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2005年7月14日

リンドン・ジョンソンの選挙キャンペーンソング?

ウッディ・ガスリーはアメリカの第二国歌といわれる "This Land is Your Land"(邦題:「我が祖国」)で知られるが、その息子、アーロ・ガスリーも、見過ごせないところがある。

彼の代表作は 「アリスのレストラン」 ということになっていて、その映画化作品には、あのピート・シーガーも出演していた。

「アリスのレストラン」が注目された直後だから、多分 1968年頃のリリースだと思うが、彼のライブハウスでのパフォーマンスを録音した "ARLO" というアルバムがある。これがなかなか面白い。

3曲目に "Try Me One More Time" という何の変哲もないカントリーソングのスタンダードを歌うのだが、曲の前フリに、「次の曲は、リンドン・ジョンソン じいさんが大統領選挙キャンペーンに使った歌です」 と言って、歌い始める。

その歌は、翻訳すると、まあ、こんな歌である。

そうさ、わかってる、俺はいい加減だったよ
君を何度も何度もだまし続けてきたさ
でも、今はどうか俺に慈悲を垂れてくれ
俺を引き戻して、そしてもう一度試してくれないか

最初の行は、原詩では "Yes, I know I've been untrue" というのだが、この部分を歌い終えるか終えないかのうちに、客席は大爆笑に包まれる。

いうまでもないが、リンドン・ジョンソンは、ジョン・F・ケネディが暗殺されたために、自動的に副大統領から大統領の地位にスライドした人である。そして、ケネディの残りの任期を勤め終えた後も大統領選挙に勝ち、合計 6年間米国大統領の地位にあった。

このアルバムは、彼の大統領任期が終わりに近づいていた頃に録音されたものである。ベトナム反戦運動の盛り上がりもあって、彼はかなりのレイムダックぶりだったから、この前フリのあとの歌は大受けしてしまったわけだ。

2行目の歌詞は、本歌は "And I have hurt you through and through" (何度も君を傷つけ続けてきた) だが、アーロは "And I have been cheeting you through and through" (何度も君をだまし続けてきた) と歌っていたように思うのだけれど、今、LP を再生するハードがないので、確認できないのが痛恨だ。

アメリカのベビーブーマーズ、とくにフォークソングなぞを歌う層は、民主党びいきが多いのだが、ジョンソンはベトナム戦争を拡大させたために、民主党支持者からも嫌われた。

単なるやさぐれ男が、恋人に愛想づかしをされそうになり、「頼むから、もう一度チャンスをおくれ」と哀願する歌を、時の大統領の選挙キャンペーンソングだったというあたりが、アーロのジョークの冴えているところだ。

日本にはこうしたジョークに使えそうな歌謡曲がないなあと、当時の私はアメリカの音楽シーンをうらやましく思いながら聞いていたのであった。

最近は CD の時代になってしまったので、当時購入した LP を聞くことができないのが残念だ。手持ちの LP の中で、また聞きたいものだけでも CD で買い直したいものだが、それをしたら、多分、50万円ではすまないだろうなあ。

レンタル CD 屋なんて、ベストセラーとコミックしか置いてない書店みたいなもので、欲しい CD はまず見つからないし。

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