« 後楽園の 「流店」 は、いい! | トップページ | 「妬み」 と性差 »

2005年10月 8日

最先端技術と融合する 「生命」

一卵性双生児は、まったく同じ遺伝子から生じた別個の人間である。遺伝子は完全に同じでも、別のパーソナリティをもつということは、一体どういうことなんだろう。

"著名発明家が予測 「人類は最先端技術と 『融合』 する」 (上)" というニュースを読んで、そのことについて考えた。

コンピューター科学者としても知られるレイ・カーツワイル氏は、人類の未来について記した新刊書、『シンギュラリティーは近い』 (The Singularity Is Near) の中で、そう遠くない未来に、テクノロジーと生物学は 1つにまとまり、非生物学的な生命を生み出すだろうと予測している。

その根拠となるのは、遺伝子工学 (G)、ナノテクノロジー (N)、ロボット工学 (R)、すなわち 「GNR」 が数十年後に 1つにまとまるという予測である。

この考えに基づき、「シンギュラリティー以降は、人間と機械の区別も、物理的現実と仮想現実の区別もなくなるだろう」 と、カーツワイル氏は述べている。

彼のアイデアが実現されれば、「15年後には、新しいテクノロジーによって寿命の延長が始まり、われわれは 21世紀の終わりまで生きられるようになり、さらには永遠の寿命を手にするかもしれない」 というのだ。

彼の言う 「永遠の寿命」 というのは、「生命体」 というもののコンベンショナルなコンセプトを 「パラダイムシフト」 させたもので、つまり、「物質でできた肉体に宿る生命」 という考えから離れたものになるだろう。

ここで私は、カート・ヴォネガットという作家が 「人間はロボットであり、機械である」 「私は人間を巨大なゴム製の試験管にみたてることもある」 というコンセプトに基づいて書いた 『チャンピオンたちの朝食』 という小説を思い出す。

彼の小説にあるのは、人間は肉体構造の変化のみならず、頭の中で起こる 「想念」 とか 「感情」 とかいう現象、さらに 「誰かが誰かに恋する」 ということさえも、すべて脳内物質の化学変化によってもたらされるというアイデアだ。

世の宗教者は、こうしたアイデアに本能的に反発する。我々の営為がすべて化学変化で説明できるということになったら、「人間の尊厳」 が、守られないと感じるのだ。

むむむ。私はまたしても、ヴァルネラブル (vulnerable : 攻撃誘発性のある)なことを書こうとしている。あちこちで書かれていることだが、「政治」 「宗教」 「ジェンダー」 は、ネットの三大タブーなんだそうだ。これらについて書くと、荒れやすいらしい。

そんなことを言ったら、私なんて三大タブー冒しまくりである。これで、多少の波風が立つことがあっても、コメントがそれほど荒れることがないのだから、ウチの客種 (きゃくだね) はとてもクールでレベルが高いと、本心から感謝している。

話題を元に戻そう。この観点から見ると、いわゆる宗教者の論理には自己矛盾がある。アインシュタインは、「神はサイコロ遊びをしない」 と言って量子論を退けようとした。つまり、彼は煎じ詰めれば、「全てのことは (神の創造した) 物質の動きによって決定づけられる」 と言いたかったようなのだ。

しかし、その直後に量子論の正しさが証明されるにいたり、「神はサイコロ遊びをする」 のだということが、わかってしまった。一つのきっかけが、その後の過程において予測不能の現象を次々に引き起こすというわけだ。

とても比喩的に言えば、「サイコロ遊びをしない神」 つまり、「自由な現象を認めない神」 は否定されたが、「サイコロ遊びをする神 − 自由を認める神」  は、まだ否定されていないのである。

以前、別個の 2つのプロジェクトに関わってむちゃくちゃ忙しいときがあり、自分一人でそれをこなすのが大変な負担に思われたことがあった。

その時、私は思わず 「ああ、俺が二人いてくれたらなあ」 と独り言を言ったのである。「クローン人間開発はダメなんて、固いことは言わないからさぁ」

それを聞ききつけた知人の女性が、こう言った。「気持ちはわかるけど、それはだめよ。(遺伝子がまったく同じ) クローンでも、宿る魂が違うから、同じ人間にはならないわ」

「宿る魂が違う」 という指摘に、この時の私は、なんだか妙に納得してしまったのであった。肉体と霊魂を別個に考えるという伝統的な発想は、私の中で消えずに残っているのだ。

この発想を発展させれば、人間は肉体から離れて、より高度な自由を得てもいいではないかということになる。

カーツワイル氏の言う 「シンギュラリティー以降は、人間と機械の区別も、物理的現実と仮想現実の区別もなくなるだろう」 というアイデアは、「肉体から離れた霊魂」 とそれほど遠くない気がする。かなりリスキーだが。

彼の著書には 書名を記した広告をぶら下げたカーツワイル氏 が収められており、それは自身で 「この写真は、私が言っていることと、[キリストの再臨を信者たちが街頭で呼びかける] 千年期の予言との、表面的な類似性を茶化したものだ」 と、説明している。

このことは、とても示唆的だ。単なる 「茶化し」 ではなくなる可能性がある。今後は、宗教の 「原理的側面」 よりも 「倫理的側面」 が強調される必要に迫られるかもしれない。

