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2005年10月26日

選挙って、「おもしろい」か?

朝日新聞の世論調査で、今回の総選挙を「おもしろかった」と答えた人が 52%で、「そうは思わない」の 39%を上回った。(詳細

 

「今回の総選挙はおもしろかったと思いますか?」なんて妙な設問を、あの朝日に思いつかせたほどなのだから、確かに今回の総選挙は「おもしろかった」のだろう。

私がこれまでは意識していなかっただけなのかもしれないが、大新聞の世論調査で、「選挙がおもしろかったかどうか」なんてことが聞かれた例しを知らないのである。

世の中には「三度の飯より選挙が好き」なんていう人も結構いて、とくに田舎では、選挙と聞くとアドレナリン出まくりになるオヤジもいるが、そもそも、これまでの選挙なんてものは、いわゆるフツーの人間には決して「おもしろい」というほどのものではなかった。

ところが、今回の総選挙では、「とりわけ20代では『おもしろかった』が男女とも 6割以上だった」というのだから、何かがとても大きく変わっていたのである。20歳代の若者というのは、これまで最も選挙にしらけていた層なのだから。

これについて、「若者が選挙に関心をもつようになったのはいいこと」と捉える向きもある。低投票率だと、組織票が実態以上の結果を生むという問題があるし。

しかし、朝日の報道はそれとは別の意図を持っているように思われる。(以下引用)

自民候補に投票したと答えた人は、メディアの選挙報道から「影響を受けた」と答えた比率が他党候補に投票した人より高く、一番参考にしたメディアとしてテレビを挙げる割合も高かった。与野党とも、世論を突き動かす「メディア選挙」の深化とともに、その怖さも感じ始めている。

(中略)

総選挙で一番参考にしたメディアは、「テレビ」が51%、「新聞」が40%、「インターネット」が4%だった。自民候補に投票した人では「テレビ」が56%と多く、「新聞」は39%。一方、民主候補に入れた人は「新聞」が48%、「テレビ」が44%と、対照的な結果となった。

自民党に投票した人は、テレビに踊らされた軽薄な人で、民主党に投票した人は、新聞で冷静に情報収集をした理知的な人というイメージを、言外に強調しているように思うのは、私だけかなあ。

このあたり、選挙中の「自民支持者は IQ が低くて、民主党支持者は高学歴」みたいなイメージ操作を、朝日が執念深くなぞっているような気がする。もっとも、そうした意識こそが、今回のような選挙にマッチしなかったわけなのだが。

とはいえ、「与野党とも、世論を突き動かす『メディア選挙』の深化とともに、その怖さも感じ始めている」というあたりは、確かにその通りなのだろう。イメージ戦略次第で、選挙結果が大きくぶれることになるのだ。

「若者が選挙に関心をもつようになったのはいいこと」なんて、単純に喜んでもいられない。単に雰囲気で投票する「浮動票」に選挙対策のフォーカスが移るのは当然だからだ。今後、選挙はますます「イメージ戦」になり、本質論はおざなりになる。

投票率が上がることだけを喜んで、「政治ショー」的な演出ばかりになってもいいというなら、「健康のためなら死んでもいい」というジョークと同じになってしまう。「投票しないヤツはガタガタ言うな」と割り切る方がまだましなような気がする。

「うちに 1票あり。売ろうか」と書いた故・山本夏彦氏は、女子供にまで選挙権はいらないと、フェミニストなら必ずいきり立つ警句を吐いておられた。

民主主義というのは、永遠に成熟しないどころか、下手するとすぐに堕落する制度なのだ。人間は案外堕落が好きだから、民主主義のコンセプトの中に、見えない「堕落」は既に包含されている。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

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