「もったいない」という言葉
近頃、にわかに「もったいない」という日本語が脚光を浴びている。ケニアの女性環境保護活動家のワンガリ・マータイさんが、来日した時に感銘を受けた言葉として、世界中に広めようとしておられる。
「Mottainai Tシャツ」 なんてものまであって、私も 1着欲しい。
確かに「もったいない」という言葉は貴重な言葉である。私は外国語は英語しか知らないが、少なくとも英語では「もったいない」という言葉のニュアンスをちゃんと表現する言葉がないと思う。
辞書を引くと、確かに "wasteful" とい単語が出てくる。"Waste" というのは「浪費(する)」とか 「廃棄物」という意味で、"wasteful" は、そこから派生した形容詞である。「浪費的」とは、どちらかというば論理的な言葉だ。
"What a waste!" という英語はよく使われるようで、「もったいない」に最も近いかもしれない。しかし、何となく無駄遣いしてしまったものに対する結果論的なニュアンスがある。
それに対して「もったいない」は無駄遣いする前に戒める言葉という側面があるように思える。そして、論理的と言うよりは観念的で、「思い」から発する言葉である。
日常生活では、人は時として論理を裏切る。私も、「こうすればうまくいく」というのがわかっているのに、腰があがらなかったりする。しかし深い「思い」というものは、なかなか裏切ることができない。「もったいない」を深い思いとすれば、環境破壊は少なくとも減速される。
そんなことでうまくいくものかと言う人もあるだろうが、私はそこまで人間に失望してはいない。
ところで、「もったいない」というのは、「勿体ない」である。「勿体」とは、Goo 辞書では、以下のように出てくる。
(1) 態度などが重々しいこと。威厳があること。
「―がある」
(2) 態度や品格。風采。
「遣手にしては―がよし/歌舞伎・助六廓夜桜」
「もったいぶる」とか「もったいをつける」 などというと、嫌らしい意味になるが、本来はいい意味の言葉のようだ。ところが、この意味で 「勿体ない」というと、「威厳がない」ということになってしまう。
日本語の「もったいない」は、この直訳的流れではなく、言外の深い意味合いがありそうだ。それは、「そのもの本来の威厳(価値)が生かされない」ということで、それを惜しむというニュアンスなのだろう。
ところで、私の持っている三省堂の携帯新漢和中辞典には、「勿体」は「物体」とも書く(読みは「もったい」のまま)とある。「物体」は、近代では 「ぶったい」 の読みになって、物理的な「もの」という意味となった。
ここからのインスピレーションで、『般若心経』の「色即是空、空即是色」が浮かんでくる。
宇宙の全ての現象(「色」)の真の姿は「空」であるが、その「空」とは決して「虚無」ではなく、「空」の現れとして「色」があるのだから、現象の姿の深奥に宇宙の本質はうかがわれると、釈尊は説かれている(と、私は解釈している)。
「物体」は、「もの」の姿をしてこの世に現れているが、単に「もの」というだけではなく、その本質は仏の慈悲の顕れなのだから、あだやおろそかにはできないというわけだ。
なお、昨年に書かれた記事のようだが、紐育日記の "「もったいない」 に込められた気持ち" にトラックバックさせていただいた。
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