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2005年8月16日

ヘンリー・フォードと畳

『さおだけやはなぜ潰れないのか』 という本が話題になり、それに関連して、「街の洋品店はなぜ潰れないのか」が話題となった際に、私は「街の洋品店は、本当はよく潰れてる」という事実を書いた。

それで、今度は畳屋である。なぜ、街の畳屋は潰れずに済んでいるのかという疑問だ。

これだけ住宅事情が洋風化して、畳の部屋が減っている昨今である。多分、街の畳屋さんも激減しているに違いない。それでも皆無にはならない。路地でひっそりと畳を作っていたりする。

畳の大量生産というのは、多分ある。柔道や合気道の道場に敷き詰められている畳は、本当の畳表ではなく、なんだか合成素材っぽいもので覆われていて、いかにも工業生産という感じである。しかし、畳の世界はそれだけではないようなのだ。

以前、ヘンリー・フォードが自動車の大量生産に関するデモンストレーションを行ったというエピソードを聞いたことがある。

彼は米国の自社工場で生産された 2台の T型フォード(だったと思う、違ってたらゴメンなさい)を英国に運び、そこで 2台とも分解して部品をシャッフルし、もう一度 2台の車を元通りに組み立ててみせ、英国人を感嘆させたという。

今でこそ当たり前の話で、何が感嘆に値するのかわからないくらいのものだが、このデモをしてみせた当時は、自動車は手作業で生産されるものだった。つまり、馬車と同様にカスタム仕様だったので、すべての部品に互換性を持たせるなんていうことは、思いもよらなかったのである。

畳の話に戻る。木造住宅の場合は今に至るまで、このヘンリー・フォードがデモンストレーションをしてみせる以前の状態のままのようなのだ。つまり、一枚一枚の畳が特注生産であり、標準という意識からは遠いようなのだ。

20年ほど前、我が家の一帯が台風による洪水に見舞われ、我が家もなんと、床下浸水ということになった。幸い、床上までは来なかったのだが、念のため一階の六畳間の畳を剥がし、二階に運んだのである。

水が引き始めて二階に上げた畳を下ろし、元のように敷き詰めようとして驚いた。適当に敷こうと思ったら、敷けないのである。つまり 6枚の畳のサイズがすべて微妙に違っていて、それぞれの畳が元の位置にくるようにしないと、部屋にぴったりと収まらないのだ。

つまり、畳というのは、部屋に合わせて特注されるモノのようなのだ。ただ合理的に考えれば、部屋のサイズを聞いて割り算することで、畳のサイズは自ずから決まる。

しかし、そこはそれ、すっきりとした対称形を潔しとしない日本文化である。六畳間でも、単に 2枚× 3枚で並べるなんてことはしない。図のような形に並べないと、気が済まないようなのである。

これでも、少なくとも、畳 1 と 畳 2、畳 3 と 畳 6、畳 4 と畳 5 だけでも互換が利きそうなものだが、そこはそれ、そんな野暮はしない。周囲の柱の位置や障子、襖との整合性を微妙に取ってあるので、やはり元通りに敷き直さないと、収まりがつかない。

一般的な伝統工法の木造家屋は、「標準化」という発想が極めて希薄なようだ。細かいところは、大工の棟梁の胸先三寸で決められるのではないかと思ってしまうほどなのである。

まあ、一度建ててしまった 2軒の住宅を解体して、床板や柱や梁をシャッフルしてまた建て直すなんてことはないので、標準化のニーズは薄いのだろう。

しかしこれでは、不要になった畳をもらってきて自分の家に敷くなんてことはできない。畳のリサイクルは、畳表を張り替えるなど、同じ家の中でしかできないようなので、ちょっと不便である。

檜造りの高級住宅などは別として、一般的な住宅は標準化された部品の組み立てという発想にすれば、日本の木造住宅はもっと安く供給されるだろうにと、私なぞは思ってしまう。それともそれは、「ツーバイフォー」の世界になってしまうのだろうか。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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コメント

木造在来工法の設計は柱をグリッドの上に配置するシステムと一定の畳を並べてその周りに柱を配置するシステムの二通りがあるそうです。

グリッド上に柱を配置すると構造体の設計や施工は単純になりますが部屋は壁の厚みだけ削られます。しかも部屋の広さ、短辺と長編で削られる割合は異なりますから畳はその部屋専用の大きさになります。元より特注ですし並べ替えることは考えていないのでしょう。
一定の畳を並べて周囲に柱を配置する方法では畳の大きさは規格化されますが部屋の広さにより柱の間隔が異なるので構造体の設計、施工は複雑になります。この場合はリサイクルも可能で並べ替えも可能と思われます。

・京間と江戸間
http://www.tuziwa.jp/igusa/story.htm
http://www.architects.jp/faq.html#a9

経済的、美的な観点から建築を整然と規格化したいという要求は昔からありますが壁の厚みのために角の部分で内装・構造・外装にズレが生じるのでその辺りが工夫の為所のようです。

投稿: uma | 2006年9月15日 22:23

uma さん:

情報、ありがとうございます。

畳の並べ替えがきかなかったのは、我が家が関東だからということのようですね。

なかなか面倒なことのようで、驚きました。

投稿: tak | 2006年9月16日 01:24

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