毒を食らわば皿まで・・・本宅サイト 「知のヴァーリトゥード」 へもどうぞ

|

« 後楽園の 「流店」 は、いい! | トップページ | 「妬み」 と性差 »

学問・資格」カテゴリの記事

心と体」カテゴリの記事

哲学・精神世界」カテゴリの記事

コメント

ホットで低レベルの私が来ましたヨ

クローンでも、魂が違う・・・ってわからん。

クローンでも、違う環境で育てたら、結構
違う部分が出てくるとは思うけど、魂というのがわからない。
脳は同じだし・・・

カーツワイル氏が具体的にどういうことを
指したのかは知らないけど、人間の記憶を
何かの媒体に残して、クローン技術で作った肉体に戻す・・という形の不老不死なら、将来
できるかもしれないと何かで聞いたことが。
記憶を媒体で残せるってことは、魂はデジタル化できるってことだよね。
もちろん、脳なんてまだまだわからない分野だから、ひとつの仮定ですらないけど、魂が単なる信号だというのなら、すごく面白いなと。

クローンと、脳の記憶を合体というのは、なんか雲をつかむような話だけど、脳単体で生きてゆけるなら、それは不老不死とは言えないだろうかと思う。
我思う、故に我あり・・みたいな。
脳だけが生きてて、仮想現実で夢を見る。
マトリックスとか、SFで使い古された(笑)

ところで、おととい、光をある結晶に閉じ込めることにオーストラリアで成功したって書いてあったんだけど、量子コンピュータが実現して、コンピュータの情報のキャパが増えたら・・・

最終的に情報を処理するのが人の頭だというのがネックだよね。

投稿: kumi | 2005年10月 8日 06:55

よく言うよ。何が 「ホットで低レベル」 なんだか。

こんな小難しいこと、これ以上突っ込まれても、
わたしゃ、答えようがないわいな ^^;)

ところで、オーストラリアの光を 1秒以上閉じこめたって話は、すごい。
これまでは、フラクタル構造の中に、
1000万分の 1秒間だけ閉じこめたってのがあったけど、
それを大幅に上回る記録のようです。

投稿: tak | 2005年10月 8日 17:06

結局、科学では一番根本的なことが
解明されてないんだよね。

宇宙がどうして存在するのか。
人間の心は、脳の信号なのか。

一番知りたいことはまだわからない。
いつわかるとも知れない。

だから宗教や哲学に答えを求める。

私は哲学の本が全然読めなくて。
だから、takさんの話をちゃんと理解できてないんだろうなと思ってます。
ソフィーの世界すら放り出したし。

投稿: kumi | 2005年10月 8日 18:53

こんなヘッポコな私がコメントをするのも申し訳ないのですが「双子の性格について」一言。

双子の研究って、けっこうされていますよね。ネタになりやすいのもあるけど、やはりパーソナリティの研究においてコレほど面白い実験体はいないわけです。
双子が同じ性格にならない最大の理由は、「一緒に生活をするから」なんてのがあります。自分と同じ顔した人と生活をともにするというのは性格を形成する上、重要な意味も持ちます。自我を形成をする大切な時期に、性格まで相手と同じになっちゃうのは許せないわけで、無意識ながらも違う人間になろうとするわけです。相手との区別こそ、自我の存在理由(アイデンティ)の確立に繋がるという考え方です。
面白い研究結果に、生まれてからすぐに離ればなれになった双子の研究があります。彼ら(彼女ら)は、お互いの存在を知らないのにもかかわらず、同時期に結婚したり、同じ嗜好を持ったりすることがあるそうです。一緒に生活をしなかったら、もしかすると双子は同じパーソナリティになりやすいかも?なんてね…(^^;
すいません、ど素人が口を挟んでしまい。いつも楽しく拝見させてもらってます…。

投稿: 千軒町 | 2005年10月 8日 23:21

kumi 先生:

>結局、科学では一番根本的なことが
>解明されてないんだよね。

そこなんだよね。
私は、科学も結局は 「方便」 だと思ってるところがあります。

千軒町さん:

>双子が同じ性格にならない最大の理由は、「一緒に生活をするから」なんてのがあります。

へぇ、それ知らなかったけど、うなずけます。

「小さな違いが大きな違い」 という、私の好きなテーゼがあります。
近いほど、差異を発見して安心したがるのね。
(卑近な例ですが)
エレベーターに乗ったら、自分と同じネクタイの人がいると、
どうでもいいけど、かなりむっとするなんて、
同じ根っこの心理かな。

投稿: tak | 2005年10月 9日 07:30

千軒町さんのお話面白いですね。
いっしょに育つと個性が出る・・なるほど。

・・と、出かけるのに、つい覗いてしまう私w

ど素人だなんて、それは私ですよ~
科学は小学生向けの学習図鑑が好きなレベル。知ったようなこと書いてすみません。

投稿: kumi | 2005年10月 9日 12:20

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 最先端技術と融合する 「生命」:

» WIREDに興味深い記事が:「人類は最先端技術と『融合』する」 [NOISE's MONOLOGUE]
僕等音楽業界の人間なら、一度は耳にしたことのあるシンセメーカー『Kurzweil... [続きを読む]

受信: 2005年10月11日 17:47

« 後楽園の 「流店」 は、いい! | トップページ | 「妬み」 と性差 »