れちゃってますから、下手な考え休むに似たりということになっちゃいましたね。
投稿: tak | 2005年5月26日 17:34